2020年9月 9日 (水)

「京都芸術大学」名称差止訴訟判決を引き続き考える。

 前回のブログ記事で、「京都芸術大学」名称差止訴訟判決をご紹介しました。

 その中でもちょっとだけ触れましたが、最後の「京都市立芸術大学」「京都芸術大学」の表示の類似についての判断よりも、市立芸大が主張していた「京都芸術大学」周知性が否定された点が一番の分岐点ではないか、と思うのです。

 ちょっと意地悪に考えてみると、これが、青山学院事件のように、京都から離れた広島の呉あたりで、「京都芸術大学」が設置されたとすれば、さて、どうなったかな、というと結構面白い思考実験になるのかな、と思います。今回の判決の判断からすれば、今回よりも離れているので、もっと「京都芸術大学」周知性は認められなかったことに当然なるのですが、実際にそう考えられただろうか、あるいは、その場合でも「京都市立芸術大学」との類似が認められなかったか。いや、私も現時点でよくわからんのですが。

 さて、この判決について、昨日(9/8)、知的財産権がご専門の島並良神戸大学教授がTwitterで次のように投稿されておりました。

「京都芸術大学事件の大阪地判を読む。同判決は、「京都市立芸術大学」の著名性を否定。周知性は肯定しつつ、その構成要素のうち「市立」部分のみ自他識別機能が高いとして、要部「京都市立芸術大学」全体と認定、結論として「京都芸術大学」とは非類似と判断。」

「たしかに静的にはあり得る判断だが、被告が「京都造形芸術大学」から「京都芸術大学」に改称したという経緯は、結論に影響を与えていないように見える。こうした意図的な「擦り寄り」行為等、動的な側面を標識法がどのように捉えるべきかを考えていく必要がある。」

「特に本件では、原告側が「市立」という誤認防止要素を含むばっかりに、それを欠く一般的な「京都芸術大学」を、「造形」を削除するという「擦り寄り」によって許す結果となった。最初から「市立」を含まなければ良かったというのでは、誤認防止に努めた者に却って不利益を与える結果とならないか。」

「本判決は、「混同のおそれ」ではなく、それ以上に規範的な「類似性」非充足で請求を棄却した。何をもって類似と捉えるかは標識法の永遠のテーマだが、「市立」「造形」でせっかく識別されていた状況を造形を除くことでより悪化させた、という経緯をも類似性判断に取り込むことはあって良いのでは。」

 島並教授が指摘されている「擦り寄り」行為等の動的側面を考慮すべきではないか、というのは、大変興味深い考え方に思えます。

 そして、これは、大阪公立大学の英語表記問題にもつながるところかもしれませんね。そちらの問題についての当ブログの記事はこちら。

 → 「大阪公立大学の英語名称「University of Osaka」」 (6/30)

2020年9月 7日 (月)

「京都芸術大学」の名称の差止訴訟判決(請求棄却・不競法)

既に、報道でご存じの通り、公立大学法人「京都市立芸術大学」(以下、市立芸大)が、学校法人「瓜生山学園」が設置する「京都造形芸術大学」「京都芸術大学」に改称することについて(令和2年4月1日に改称を実施)、不正競争防止法違反であるとして、「京都芸術大学」の名称の差止を求めていた裁判で、大阪地方裁判所は、8月27日、差止を認めない判決(請求棄却)を言い渡しました。

 判決が裁判所サイトで公表されましたので、ちょっと概要を見ていきたいと思います。なお、学校名で同様の紛争になったものとしては、「青山学院事件」(東京地裁平成13年7月19日判決)がありますので、興味のある方は調べてみてください。こっちは差止が認められています。

 → 判決文はこちらから(裁判所サイト)

 原告の市立芸大が差止の請求の根拠としたのは、不正競争防止法2条1項1号(周知表示混同惹起行為)2条1項2号(著名表示冒用行為)です(商標権や著作権は無関係です。)。どちらも、有名な商品(サービスを含みます)などの名称や包装、容器のデザインなどのコピー商品を製造したり販売したりする行為を禁止するものです。

 1号の周知表示混同惹起行為は、他人の商品・営業の表示(商品等表示)として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の表示を使用し、その他人の商品・営業と混同を生じさせる行為であり、2号の著名表示冒用行為は、他人の商品・営業の表示(商品等表示)として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為、で、似ているのですが、違いは、

 2号の著名表示冒用行為では、その商品等の表示が「著名」であることが必要で、これは、全国的に一般に知られている、というかなり有名ブランドという感じです。一方、1号の周知表示混同惹起行為では、「周知性」が要件となっていて、これは、「著名」ほど有名でなくてもいいが、商品等の取引の相手方(需要者)には広く知られているという要件で、全国的でなくても、一地域での周知性でも足りるとされます。
 この点では2号より、1号のほうが緩い(広い)ことになりますが、1号では、その表示を行うことにより本家と「混同」を生じさせる、という要件が加わります。2号では、この要件は必要ないので、その点では2号にメリットがあることになります。
 つまり、「著名」な商品表示に類似した表示を使用すれば、それだけでアウトで、「周知性」のある表示(「著名」まではいかない)に類似した表示を使用した場合については、その表示で「混同」が生じた、ということが必要になります。どちらで差し止めてもらっても、効果は変わりませんので、市立芸大は、両方とも主張ということになります。

 さて、芸大の事案については、裁判所はどう判断したでしょうか。

 市立芸大が差止を求めているのは「京都芸術大学」ですが、これに類似する市立芸大側が使用している表示(原告表示)として次の5つの表示を挙げました。

1 京都市立芸術大学
2 京都芸術大学
3 京都芸大
4 京芸
5 Kyoto City University of Arts

 本件裁判の争点は、以下の通りです。

  1. 不正競争防止法2条1項2号該当性(争点1)
    ア 原告表示1~5の「著名」性の有無等(争点1-1)
    イ 原告表示1~5と本件表示との類似性の有無(争点1-2)
  2. 不正競争防止法2条1項1号該当性(争点2
    ア 原告表示1~5の周知性(需要者の間に広く認識されていること)の有無(争点2-1)
    イ 原告表示1~5と本件表示との類似性の有無(争点2-2)
    ウ 本件表示の被告の使用による原告の営業との混同惹起の有無(争点2-3)
  3. 本件表示の被告の使用による原告の営業上の利益の侵害又は侵害のおそれの有無(争点3)

 判決は、まず、原告表示1~5全部について「著名」とはいえない(争点1-1)、として、2号の著名表示冒用行為を否定しました。

 そして、「周知性」に関しては(争点2-1)、原告表示1の「京都市立芸術大学」については、原告大学を表示するものとして需要者に広く認識されており,周知が認められる、としましたが、その他の原告表示2~5については、周知とはいえない、としました。ここで、特に、原告表示2の周知性が認められなかった点は、結論にひびいていますね。

 ここまでの判断により、原告表示1「京都市立芸術大学」と被告の「京都芸術大学」が類似するか、が問題になります(争点2-2)。

 判例上、ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似のものか否かを判断するに当たっては、取引の実情のもとにおいて、取引者などが、両者の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断する、とされています。今回の判決もこの基準に拠っています。

 そして、「京都」「芸術」「大学」の各部分は、自他識別機能又は出所表示機能はいずれも乏しいとしましたが、「(京都)市立」の部分の自他識別機能又は出所表示機能は高いとしました。そうすると、「原告表示1の要部は、その全体である「京都市立芸術大学」と把握するのが相当であり、殊更に「京都」「芸術」の間にある「市立」の文言を無視して「京都芸術大学」部分を要部とすることは相当ではない。」としました。

 続けて、判決は、「京都市立芸術大学」「京都芸術大学」は、その要部を中心に離隔的に観察すると、「市立」の有無によりその外観及び称呼を異にすることは明らかであり、観念についても、「市立」の部分により設置主体が京都市であることを想起させるか否かという点で異なる。取引の実情としても、需要者は、複数の大学の名称が一部でも異なる場合、これらを異なる大学として識別するために、当該相違部分を特徴的な部分と捉えてこれを軽視しない。そうすると、取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が、両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるとはいえず、そうである以上、「京都市立芸術大学」と「京都芸術大学」とは、類似するものということはできない、と判断しました。

 要約すると、「京都市立芸術大学」の名称は、周知性はあるが、著名ではなく、両者は、「市立」の有無により、外観、称呼、観念が異なるから類似とはいえない、ということになります。

 なお、今回の判決とは直接の関係はありませんが、商標権に関連して、8月12日付で、昨年7月11日に市立芸大が出願していた「京都市立芸術大学」商標権特許庁が認めて登録しています。また、これと別に、同じく昨年7月、瓜生山学園(17日)と市立芸大(18日)は、「京都芸術大学」商標権をそれぞれ出願していますが、こちらは両方ともまだ「審査中」になっています。

【追記】(9/8)

 京都市立芸大が控訴したとのことです。

 → 京都市立芸大「控訴についての理事長コメント」

【追記】(9/9)

 続編を書きました。

 → 「「京都芸術大学」名称差止訴訟判決を引き続き考える。」 (9/9)

 

2020年6月30日 (火)

大阪公立大学の英語名称「University of Osaka」

 先日、大阪府立大学大阪市立大学を統合して2022年春に開学する大学名が「大阪公立大学」と発表されました。それ自体は問題は少ないと思うのですが(個人的には、もっといい名前にしたらいいのに、と強く思うのですが、それはそれとして)、この大阪公立大学の英語名を「University of Osaka」とするとされたことが、国立の大阪大学英語の正式名である「OSAKA UNIVERSITY」と混乱するのではないかと、問題になっています。

 この問題について、大阪大学は6月26日に、総長名で、大変驚いている、と表明し、大阪公立大学の英語名称は、大阪大学の英語名称と酷似しており、「今後、受験生や本学の学生・卒業生をはじめ、一般市民の皆様、特に海外の研究者、学生に大きな混乱を招き、世界にはばたく両大学の未来にとって非常に大きな障害となることは必至です。そのような事態にならないよう憂慮しておりましたが、結果として、双方の間で意見交換が行われないまま決定がなされたことは誠に残念でなりません。」として、配慮をお願いしたい、としました。

→ 大阪大学「公立大学法人大阪が設置する新大学の英語名称について」

 そして、大阪大学は、6月29日、「大阪公立大学の英語名称とされる「University of Osaka」は、すでに海外等で大阪大学の名称として広く使用されている実態があり、本学を表すものとして一般的です。今後も、英語名称の「University of Osaka」大阪公立大学を示すものとしてではなく、大阪大学と認識されると思われますので、多くの関係者の皆様に無用の混乱を招くことのないよう、引き続き、改めて大阪公立大学の英語名称を再考いただくことを強く申し入れる所存です。」と、海外での従来の使用事例を掲げたうえで、重ねて表明しています。

→ 大阪大学「「University of Osaka」が大阪大学の英語名称として使用されている実態」

 これに対して、大阪府の吉村知事は、混乱は招かない、として英語名称は変更しないとコメントしている模様です。

 私は大阪大学の出身ですが、身びいきとかでなくて、この英語名称は、特に国内外の外国人の皆さんに混乱を招くことが明らかであり、これから名称を決める大阪公立大学側が、この英語名称に固執する理由はよくわかりません。

 なお、このような学校名称の類似についての裁判例としては、青山学院大学の事件があります(東京地判平成13年7月19日)。これは、不正競争防止法に基づいて、「呉青山学院中学校」の名称の差止と損害賠償を求めた裁判で、判決では名称の差止を認めました。

 また、同様の紛争としては、京都造形芸術大学(私立)が名称を京都芸術大学に変更したことに対し、京都市立芸術大学が混乱を招くとして名称差止を求めて提訴しており、現在、大阪地裁で審理がなされています。

 大阪公立大学側が方針を変えないのであれば、大阪大学としては、同様に不正競争防止法に基づいて訴訟を提起すべきだと私は思います。大学の威信とかどうとかではなく、今後、多くの人たちに混乱を招く結果となるからです。

2020年5月19日 (火)

「判例による不貞慰謝料請求の実務 最新判例編vol.1」(中里和伸弁護士著)

 新型コロナ自粛で、かえってバタバタしているような感じで、ブログ更新も途切れております。

 私が担当している法科大学院の講義も今年はZOOMによる遠隔web授業となり、教室でのリアルな講義とは違った難しさやら面白さがありますが、試行錯誤で学生さんたちに助けられながら進めております(昨日、第3回をやりました)。また、弁護士会関係の会議や消費者団体の理事会などもweb会議の利用が当たり前になり、先日の某研究会でも、大阪の研究会なのに九州など遠隔地の皆さんが地元から参加され、終了後にはweb呑み会に移行するという「新しい生活様式」が始まっていたりもします。


 さて、先日発行されました「判例による不貞慰謝料請求の実務 最新判例編vol.1」(中里和伸弁護士著・LABO刊)を編集者からご恵贈いただきました。

この本は、同著者による「判例による不貞慰謝料請求の実務」「判例による不定慰謝料請求の実務 主張・立証編」2冊の続編です。この以前の本についても、当ブログでご紹介しています。

 → 「書籍の紹介:「判例による不貞慰謝料請求の実務」(中里和伸著)」 2015/8/5)

 → 「「判例による不貞慰謝料請求の実務〔主張・立証編〕」(LABO刊)」2017/3/ 3)

今回の3冊目は、上記の本の出版からそれぞれ5年、3年を経過し、その後も多くの裁判例が出ているため、その続編として、最新裁判例を集積し、分類して、解説を加えたものということになります。本の帯によれば、「平成28129.から令和元918までの最新判例全290例を新規に掲載」とのことで、不貞に関する慰謝料請求という狭い範囲のテーマで争われた裁判で、しかも、(和解などで終わらずに)判決にまで至っているものが、これだけの数があるのだ、ということに、一般の方は驚かれるかもしれません(おそらく公表されず、著者が入手できなかった判決も相当数存在すると思いますが)。

ということで、前2書より分厚くなっていて、ちょっとお高いですが、実務家、研究者、マニアの方には重要な資料かと思います。是非。

2019年12月23日 (月)

口コミ代行業者に関する記事にコメント載りました。

 ネットニュースのJ-CASTニュースの12月22日の記事「口コミ代行が横行?「1件6000円~」も 弁護士が指摘する問題点」にコメントが掲載されました(一番最後のところです。)。

 ご興味のある方は是非お読みいただきたいのですが、私のコメント関連のところをちょっと補足したいと思います。

 景品表示法に関して、「処分対象は依頼側となる可能性が高く」というのは、景品表示法に基づく措置命令課徴金納付命令のような正式な法的処分については、その対象となる事業者は、「自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項」の表示をした者となっていますので、広告会社や広告媒体者(新聞、雑誌、テレビなど)は対象とならず、「依頼側」(=広告主)に対する処分に限られることになるからです。ただし、広告会社などにも、正式な法的処分ではありませんが、違反行為が起こらないように必要な措置を採るように消費者庁が「要請」を行うようなことは考えられます。例としては、2010年末のおせちで問題になった、いわゆる「スカスカおせち事件」では、消費者庁は、2011年2月に、おせちを販売していた会社に措置命令を出すと同時に、そのおせち商品を掲載していたグルーポンに対して、必要な措置(二重価格表示に関して)を要請したことがあります。

 → 「バードカフェおせち事件に関する措置命令及び要請(景品表示法・消費者庁)」 (2011/2/22)

 ただ、この要請は、法的処分ではなく、法的な拘束力があるわけでもありません。不当表示に関係した広告会社や広告媒体者については、上記の通り、景品表示法の行政処分の対象にはなりませんので、何らかの立法対応が必要ではないかと思います。なお、もちろん、詐欺的な宣伝に荷担したような場合は、詐欺や不法行為ということで、広告会社などに法的責任が追及される可能性はあります。

 また、記事にある「消費者庁の景表法ガイドライン」というのは、「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(PDF)のことです。該当個所は、これの4~5頁ですね。

 最後に、不正競争防止法(品質等誤認惹起行為)の判決(ライバル業者からの損害賠償請求訴訟)の紹介がありますが、これについては、当ブログの「自社開設を隠した口コミサイトの操作が誤認惹起行為とされた判決(不競法)」(2019/4/19)で取り上げています。

2019年11月12日 (火)

「判例から学ぶ消費者法〔第3版〕」(民事法研究会)が発行されました。

 「判例から学ぶ消費者法」の第3版(島川勝・坂東俊矢編)が発行されました。

民事法研究会サイト

 この本の初版から、「情報化社会と消費者」の章を書いており、今回も引き続き担当しています(第19章)。

 担当部分の裁判例2つの中身についてはあまり変わっていませんが、冒頭の「問題の所在」については、第2版(平成25年発行)以降の情報化社会の進展も激しく、それにまつわる事象の変化もありますので、アップデートのために加筆修正を行っています。

 私の担当個所以外でも、集団的被害回復制度の導入消費者契約法や民法(債権法)の改正など大きな動きがあり、それらをカバーする改訂内容となっています。

 本書の内容について、出版社サイトから以下に引用いたします。ご興味のある方は是非ご一読いただければと思います。


本書の特色と狙い

 約款、集団的消費者被害回復制度について新たに章を設け、民法(債権関係)、消費者契約法、特定商取引法、割賦販売法等の改正、消費者裁判手続特例法の立法から最新の重要判例も織り込んで約6年ぶりに改訂!

 訪問販売、クレジット取引、多重債務、金融商品取引、欠陥住宅、ネットオークションなど、消費者問題の各分野について重要な裁判例をもとに、消費者問題の理論と実務を解説!

 各分野の概説とともに、判決の概要・争点・判旨を紹介したうえで、判決の意義や社会に与えた影響などをわかりやすく示す!

 消費者法を学ぶ学生はもとより、消費者相談にあたる消費生活センター関係者、消費者事件を担当している弁護士・司法書士等の実務家にも必携となる1冊!

本書の主要内容

第1章 消費者問題総論

第2章 民法と消費者法

第3章 消費者契約法(1)─不当勧誘規制

第4章 消費者契約法(2)─不当条項規制

第5章 消費者団体訴訟制度

第6章 集団的消費者被害回復制度

第7章 約款と民法、消費者法

第8章 特定商取引法(1)─訪問販売、クーリング・オフ

第9章 特定商取引法(2)─継続的役務

第10章 特定商取引法(3)─マルチ商法とネズミ講

第11章 割賦販売法(1)─平成20年改正法とクレジット取引

第12章 割賦販売法(2)─クレジットカードの不正使用

第13章 多重債務と消費者

第14章 金融商品取引と消費者

第15章 保険と消費者

第16章 製造物責任と消費者

第17章 欠陥住宅と消費者

第18章 独占禁止法・景品表示法と消費者

第19章 情報化社会と消費者

第20章 宗教被害と消費者

第21章 医療サービスと消費者

2019年10月17日 (木)

即位の日の休日や来年の祝日のお話

 さて、来週22日は、天皇即位の日ですね。どうやら、台風による被害を考慮して、祝賀パレードは延期になりそうですが、即位自体は予定通りということになります。

 既にご承知のことと思いますが、この22日は休日となっています。カレンダーや手帳によっては、対応していなくて、特に記載のされていないものも多いようですので(私の手帳もそうです。)、お気を付け下さい。

 このあたりを法律的に見ていきますと、「天皇の即位の日及び即位礼正殿の儀の行われる日を休日とする法律」が、昨年12月に公布、施行され、即位の日及び即位礼正殿の儀が行われる日が休日となりました。

 この法律の本体はわずか1条だけで、「天皇の即位の日及び即位礼正殿の儀の行われる日は、休日とする。」というものです(法律のタイトルそのままですね。)。これに附則がいくつか付いていまして、その附則2条2項は、

「本則及び前項の規定により休日となる日は、他の法令(国民の祝日に関する法律を除く。 )の規定の適用(略)については、同法に規定する休日とする。」

となっていて、これにより、この日は、国民の祝日扱いとなります。

 ということは、我々弁護士の仕事に関係が深い、上訴(控訴、上告など)などの訴訟手続の期間の計算についても、国民の祝日扱いとなります。

 つまり、民事訴訟法95条3項「期間の末日が日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律(略)に規定する休日、1月2日、1月3日又は12月29日から12月31日までの日に当たるときは、期間は、その翌日に満了する。」でいう「国民の祝日に関する法律に規定する休日」に該当するわけですね。

 なお、この条文については、以前、当ブログに書きましたので、そちらもご覧下さい。10年以上前になりますが、今でも同じです。

  → 「控訴・上告期間と年末の判決」 (2008/12/23)

 さて、ついでに、祝日に関する話をご紹介しますと、

 まず、来年から、「体育の日」の名称が、「スポーツの日」に変更されます。

 これは、上にも出てきました「国民の祝日に関する法律」が改正され(施行は令和2年1月1日)、従前の「体育の日」の項が、

「スポーツの日 10月の第2月曜日 スポーツを楽しみ、他者を尊重する精神を培うとともに、健康で活力ある社会の実現を願う。」

と書き換えられたためです。

 さらに、本来「スポーツの日」は、ここにあるように10月第2月曜なんですが、来年に限っては、7月24日になります。

 そして、これも来年に限り、「海の日」(本来は、7月第3月曜なので、来年は7月20日になるはずのもの。)も7月23日とされました。

 これは、7月24日東京オリンピックの開会式となる関係で、土日も併せて、7月23日~26日まで4連休にしたものです。

 法律的には、「平成32年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法」を改正して、新たに、「第5章 国民の祝日に関する法律の特例」を加え、ここに、

第29条 平成32年の国民の祝日(国民の祝日に関する法律(略)第1条に規定する国民の祝日をいう。)に関する同法の規定の適用については、同法第2条海の日の項中「7月の第3月曜日」とあるのは「7月23日」と、同条山の日の項中「8月11日」とあるのは「8月10日」と、同条体育の日の項中「10月の第2月曜日」とあるのは「7月24日」とする。」(令和になる前にできた法律ですので、平成32年となります。)

という規定を置きました。なお、山の日が移動する8月10日は、閉会式の翌日ですね。

 なお、天皇誕生日も12月23日(本年から)から2月23日(来年は日曜なので翌日が振替休日になります。)に移りますね。

 来年のカレンダーや手帳では既に対応済みとは思いますが、お気を付け下さい。

2019年10月 9日 (水)

限定承認の場合の相続財産管理人の当事者適格

 本日、消費者庁が、整体サロン「カラダファクトリー」を展開する「ファクトリージャパングループ」(東京都千代田区)の整体サービスの割引に関する宣伝が景品表示法違反の不当表示(有利誤認)に当たるとして、同社に措置命令を出しました。初回利用者などに対する割引につき「期間限定」をうたっていたが、期間が過ぎた後も値引きを続けた、というものです。

消費者庁公表資料


 さて、先日受けた相談なのですが、

 相談者には、とある貸付金債権があったが、その債務者が死亡した。債務者にはあまり資産がないためか、法定相続人全員が「限定承認」の手続を家庭裁判所にした。そのため、法定相続人の1人が相続財産管理人に就任した。その債権の回収はなかなか進まないのだが、時効消滅になりそうなので、時効の中断のために、貸金請求訴訟を行いたい。ついては、被告は、法定相続人全員なのか、あるいは、相続財産管理人1人を被告にすればいいのか、という内容でした。

 → 「相続の限定承認」(裁判所サイト)

「限定承認」というのは、それほど多く利用されているわけではなく、民法上も手続が整備されているとはいえないため、実際にはなかなか解釈が難しいことがありますね。

 上の相談に対しては、私の直感的には、相続人全員を被告にする(なお、金銭債権の相続なので、分割債権になります。)ことになると思うけれども、限定承認ではなく相続人不存在の場合であれば、相続財産管理人が被告となるのだから、同様、という考え方もあり得ると思うので、調べますね、ということで、調べました。

 そうすると、今回の相談とは反対の事案、つまり、貸付金の債権者が死亡して、相続人が限定承認をして、債務者に請求訴訟を提起した、という場合の最高裁判決が見つかりました。

 最高裁昭和47年11月9日第一小法廷判決(判タ286-219)ですが、この訴訟は、相続財産管理人が原告本人となって、債務者を被告として訴訟を提起しています。

 原審の仙台高裁秋田支部は、このような場合でも、相続財産に関する権利義務の主体となるのは、共同相続人全員であって、相続財産管理人は一種の法定代理人としての地位に立つ、したがって、共同相続人全員が原告となり、相続財産管理人がその法定代理人として訴訟追行にあたるべきであったが、この訴訟は、相続財産管理人自身が原告となって提起したのだから、当事者適格を欠き不適法であるとして一審の請求認容判決をくつがえして、訴えを却下しました。なお、当事者適格訴訟要件のひとつですが、訴訟要件を欠く場合には、請求の棄却ではなく、訴えの却下、となります。

 そして、この判決に対する上告審である最高裁も原審判決を支持し、相続財産管理人は相続人全員の法定代理人の地位を有するに過ぎず、当事者適格は有しない、として、相続財産管理人(原告、上告人)の上告を棄却しました。

 そうしますと、最初の相談の事案は、当事者が反対とはいえ、理屈は同じことになりますので、債権者は、相続人全員を被告として請求訴訟を提起することになりますが、相続財産管理人がいますので、相続財産管理人を相続人全員の法定代理人として訴訟を提起することになります。なので、訴状の送達など、訴訟の手続自体は相続財産管理人だけを相手にすればよいことになります。

 ということで、私としては、無事に相談に回答できたわけですが、この最高裁判決の事案はおそらく弁護士であれば、違和感があると思います。「なんで、こんなことになったの?」という感じです。相続財産管理人には弁護士が代理人としてついていたようです。

 調べてみると、この一審の地裁では、被告(債務者)は期日に出頭せず答弁書等も提出しなかったため、いわゆる欠席判決として、原告の請求が全て認められる判決が出ているのです。おそらく、被告はそういうことを知らずに放置していたのかもしれません。敗訴判決が送られてきて、びっくりして、今度は弁護士に依頼して、控訴をしたものと想像します。しかし、高裁判決を見る限り、被告の訴訟代理人は、原判決を取り消して請求の棄却の判決を求め、債務について、弁済、代物弁済、免除などがあり、既に債務はなくなっている、という主張をしているようで、当事者適格を欠くので却下、という訴訟要件についての主張はしなかったように読めます。

 民事訴訟では、当事者主義の一場面として、当事者が主張しなかった請求原因を裁判所が勝手に採用して判断することはできません。しかし、訴訟要件に関しては、職権調査事項とされ、当事者の主張がなくても、裁判所が調査し判断することとなっているのです。なので、高裁は、自身で、当事者適格を判断したということになります。

 ただ、理屈はそうなんですが、実際の裁判手続を考えると、おそらく、高裁はどこかの時点で、相続財産管理人当事者適格について気づいて、原告、被告双方にその点の問題を伝えていると思います。そして、双方が当事者適格の有無について、主張を追加して、という流れだと思います。当然ながら、その時点では、この最高裁判決は出ていないのですから、両方の考え方があり得ることになります。いずれにしろ、債権者の代理人弁護士は、一審で簡単に勝っていただけに、この流れは大変だったろうな、と同業者として思います。この事案では実際どうだったのかは、わかりませんが、私の相談のように、時効中断も目的とする訴訟であれば、この訴訟が訴えの却下で終われば、時効が中断しなかったことになり、もし時効期間が経過してしまっていれば、債権は時効消滅してしまったことになるので大変です。かといって、当事者適格の有無についての判断がまだ明確ではない時点で、債権者の代理人としては、どうすれば良かったのか、ということを考えると、結構難しいですね。法律家であれば、「主観的予備的併合」という言葉が浮かびそうです。もっとも、現在では「同時審判申出」制度ができましたので、これを使うことになるのでしょうね(問題点に気づいていれば、の話ですが)。

2019年7月 3日 (水)

ベネッセの個人情報流出責任を認める判決(東京高裁)


 報道によれば、東京高裁は、ベネッセの個人情報流出事件に対する損害賠償請求訴訟の控訴審において、ベネッセと関連会社シンフォームに1人当たり2千円の支払いを命じた、とのこと(連帯でしょうね。)。この事件ではいくつも訴訟が提起されていますが、ベネッセ本体に賠償が命じられたのは初めてと報じています。報道によれば、東京地裁と横浜地裁の別の事件2件(産経の記事による)について判決が出たようで、原告は計5名とのことです。

 また、このベネッセ事件に携わっておられる金田万作弁護士のtweet弁護団ブログを拝見すると、判決は6月27日で、集団訴訟とは別の訴訟で、1件は、金田弁護士自身が原告となっていた事件で、もう1件は弁護団が控訴審から受任した事件ということです。

 この流出事件やこれまでの判決などについては、以前のこちらの記事をご覧下さい。なお、上記からすると、この私のブログ記事に掲載している東京地裁判決などは今回の控訴審判決とは別の事件だと思います。

 → 「ベネッセ個人情報流出事件の判決(東京地裁)」 (18/12/29)

 → 「ベネッセ個人情報流出事件 最高裁が差し戻し判決」 (17/10/24)

 この事件については、弁護団の集団訴訟が何件かあるうえに、金田弁護士自身が原告の訴訟、それから、個人が本人訴訟で訴えている訴訟が複数あって、それらの判決のほとんどは報道されたり、公表されたりしていませんので、整理するのは難しいですね。

 この内、昨年末のブログ記事は、今日の報道の裁判とは別のもので、顧客ら462人が原告となって、ベネッセシンフォームに計3590万円の損害賠償を求めていた集団訴訟の東京地裁判決(18/12/27)です。こちらは、シンフォームに対してのみ、1人当たり3300円の請求を認めて、ベネッセの損害賠償責任は認めませんでした(控訴)。

 最高裁から差し戻された事件については、大阪高裁で審理中と思われますが、1年半が経過しており、そろそろ差戻審判決かもしれませんね。

 また、本年4月25日には、別の集団訴訟についての東京地裁判決があり、こちらは、シンフォームに対して3300円の損害賠償を認め、ベネッセへの請求は棄却されています。

 

2019年2月19日 (火)

不倫の相手方の損害賠償責任に関する最高裁判決

 本日、最高裁で出ました不倫の相手方の損害賠償責任に関する判決が話題になっていますが、報道記事やその見出しなどは、かなりミスリーディングなものもありますので、ご注意ください。

 → 判決文(裁判所サイト)

 今回の事案は、消滅時効の問題も絡んでおり、最高裁判決だけを見ても、一般の人が理解することは容易ではありません。

 決して、不倫の相手方には、ほとんどの場合に損害賠償責任が生じない、というようなことを最高裁が言ったのではありませんので、ご注意ください。

 ちょっと、次の予定の関係で時間がありませんので、山田祥也弁護士のブログ記事をご紹介しますので、興味のある方はお読みください。

 → 【民法】第三者に対する離婚自体慰謝料に関する最高裁判決について

より以前の記事一覧

最近のトラックバック