2020年7月20日 (月)

SNSなど無償取引に対する景品表示法の適用

 任期付き公務員として消費者庁景品表示法実務に携わっておられた染谷隆明弁護士が、公正取引4月号(№834)「景品表示法の「取引」概念の再検討 -無償契約は「取引」かー」を書かれています。
 無償契約、つまり、ネットでよくある、消費者側からは対価を支払っていないような無料サービスなどは、景品表示法上の取引に該当せず景品表示法の規制対象とはならないと扱われているように見えることについての疑問を呈する立場からの論稿です。

 Googleのような検索サービスやfacebook、twitter、Instagram、LINEのようなSNSサービスは、基本的に利用者は無料で使えて便利なのですが、一方で、程度の差はあれ、個人情報を運営事業者に提供しています。ここで、仮に、そういった運営事業者に対して、不当表示や不当景品などの景品表示法での規制が可能なのか、という問題ですね。もちろん、場合によっては、個人情報保護法による規制対象となることがあるかもしれませんが、それとは別の話です。

 景品表示法(に限らないのですが)は、今のようなインターネット社会や個人情報などのデータの価値が極めて重要な状況を想定して作られた規制ではありません。したがって、IT社会において、これらの法規制の解釈について、変更すべきなのか、変更すべきであるとすれば、解釈上あるいは運用上の変更で可能なのか、法改正といった立法的な解決をしなければならないのか、ということを考えなければなりません。

 ところで、公正取引委員会は、昨年12月17日に、「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」を公表しています。また、案の段階ですが、当ブログでも書いています。

 → 公取委報道発表資料

 → 「プラットフォームと消費者個人情報提供に関する独禁法ガイドライン案」 (2019/9/25) 

 ここでは、「取引の相手方(取引する相手方)」の考え方として、独禁法2条9項5号は、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」、「継続して取引する相手方」(同号イ及びロ)や「取引の相手方」(同号ハ)に対して,不利益を与える行為を優越的地位の濫用とし、「取引の相手方(取引する相手方)」には消費者も含まれる、ということを明確にしました。
 そして、個人情報等は、「消費者の属性、行動等、当該消費者個人と関係する全ての情報を含み、デジタル・プラットフォーム事業者の事業活動に利用されており、経済的価値を有する。消費者が、デジタル・プラットフォーム事業者が提供するサービスを利用する際に、その対価として自己の個人情報等を提供していると認められる場合は当然、消費者はデジタル・プラットフォーム事業者の「取引の相手方(取引する相手方)」に該当する、としました。つまり、法改正などの必要はなく、消費者も取引の相手方に含まれるし、金銭的には無償であっても、個人情報の提供は対価として経済的価値を有するという解釈を示したものです。

 これは、独禁法の規制する不公正な取引方法の中の「優越的地位濫用」についての考え方を公取委が示したものですが、景品表示法は、そもそも、独禁法上の不公正な取引方法規制の特例法として立法されたものであり、この問題について、これと異別に解釈する必要はないように思います。

 したがって、例えば、Twitterで、企業が、何らかの特典を与える条件として、フォローさせるなどの場合は、景品表示法上の規制、すなわち、不当表示規制や不当景品規制の適用があると解してもおかしくはないと思われます。ただ、不当景品の場合の取引対価の額とか、課徴金算定など(ここは上記の染谷論稿でも指摘されているところですが)、よくわからん問題は残りますが。

2020年2月11日 (火)

楽天への公取委立入検査(優越的地位濫用)

 しばらくブログの更新ができず、これが今年最初の更新となってしまいました。

 例のパイプテクターに関しては、最近になって東京メトロの車両(他社乗り入れ車両は除く)から広告が消えた、との報告がTwitterなどで見かけますね。東京メトロの広告媒体者としての責任について、昨年、ちらっと書いたことがありますが、同社もいろいろと考えたのでしょうか。

 → 「赤さび防止効果に関する日本技術士会千葉県支部の見解書」(2019/8/20)


 さて、昨日(2/10)、通販サイト国内大手の「楽天市場」を運営する楽天の本社に公正取引委員会が立入検査に入った、と報道されました。

 これは、楽天市場において、3980円以上を購入すれば送料を出店者負担で無料にする新制度を3月から導入するとしていることに関して、独占禁止法違反(優越的地位の濫用)の疑いがあるという理由のものです。

 以下、ちょっと長くなりますが、これまでの経過をまとめてみました。

 この立入調査の3日前の2月7日には、楽天が、「公正取引委員会からの調査開始及び調査への協力について」として、公正取引委員会から、送料無料制度について調査を開始した旨の連絡を正式に受領したことを公表しており、その中で、「・・法令上の問題はないものと考えていますが、公正取引委員会からの調査につきましては、全面的に協力してまいります。」としていました。

 そもそも、楽天は1年前の2019年1月に、この新しい送料無料制度を導入することを公表していました。ただ、この時点では、送料の負担を楽天と出店者のどちらが負担するかについては明確にしていなかったのですが、8月になって、送料無料ラインを3980円以上(税込)とすることを発表し、これが出店者負担となることが明らかになり、この規約の変更について、出店者の中から不満が出ていたものです。

 なお、昨年1月から、公正取引委員会は、「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査」として、オンラインモール運営事業者の取引実態に関するアンケート調査などを実施しており、楽天を含むオンラインモールも調査対象となっていました。この調査については、4月に中間報告がまとめられ、10月には実態調査報告書として、公表されています。この中でも、運営事業者によって、規約が一方的に変更されたことがある、と回答した出店者がかなり多く(楽天は93.2%の高率)、規約の変更の中に不利益な内容があったとする回答も多くありました。

 このような楽天の送料無料の強行に対し、不満を持つ出店者の一部が、10月に「楽天ユニオン」という組合を結成し、反対署名を集めたり、「優越的地位の濫用」だとして公正取引委員会に調査を求めるなどの活動を行っていました。また、12月19日の朝日新聞では、楽天の送料無料の方針について、公正取引委員会楽天に「独占禁止法違反のおそれがある」と伝えていたことがわかった、と報じられています。

 しかし、楽天は、12月に、出店者に対して、当初予定通り送料無料を今年3月から実施することを通告しました。

 このように双方が対立した状況の中、今年1月22日、「楽天ユニオン」が、公正取引委員会に対し、独占禁止法に基づく排除措置命令を求める措置請求書と、店舗の署名を提出したようです。

 この日の記者会見において、記者からの質問に対し、公正取引委員会事務総長は、個別の案件については答えられないとしつつ、「自己の取引上の地位が、例えば、オンラインモール運営業者が出店者に対して優越していて、そういう場合に、不当に不利益を与えるようなやり方で取引条件を変更するという場合には、独占禁止法でいえば優越的地位の濫用に当たる可能性はある。」と答えています。

 また、報道によれば、2月5日の記者会見において、公正取引委員会杉本委員長は、この問題に関連し、一般論と断った上で「独占禁止法違反の疑いがあれば調査し、違反であれば厳正に対処する」と述べた、とのことです。

 こういった流れの中での昨日の立入検査ですが、これに対し、楽天は、立入検査があったことを認めたうえで、今後も調査に対して全面的に協力する、としつつ、送料見直しについては、現時点で予定通り実施する、としていると報じられています。

 立入検査があったばかりで、公正取引委員会が結論を出すのは、まだまだ先になると思います。けれども、GAFAをはじめとするプラットフォーム事業者については、プラットフォーム事業者の取引透明化法案など、国内外で、その問題点や規制の在り方についての検討が行われており、今回のような出店者との関係のほか、消費者との関係においても、さまざまな議論がなされているところですので、この案件は各方面から注目を集めることになりますね。

2019年12月23日 (月)

口コミ代行業者に関する記事にコメント載りました。

 ネットニュースのJ-CASTニュースの12月22日の記事「口コミ代行が横行?「1件6000円~」も 弁護士が指摘する問題点」にコメントが掲載されました(一番最後のところです。)。

 ご興味のある方は是非お読みいただきたいのですが、私のコメント関連のところをちょっと補足したいと思います。

 景品表示法に関して、「処分対象は依頼側となる可能性が高く」というのは、景品表示法に基づく措置命令課徴金納付命令のような正式な法的処分については、その対象となる事業者は、「自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項」の表示をした者となっていますので、広告会社や広告媒体者(新聞、雑誌、テレビなど)は対象とならず、「依頼側」(=広告主)に対する処分に限られることになるからです。ただし、広告会社などにも、正式な法的処分ではありませんが、違反行為が起こらないように必要な措置を採るように消費者庁が「要請」を行うようなことは考えられます。例としては、2010年末のおせちで問題になった、いわゆる「スカスカおせち事件」では、消費者庁は、2011年2月に、おせちを販売していた会社に措置命令を出すと同時に、そのおせち商品を掲載していたグルーポンに対して、必要な措置(二重価格表示に関して)を要請したことがあります。

 → 「バードカフェおせち事件に関する措置命令及び要請(景品表示法・消費者庁)」 (2011/2/22)

 ただ、この要請は、法的処分ではなく、法的な拘束力があるわけでもありません。不当表示に関係した広告会社や広告媒体者については、上記の通り、景品表示法の行政処分の対象にはなりませんので、何らかの立法対応が必要ではないかと思います。なお、もちろん、詐欺的な宣伝に荷担したような場合は、詐欺や不法行為ということで、広告会社などに法的責任が追及される可能性はあります。

 また、記事にある「消費者庁の景表法ガイドライン」というのは、「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(PDF)のことです。該当個所は、これの4~5頁ですね。

 最後に、不正競争防止法(品質等誤認惹起行為)の判決(ライバル業者からの損害賠償請求訴訟)の紹介がありますが、これについては、当ブログの「自社開設を隠した口コミサイトの操作が誤認惹起行為とされた判決(不競法)」(2019/4/19)で取り上げています。

2019年10月31日 (木)

デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査(公取委)

 本日、公正取引委員会「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査(オンラインモール・アプリストアにおける事業者間取引)」を公表しました。

 これは、公正取引委員会、経済産業省、総務省が立ち上げた「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」中間論点整理(平成30年12月12日)を踏まえて策定された「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」(平成30年12月18日)に基づいて、特に問題点の指摘が多いオンラインモール及びアプリストアにおける取引にかかる独占禁止法・競争政策上問題となるおそれのある取引慣行等の有無を明らかにするために実施されたものです。

 調査の対象は、オンラインモール運営事業者又はアプリストア運営事業者がオンラインモール又はアプリストアを利用して出品する事業者(利用事業者)との間で行う取引です。これに関して、公正取引委員会サイトに設置された情報提供窓口に寄せられた情報(計914件)と、利用事業者や消費者に対するアンケート調査の結果、および、運営事業者8名、利用事業者85名からのヒアリングを行うことにより実態調査が行われました。

 → 公正取引委員会報道発表資料
  (報告書本体および報告書概要のPDFへのリンクがあります。)

 報告書本体は99頁あり、まだちゃんと目を通していませんが、報告書概要のほうは16頁にまとめてあります。


 独占禁止法の基本がわかる人なら、概要を読むだけでも、デジタルプラットフォームに関する現在の競争政策上の問題点が整理されているので、良い資料ではないかと思います。

 特に取引に関するデータの問題について、ネット上では、本来、個人情報保護法の問題であり、公正取引委員会ではなく、個人情報保護委員会の所管ではないか、などといった意見もよく見るのですが、もちろん、個人情報保護法の問題も重なる部分があるのは当然ですが、競争政策上の観点からの規制は個人情報保護委員会の仕事ではありませんし、問題となるデータも、個人情報保護法が対象とする「個人情報」に限りませんので(例えば、BtoBの取引情報は個人情報ではありません。)、報告書に示された個々の考え方の当否は別に検討すべきは当然として、ここで公正取引委員会がこの問題を取り上げていること自体は全く不思議ではないですね。

 参考までに報告書本体の目次構成を以下に示しておきます。

第1部 デジタル市場と競争政策
 第1 経済のデジタル化とデジタル・プラットフォームの浸透
 第2 デジタル・プラットフォームの特徴
  1 両面市場とネットワーク効果
  2 低い限界費用と規模の経済性
  3 デジタル・プラットフォームがもたらす便益
  4 集中化・スイッチングコスト・ロックイン
 第3 デジタル・プラットフォームに関する懸念とその対応
  1 競争政策上の懸念
  2 公正取引委員会の対応
 第4 デジタル・プラットフォームの競争環境の整備
  1 取引条件等の透明化
  2 データの移転・開放

第2部 オンラインモール・アプリストアに係る実態調査
 第1 調査趣旨等
  1 調査対象
  2 調査方法
 第2 市場の概要
  1 オンラインモール市場の概要
  2 アプリストア市場の概要
 第3 運営事業者の取引上の地位
  1 市場における有力な地位
  2 独占・寡占的な地位
  3 優越的地位
  4 運営事業者の取引上の地位に係る利用事業者の認識
 第4 取引実態と評価
  1 取引先に不利益を与え得る行為
  2 競合事業者を排除し得る行為
  3 取引先の事業活動を制限し得る行為
  4 公正性・透明性に欠けるおそれのある行為

第3部 結語
 第1 本実態調査の要点
  1 独占禁止法上の考え方
  2 競争政策上の考え方
 第2 今後の取組

2019年10月 5日 (土)

「「バッキンガム宮殿採用」装置にダメ出し続々」(論座の記事)

 先日、「パイプテクター」なる商品について取り上げました。

 → 「赤さび防止効果に関する日本技術士会千葉県支部の見解書」8/20

 → 「NMRパイプテクターはどうかな♡の話。続編。」9/3

 この中に紹介した山本一郎氏の「謎水事件」日本システム企画社のNMRパイプテクター事案が熱い!」もよく読まれたようですが、本日になって、朝日新聞「論座」サイトに、

 「「バッキンガム宮殿採用」装置にダメ出し続々 ネット注目の#謎水装置 開発者を直撃」

という朝日新聞長野剛記者による記事が掲載されました。

 当該業者の社長を含め、いろいろと関係者に取材されている記事ですので、是非読まれることをお勧めします。

 

 

 「実は対応可能な消費者行政」以下の内容に関連して、もう少し書いておきたいことはあるのですが、長くなりますので、また別稿にて。

2019年9月25日 (水)

プラットフォームと消費者個人情報提供に関する独禁法ガイドライン案

 正式には「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」(以下、単に「ガイドライン案」)となりますが、現在、公正取引委員会が意見募集(パブコメ)中です(9/30締切)。

 実は、昨夜も某消費者団体の会議で話題になりましたので、ガイドライン案について、独占禁止法優越的地位濫用規制に詳しくない一般の方向けの簡単な解説です。概説ですし、重要な注記も略していますので、内容を正確に詳しく検討されたい方は上にリンクした公正取引委員会サイトからガイドライン案をご覧下さい。
 なお、優越的地位の濫用というのは、独占禁止法の規制する「不公正な取引方法」の一つで、これに該当する行為を行った事業者は、公正取引委員会から、排除措置命令課徴金納付命令を受ける場合があります。

 まず、ガイドライン案は、「はじめに」として、いわゆるデジタル・プラットフォーマー(以下、単に「プラットフォーマー」)がイノベーションの担い手となり、事業者にとっては市場へのアクセスの可能性を飛躍的に高め、消費者にとっては便益向上につながるなど、我が国の経済や社会にとって重要な存在となっている、とし、一方で、 個人情報等の取得・利用と引換えにサービスなどを無料提供するというビジネスモデルが採られることがあるため、プラットフォーマーがサービスを提供する際に消費者の個人情報等を取得・利用することに対して懸念する声もある、としています。そして、プラットフォーマーが不公正な手段により個人情報等を取得などすることによって消費者に不利益を与えるとともに、独占禁止法上の問題が生じる、と指摘しています。
 そのため、独占禁止法の運用における透明性、プラットフォーマーの予見可能性を向上させる観点からこの問題において、どのような行為が優越的地位の濫用として問題となるかについて整理したのがガイドライン案、ということです。
 したがって、今回の意見募集は、消費者の個人情報等をプラットフォーマーに提供させる行為が優越的地位濫用に該当するのか、という観点から整理されたものですので、独占禁止法改正や新たな立法などによる新しい規制強化についてのものではありません。

 そして、「1 優越的地位の濫用規制についての基本的考え方」として、 まず、事業者と消費者との取引においては、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差があり、取引条件が一方的に不利になりやすいことを指摘し、消費者に優越しているプラットフォーマーが消費者に対して、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、消費者の自由かつ自主的な判断による取引を阻害する一方、プラットフォーマーはその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあり、このような行為は優越的地位の濫用として規制される、として、プラットフォーマーが消費者の個人情報等の提供を受ける行為も優越的地位の濫用の規制対象となり得ると、しました。そして、以下で、優越的地位の濫用の要件ごとに整理しています。

 まず、「2 「取引の相手方(取引する相手方)」の考え方」において、個人情報等はプラットフォーマーの事業活動に利用され経済的価値を有することから、消費者がプラットフォーマーが提供するサービスを利用する際、対価として個人情報等を提供していると認められる場合は当然、消費者はプラットフォーマー「取引の相手方(取引する相手方)」に該当することを明確にしました。

 そして、「3 「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して」の考え方」において、プラットフォーマーが消費者に対して優越的地位にあるとは、消費者がプラットフォーマーから不利益な取扱いを受けても、消費者がプラットフォーマーのサービスを利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合である、としました。
 消費者がプラットフォーマーのサービスを利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合であるかの判断については、消費者の「取引することの必要性」を考慮することとし、
①消費者にとって、代替可能なサービスが存在しない場合
②代替可能なサービスが存在していたとしてもプラットフォーマーのサービスの利用を止めることが事実上困難な場合
プラットフォーマーが、その意思で、ある程度自由に、価格、品質その他の取引条件を左右することができる地位にある場合には、通常、プラットフォーマーは取引上の地位が優越していると認められる
とし、優越的地位にあるプラットフォーマーが消費者に対して不当に不利益を課して取引を行えば、通常、「利用して」行われた行為であると認められる、としました。 そして、これらの判断に当たっては、両者間の情報の質及び量並びに交渉力の格差が存在することを考慮する必要がある、としています。

 さらに、「4 「正常な商慣習に照らして不当に」の考え方」において、この要件は、公正な競争秩序の維持・促進の観点から個別の事案ごとに判断されることを示すものであるとしたうえで、「正常な商慣習」とは、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるものをいうのであって、現に存在する商慣習に合致しているからといって、直ちにその行為が正当化されることにはならない、としています。

 ガイドライン案は、以上のような優越的地位の濫用の要件ごとの整理をしたうえで、プラットフォーマーによる個人情報等の取得などにおけるどのような行為が優越的地位の濫用に該当するのかについての考え方を明らかにするために、「5 優越的地位の濫用となる行為類型」として、以下の類型を示しています。ただし、これらに限定されるものではなく、また、他の法令に違反しない場合であっても優越的地位の濫用として問題となり得ることも指摘されています。 なお、ガイドライン案では、「個人情報」と「個人情報等」を意識して書き分けていますが、本記事では、そこの区別には言及しませんので、ご注意ください。

⑴ 個人情報等の不当な取得
ア 利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること。
【想定例①】
 
プラットフォーマーが、個人情報を取得するに当たり、その利用目的を自社のウェブサイト等で知らせることなく、消費者に個人情報を提供させた(※注記略)。

イ 利用目的の達成に必要な範囲を超えて、消費者の意に反して個人情報を取得すること。
【想定例②】
 プラットフォーマー
が、個人情報を取得するに当たり、その利用目的を「商品の販売」と特定し消費者に示していたところ、商品の販売に必要な範囲を超えて、消費者の性別・職業に関する情報を、消費者の同意を得ることなく提供させた(※注記略)。

ウ 個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を取得すること。
【想定例③】
 プラットフォーマー
が、個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、サービスを利用させ、個人情報を提供させた。

エ 自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対し、消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に、個人情報等の経済上の利益を提供させること。
【想定例④】
 プラットフォーマー
が、提供するサービスを継続して利用する消費者から対価として取得する個人情報等とは別に、追加的に個人情報等を提供させた(※注記略)。

⑵ 個人情報等の不当な利用
ア 利用目的の達成に必要な範囲を超えて、消費者の意に反して個人情報を利用すること。
【想定例⑤】
 プラットフォーマー
が、利用目的を「商品の販売」と特定し、当該利用目的を消費者に示して取得した個人情報を、消費者の同意を得ることなく「ターゲッティング広告」に利用した(※注記略)。

【想定例⑥】
 プラットフォーマー
が、サービスを利用する消費者から取得した個人情報を、消費者の同意を得ることなく第三者に提供した(※注記略)。

イ 個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を利用すること。
【想定例⑦】
 プラットフォーマー
が、個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、サービスを利用させ、個人情報を利用した。

2019年9月19日 (木)

昨日の杉本委員長発言と「潜入ルポamazon帝国」(横田増生著)

 昨日の当ブログ記事にも追記しましたが、杉本和行公正取引委員会委員長が、昨日の記者会見にで、「フェイクニュース」問題にも言及したということが報じられています。短い記事なので、どのような射程での発言なのかなどは現時点ではわかりません。ただ、先日も書いたような、ニセ科学的な宣伝で利益をあげているような事業者には、厳しく「欺まん的顧客誘引」を適用していただきたいと思うところです。

 ところで、過去にアマゾンユニクロの社内潜入ルポを書かれているフリージャーナリストの横田増生氏の新刊書「潜入ルポ amazon帝国」(小学館)が出ました。私もちょっと取材に協力したということで、著者からご恵贈いただき、拝読しました。

 本書や以前の著書のタイトルなどから、横田氏がまたアマゾンに潜入した内容なのか、と思われるのではないか、と思います。しかし、この本では、潜入の直接のルポは第1章だけで、第2章から第10章にわたって、社員からの告発や、宅配問題、海外取材、創業者の人物像、amazonマーケットプレイスの問題点(ここらには独占禁止法問題が書かれています。)、フェイクレビュー、AWS、書店流通といったアマゾン全体に関する幅広い問題について、関係者への取材を交えて書かれています。したがって、アマゾンに関する最新の各種の問題について考えるにはいい本だと思います。

 私はフェイクレビューの第7章でちょっとだけコメントしていますが、短く圧縮されたコメントのため、わかりにくいかもしれません(申し訳ございません)。ただ、フェイクレビュー(出品者から対価を得て、商品に好意的に書かれているレビュー。ステマの一種ですね。)に関して、この本では、関係者への直接の取材がなされ、生々しい報告になっています。これまで以上に、アマゾン(だけじゃないでしょうが)のレビューは注意してみたいと思います。

 フェイクレビューというのは、まさに、冒頭に書いたような「欺まん的顧客誘引」行為なわけですので、プラットフォーム事業者フェイクニュースについて言及された杉本委員長の発言は、少なくともその範囲では応援したいと思います。

2019年9月18日 (水)

「デジタル時代の競争政策」(杉本和行・公取委委員長)を読んで

 最近、公正取引委員会が積極的な発言・活動を行っているように思えます。

 GAFAなど国際的な巨大プラットフォーム事業者への対応はもちろんのこと、昨年の「人材と競争政策に関する検討会」報告書以降の芸能人、スポーツ選手を含むフリーランスを対象とする独占禁止法適用や、コンビニ24時間営業問題に関連した一連の動き、また、現在、意見募集中の「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」の公表など、これまで、あまり独占禁止法の対象とみられなかった分野(公正取引委員会の人は以前から外してません、と言われますが)に踏み込んできた感があります。

 このような中で、杉本和行公正取引委員会委員長が、 「デジタル時代の競争政策」(日本経済新聞出版社)を出版されました。

 公正取引委員会のトップの著書ではありますが、本書は、上記のような公正取引委員会の現代社会における役割について、わかりやすく書かれています。

 本書は3章の構成になっていて、第1章では、現在までの競争政策の動きが書かれており、第2章では、現在の独占禁止法行政(競争政策)について基本的な規制内容の平易な解説付で書かれていますので、独占禁止法、競争政策について、あまり知識のない方が独占禁止法の現在を知るのにも適当ではないか、と思います。そして、それらを踏まえて、第3章では、本書のタイトル「デジタル時代の競争政策」について、冒頭に掲げたような、経済のグローバル化、デジタル・プラットフォーム、フリーランス人材問題、独占禁止法改正などの諸問題の解説がなされています。

 一般向けの内容ではありますが、現在の諸問題に広く触れられているうえに、企業結合問題や、アメリカでの競争法違反への刑事事案など、あまり独占禁止法の教科書や新聞に大きく扱われていない部分にも比較的触れられているなど、一応独占禁止法を理解している法律家にとっても興味深く読めるのではないか、と思います。

【追記】(2019/9/19)

昨日午後に当記事をアップしたのですが、同じ頃に、杉本委員長が日本記者クラブで記者会見をされていて、その際に、「フェイクニュースやヘイトスピーチ、犯罪をあおる情報にさらされた消費者には不利益が生じる」と指摘して、競争政策の観点から、適切なニュースが提供される競争環境を最優先に整えるべきだとの問題意識を示した、と報道されています。短い新聞記事で、前後の発言や質問がわからないため、現段階でのコメントは控えますが、これも新しい動きのひとつになるかもしれませんね。
フェイクニュースなどで興味を引いてサイトに人を集めて、事業や広告で収益を上げるというような場合は、確かに競争上も問題になりますね。消費者を含めた取引先を騙して、というような不当な事業活動は(ネット上に限らず)、公正取引委員会も積極的に、例えば独占禁止法「欺まん的顧客誘引」の規制を活用するなどして、取り締まってほしいところです。

2019年9月10日 (火)

選挙運動に景品表示法??

昨日、弁護士ドットコムのBusiness Lawyerに、 「比較広告をはじめとするネットを利用した選挙広告の実施可否」 という、電通の方が書かれた記事が出ていました。

 ここでは、国政選挙の政党の政策比較広告についての質問に対する回答の形式で、冒頭から、「消費者庁が定める「比較広告に関する景品表示法上の考え方」(「比較広告ガイドライン」)に沿った内容であれば、各政党の政策についての比較広告は可能です。」とあります。これは違うと思いますよね。

 選挙活動に景品表示法の適用があるのなら、ポスターの写真とか公約とか、優良誤認表示でやれそうな候補者はたくさんいるような気もしますよね。

2019年9月 2日 (月)

解約容易性を有利誤認と認定した事案など不当表示3題

 8月下旬に、大阪府埼玉県が、それぞれ景品表示法違反行為に対する措置命令を出しています。

 なお、これらとは別に、消費者庁が本年8月28日に、株式会社GLANd(東京都文京区)に対して課徴金納付命令(4807万円)を出していますが、これは本年3月22日に出された同社を含む加圧シャツ業者9社に対する措置命令の事案で、当ブログでも簡単にですが触れています(下記リンク参照)。今回1社だけに命令が出されたのは、課徴金要件の関係でしょうか。ただ、報道によれば、他社もそれなりに売上があったようですので、今後出るのかもわかりません。

 → 消費者庁公表資料

 → 「加圧シャツの筋肉増強効果不当表示などなど」 (3/22)


 まず、大阪府は、本年8月27日、大和ハウス工業株式会社(大阪市北区)株式会社オンテックス(大阪市浪速区)の2社に対し、それぞれが運営する温浴施設における浴槽の温水等に係る表示について、景品表示法違反の不当表示(優良誤認表示)が認められたとして、措置命令を行いました。温浴施設は、大和ハウスについては、「岩塩温泉りんくうの湯」(泉佐野市)「岩塩温泉和らかの湯」(兵庫県尼崎市)、オンテックッスについては、「和泉橋本温泉 美笹のゆ」(貝塚市)の計3施設です。

 これらの施設では、「温泉」と表示するなどした浴槽があり、当該「温泉」の効能を表示するなどしていましたが、実際には、これらの施設では、温泉法に基づく温泉の利用許可を得ておらず、当該浴槽の温水は、効能を表示できるものではなかった、というものです。

 → 大阪府公表資料

 大阪府の概要発表文を読むと、「温泉法に基づく温泉の利用許可を得ていない」ことと、「表示されている温泉成分が入っていない」ことについて、優良誤認の関係がよくわからんところもありますが、措置命令を読むとその両方ということみたいです。ただ、マスコミはそっちよりも、大和ハウス工業が、工業用水を使用していたことを見出しに掲げて記事を書いてるようですが、それ自体は不当表示とされてはいないように読めます。


 次に、埼玉県ですが、本年8月20日、株式会社RAVIPA(東京都豊島区)に対し、同社が販売する女性向け育毛剤「薬用Hairmoreスカルプエッセンス」について、景品表示法に違反する不当表示(優良誤認と有利誤認)が認められたとして、措置命令を行いました。

 → 埼玉県公表資料

 具体的な内容は、

    1.  「顧客満足度91.3」等と表示するなど、あたかも、本件商品に対する顧客の満足度が非常に高いものであるかのように表示していたが、実際には、顧客満足度等の算定には、統計的に客観性が十分に確保されている調査を行っていなかった。また、顧客に対するものではなく、商品モニターに対して行った調査であった。
    2.  自社webサイトにおいて、例えば、氏名等が表示された女性の顔写真を表示するなど、あたかも、本件商品により頭皮の手入れをするだけで、本件商品に含まれる成分の作用により、実年齢よりも年齢が若く見えるかのように表示していた。しかし、実際には、記載されている女性の年齢は、40代であるにもかかわらず、50代と表示していた
    3.  自社webサイトにおいて、例えば、「髪は加齢と共に細く・薄くなり、放っておくと取り返しのつかない事態に。」「49歳同じ年齢でもこの差…お手入れなしお手入れあり」等と表示するなど、あたかも本件商品により頭皮の手入れをするだけで、本件商品に含まれる成分の作用により、髪の量が増えるかのように表示していた。 しかし、実際には、「お手入れなし」の状態として写真表示された女性が、「お手入れあり」の写真の状態となるためには、本件商品の使用以外にも、ブローによる手入れが必要であり、本件商品の使用のみでは自社webサイトで表示しているような髪の量の変化は得られないものであった。
    4.  自社webサイトにおいて、例えば、「いつでも好きな時に1ステップで解約できます」等と表示するなど、あたかも、本件商品の売買契約を容易に解約できるかのように表示していた。しかし、実際には、解約の手段は電話に限られ、平日午前10時から午後5時までに申出せねばならず、その電話もつながりにくく、本件商品の売買契約を容易に解約できないものであった。

 1~3が優良誤認で、4が有利誤認ですが、解約の容易性を不当表示としたのは、大変注目されるところですね。

 

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