【コラム2】消費者に対する広告媒体者の法的責任(平成電電事件控訴審判決)
消費者に対する広告媒体者の法的責任
平成電電事件控訴審判決文を読む
弁護士 川 村 哲 二
※これは平成22年12月13日付メディア総合誌「文化通信」掲載
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1.はじめに
新聞広告を見て平成電電への出資をしたが、同社が倒産して損害を被った出資者が、広告を掲載した大手新聞社(朝日、日経、読売)を相手取った損害賠償請求訴訟について、東京高裁は12月1日、東京地裁の請求棄却判決を支持して、出資者の控訴を棄却した。
パチンコ攻略法の雑誌広告に関する雑誌社と広告代理店に対して損害賠償責任を認めた判決(本年5月12日大阪地裁判決)について8月23日付の本誌で紹介したが、今回の東京高裁判決は、逆に広告媒体者の責任を否定したものであるので、この判決の内容を見ていきたい。
2.平成電電事件とは
平成電電事件は、同社がNTTの通信網とは別の独自の通信網を使用する事業を展開するに際し、この事業の設備投資投資資金について一般投資家から出資を募るため、関連会社が匿名組合契約の募集を開始した。そして、この出資により購入した設備を平成電電にリースし、そのリース料を原資として、出資者に対して配当金を支払うという仕組みがうたわれており、これにより、平成15~17年までの間に、一般投資家から500億円近い出資がなされたとされている。しかし、平成電電は、平成17年10月に民事再生手続を申し立て倒産し(後に関連会社と共に破産)、通信ベンチャーの巨額出資詐欺事件として、社長が詐欺罪で懲役10年の判決を受けている。
そして、この出資募集広告が新聞紙面上の広告として掲載されており、広告を見て出資に応じた400名を超える出資者が原告となり、新聞社3社を被告として不法行為に基づいて損害賠償請求を行ったのが本件訴訟である。
3.今回の判決の概要
今回の東京高裁判決は、1審の東京地裁判決の認定、判断をほぼそのまま維持した。
まず、原告は、被告らの発行する一流新聞紙に対する社会的信頼は、新聞社の高い情報収集能力による新聞報道記事への信頼を背景に非常に高度なものであるとして、広告内容について一般的調査確認義務を負っている、と主張した。これについて、今回の判決は、「新聞広告が、新聞報道記事に対する信頼を背景に社会的な信頼を得ているとしても、新聞広告も、広告主が新聞の紙面を利用することについて対価を支払って自らの責任で読者に情報を提供する行為としての側面を有することは他の広告媒体による広告と同様であり、また、新聞広告において投資等の契約の誘引がされた場合においては、読者は、新聞広告の内容以外の様々な情報を入手したり、他の広告と対比したりする過程を経て契約の締結の可否を判断することになるのであるから、新聞社が、読者のために広告の内容の真実性や合理性を調査する一般的な法的義務を負っていると解することはできない。」として、広告内容について常に調査、確認すべき法的義務を認めなかった。
この判決の判断枠組みは、この一般的調査確認義務の存在を否定したうえで、「しかし、他方で、新聞広告に対する読者らの信頼は、高い情報収集能力を有する当該新聞社の報道記事に対する信頼と全く無関係に存在するものではないから、広告媒体業務に携わる新聞社は、新聞広告の持つ影響力の大きさに照らし、広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見し得た場合には、新聞広告に対する読者らの信頼を保護するために、広告内容の真実性を調査確認することにより、虚偽の広告が掲載されることを回避すべき義務を負っている」として、従来の最高裁判決(日本コーポ事件、平成元年9月19日判決)に従っている。
そして、「広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情」の有無につき、広告掲載開始時に、年8%以上の利息を返済するような事業が存在しないと断定はできず、新聞社が平成電電のような新規の事業につき将来の成否、収益率を予想することは困難で、新聞広告審査協会の審査報告書の記載内容を見ても配当の実現性について疑念を抱くのが当然とはいえない、とした。また、広告掲載開始以後の経緯においても、配当が不可能になるとの疑念を抱くべきだったとはいえない、として、損害賠償義務を否定した。
4.本件判決の評価
前記最高裁判決の枠組みは、その後の媒体者責任事件の下級審判決が踏襲し、本件と同じく利殖商法である大和都市管財事件に関して新聞社の賠償責任を追及した事件(平成16年12月9日名古屋地裁判決)でも、やはり同様に「特別の事情」の存在を否定している。一方、媒体者責任を認めた前記パチンコ攻略法事件でも同じ判断枠組みを採用しているが、この事件では「特別の事情」を認定したうえで、真実性の調査をしていないとして雑誌社らの過失責任を認めているのである。ただ、このパチンコ攻略法事件は特殊な事案における判断であったといえることから、今回の判決を含め、大手新聞社の広告について媒体者責任を裁判所に認めてもらうことはかなりハードルが高いということになろう。
しかし、銀行や証券会社が窓口となるような投資商品であればともかく、本件のように、一般人に対して非上場企業の新規事業への出資で高配当が期待できるかのような勧誘広告については、これまでの利殖商法の事例などを見ても、大量の出資被害が発生する危険性は充分に感じられるはずであり、「特別の事情」有りとして新聞社に広告内容の真実性の調査確認義務を認めてもよかった事例ではなかったかと思う。
5.まとめ
今回の判決は新聞社の責任は否定されたものの、以前にも指摘したが、現在の経済環境の下、マスメディアの広告にも、内容に疑問のあるものが増えてきたように感じられ、現実に広告による被害が多発することになれば、裁判所が広告媒体者の法的責任を認める事例も増えるであろうと考えられる。
なお、最近の報道によれば、本件と同じく巨額詐欺出資事件である「円天」事件に関し、社のイベントに出演していた歌手に対して損害賠償を求めた訴訟の判決で東京地裁は11月25日、歌手の積極的関与を認めず請求を棄却する判決を言い渡したとのことである。新聞社などとは異なる立場ではあるが、これも広告関与者の法的責任に関する判決であり、紹介しておきたい。
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