台風被害によるマラソン大会の中止と参加費の返金
以前、新型コロナ関連で、マラソン大会の中止の場合の返金の問題について、書いたことがありました。
→ 「東京マラソン(一般参加)中止と参加料の不返金」(2020/2/18)
先日、ケースは違いますが、市民マラソン大会の中止と返金についての判決を見つけたので、ご紹介します。
判決によれば、事案は、以下のようなものです。
原告(控訴人)は大会にエントリーしていた個人X、被告(被控訴人)は大会の主催者である一般社団法人Yです。
Yは、マラソン大会(2020年2月1日開催予定)参加者の募集を、前年の2019年9月頃から開始しました。
ところが、2019年10月の台風で、会場予定の公園が冠水し、園内に土砂が堆積したため、市は、2020年2月末までの期間で、業者に復旧業務を委託しました。そして、公園管理者は、2019年10月に、公園全域の閉鎖を決定し、利用予定者(Yを含む)に、利用再開日時は未定である旨を連絡しました。
2019年11月頃、市は、公園開放時期として、2019年12月の一部開放、2020年3月の全面開放を目標として公表しました。
公園管理者は、2019年12月中旬頃、本件公園の一部開園を決定しましたが、この頃、Yを含む公園利用予定者に対し、復旧業務の進捗等を説明し、マラソン大会の実施の可否については未定である旨案内しました。
Xは、2019年12月17日、本件大会への参加を申し込んで、Yに対して、参加費1万4000円を支払いました。
Yは、2020年1月10日までに、大会当月に本件大会のコース予定地に工事車両が往来する予定が組まれたことを知ったため、同日、大会の中止をメールでXを含む参加予定者に知らせました。
なお、大会利用規約第1項には「地震・台風・降雪・事件・疾病等の主催者の責によらない事由で、大会の開催が短縮・縮小・中止となった場合、参加費の返金は一切行いません」と定められていました(これについて、Xは、参加にあたって、この規約に同意していないし、消費者契約法10条に違反し無効である、と主張しています。)。
Xは、参加費1万4000円と、電話料金や法律相談料など本件対応に必要となった費用5万9995円の合計7万3995円の支払を求めて、簡易裁判所に訴訟を提起しました(代理人弁護士の付かない本人訴訟のようです。)。
この訴訟の主位的請求は、Yが、公園がマラソンコースとして使用できない状態であることを認識しながら、参加者の募集を継続し、Xから参加費の支払を受けたのが債務不履行にあたるとする損害賠償請求で、、予備的請求が、危険負担により参加費は不当利得となるとしたものです。しかし、一審の簡易裁判所は、Xの請求を全て認めなかったため、Xは東京地裁に控訴しました。
控訴審の東京地裁は、参加費1万4000円の請求を認め、その他は認めませんでした(東地判2021.2.17)。
控訴審判決は、Yは、公園利用再開日時や大会の実施可否については未定である旨の説明しか受けていなかったのであるから、Xの大会申込を受けた2019年12月17日の時点において、復旧業務の進捗によっては本件大会が開催できない可能性があることを容易に認識し得たものというべきであり、上記の本件規約第1項のような条項があることに照らせば、Xが返金を受けられない不利益を被るおそれがあったといえる、そうだとすれば、Yは大会の中止を認識し得た以上、信義則上、参加申込者の申込に先立ち、申込者に対して、大会開催は未定であり、復旧業務の進捗によっては中止もあり得る旨を告知すべき義務を負っていたものと解するのが相当である、としました。そして、Yがそのような告知をしていないので、告知義務の違反について、控訴人に対する損害賠償責任を負うものと認められる、としたものです。
ただし、損害賠償の範囲について、参加費は認めたものの、他の費用については相当因果関係が認められない、として、請求を認めませんでした。
つまり、主催者側の参加者に対する告知義務違反という債務不履行があったという判断ですね。損害の判断も思うところはありますが、今の裁判所だと、こういう判断になるだろうなぁという感じですね。
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