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2020年8月13日 (木)

ステマ規制の厳格化(韓国公取委)

 ステルス・マーケティング(ステマ)の問題については、当ブログで何度も取り上げてきておりますが、スポーツソウル日本語版本日付ニュース「多発する有名インフルエンサーの“裏広告”問題…韓国では最大5億ウォンの課徴金に」や、情報サイトもっとコリ8月7日付「SANDBOX、裏広告を謝罪「有料広告表記が欠落、管理不足に責任」」などで、韓国でステマ(裏広告と表現しているようですね)問題が炎上しているとのことです。


 これらの記事によれば、韓国では、9月1日からステマの規制を厳しくした「推薦・保証などに関する表示・広告審査指針」の改正が施行されるとされています。ちょっと検索してみましたが、これのようです(ハングルですので、機械翻訳等でご覧下さい)。

 → 韓国公正取引委員会サイト

 上の記事などを見ると、要するに、経済的な対価を得ているのに、それを明記せずに自分の体験談などとして宣伝行為を行うことは禁止され、そういった不当な広告の刑罰などが重罰化されるようです。

 実は、今回改正されたこの「推薦・保証などに関する表示・広告審査指針」に関しては、今回と同じくステマに関して2011年に改正された時に取り上げたことがあります。

 → ブロガーの商品推奨記事に関する韓国の動き(韓国公取委)」(2011/7/14)

 日本では、この同じ年に、消費者庁が「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を策定しました。ステマ行為についても触れられているものですが、詳しくは以下をご覧下さい。

 → 「「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の 問題点及び留意事項」の公表(消費者庁)」 (2011/10/28)

 ただ、これ以後、日本では法律やガイドラインなどについて特段の整備はされていません(2012年に上記「留意事項」の改定が少しありましたが)。ブログやSNSなどにおいて、ステマ自体がなくなっているとも思えませんので、実効性のある対策が必要かと思います。

【追記】
 ちょっと、勘違いをして当初以前のブログについて誤った紹介をしてしまいました。修正しましたが、ご了承ください。

2019年10月 4日 (金)

エディオン事件の公取委審決(独禁法)

 9月末で、これまで使っていたブログの背景デザインが使えなくなったようで変わってしまいました。他のに設定しようとしたんですが、まだうまくいきませんね(反映するのに時間がかかってるのかな。)。おいおい対応していこうと思います。こっちのほうがシンプルでいいかもしれませんね。
【追記】変更できました。しばらくはこれで行きます。


 さて、ラグビーW杯の盛り上がりと関西電力の騒動の中、本日は、独占禁止法優越的地位の濫用に関する措置命令課徴金納付命令を家電量販大手のエディオンが争っていた件について、公正取引委員会の審決が出ました。結論は、排除措置命令を変更、課徴金納付命令の一部を取り消す、というものです。

 → 公取委報道発表資料

 審決書の本文(PDF)は見てませんが、優越的地位濫用の対象とされていた取引相手127社のうち、35社に対しては、優越性が認められないとして、また、契約に定められていた割戻金の一種については、課徴金の算定の基準となる購入額から控除すべきとした、ものです。その結果、課徴金については、約40億円から約30億円へと、約10億円が減額されています。

2018年2月14日 (水)

改正民法(債権法)と「催告後の債務承認」

 このブログを開設したのは2006年7月ですが、ろくに記事も書かずにいて、再発進したのが2007年1月からです。いつのまにか11年になりました。
 当初はネットでブログを読む人もそんなにおらず、政治的なことも含めて言いたい放題を書いてましたが、途中で、さすがにマズいと思い、あまりに問題ありそうな記事は削除しております(苦笑)

 さて、当初の2017年の3月から6月にかけて、「時効談義」として、番外編含めて11本の記事を書きました。もっぱら民事の消滅時効の話ですが、刑事の時効の話も混ざっています。

 御存じのように、民法(債権法)の大改正が昨年の国会で成立し、再来年2020年4月に施行されることとなっています。この改正民法では、消滅時効の部分も大きく改正されることとなりました。そうなると、この「時効談義」の内容も古くなってしまいます。もちろん、昔の記事は、内容が古くなったり、場合によっては、改正や新しい判例が出たりして、現時点では不正確ということは、他の場合でもありますし、いちいち全部修正することはできませんけども、この「時効談義」については、少しずつでも改正の点を解説していこうかと思っております(順不同に、のんびりと、です。)。

 で、その第1段です。


「催告後の債務承認と民法153条(時効談義:その9)」 (2007/5/23)について。

 詳しくは読んでいただくとして、要するに、現行民法153条により、債務の履行を請求(「督促」)しておれば、6ヶ月間は消滅時効期間が延びる形となるけれども、その間に、裁判等の手続をすることが必要となっているが、裁判等ではなくて、債務者の債務承認では駄目なのか、という問題について、条文の説明と大阪高裁の判決を紹介したものです。大阪高裁は、承認でもいいとし、最高裁も上告受理申立を不受理としました。

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 したがって、民法の規定の文言上はちょっと違う形になるわけですが、この点を今回の民法改正でどのように変わったかといいますと、結論的には、上記判決と同様に承認でもいい、ということになりました。

 なお、現行民法消滅時効の「中断」は、改正民法では、「完成猶予」「更新」というものに置き換わっていて、ここは大きな改正点ですが、これについては、また別の機会に書きます。

 まず、現行民法153条は、「催告は、6箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て・・(中略)・・をしなければ、時効の中断の効力を生じない。」となっていて、この裁判上の請求などの列挙事由に債務承認が入っていなかったことから、上記の裁判のような争点が出てきたわけです。

 しかし、改正民法150条1項では、「催告があったときは、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」としているだけですので、この6箇月の間に、債務者による債務承認があれば、消滅時効期間は「更新」(現行民法の「中断」)されることになります(改正民法152条1項参照)。

 つまり、規定の明文上からも、この問題は解決されたことになったものですね。

2018年1月16日 (火)

web雑誌「国民生活」2018/1月号(国民生活センター)

 国民生活センターのweb情報誌「国民生活」の1月号がサイトにアップされています。

   → 「国民生活」(国民生活センター)

 今号の特集は、 「シェアリングエコノミーと消費生活」で、内容は以下の通りです(リンク先はPDF)。   

 その他の記事は以下の通りです。

 消費者問題アラカルト   

 新 インターネットと上手につき合う   

 賃貸住宅の基礎知識-入居から原状回復まで-   

 消費生活相談に役立つ社会心理学   

 海外ニュース   

  • 海外ニュース(2018年1月号)      
            
    • [イギリス]バイナリ-オプション詐欺
    •        
    • [香港]海外でレンタカーを利用する際の注意
    •        
    • [ドイツ]日本製の電子ピアノに高い評価
    •        
    • [オーストリア]バスマティ米(香り米)等のヒ素は基準値内
                    【執筆者】安藤 佳子、岸 葉子

 消費者教育実践事例集   

 明治時代の生活に学ぶ   

 新連載私たちと経済   

 苦情相談   

 暮らしの法律Q&A   

 暮らしの判例   

 誌上法学講座

2018年1月 4日 (木)

2017年の当ブログ記事アクセスランキング

あけましておめでとうございます。

       本年もよろしくお願い申し上げます。

 

 さて、昨年1年間、当ブログにアクセスいただいた数を調べてみました。

 記事の固有ページ別のベスト10は以下の通りです。

       (順位 記事タイトル アクセス数〔PV〕 日付 の順)

       
  1. 祭りくじと景品表示法 17,948 (2017年4月 5日)

  2. 「プエラリア・ミリフィカ」を含む健康食品の危険性(国民生活センター)
            7,137  (2017年7月21日)
  3. ::::弁護士 川村哲二::::〈覚え書き〉:::: 6,982 (トップページ)
  4.    
  5. アイドルの恋愛禁止条項の効力についての判決(その2)
            2,967 (2017年1月7日)
  6.    
  7. 控訴・上告期間と年末の判決 2,802 (2008年12月23日)
  8.    
  9. 拘留と科料(引き続き軽犯罪法) 2,395 (2009年3月27日)
  10.    
  11. 芸能プロダクションと芸能人との契約について公取委が調査との報道
            2,021 (2017年7月8日)
  12.    
  13. 『国際ジャーナルの取材受けました』という話
            1,942 (2007年4月9日)
  14.    
  15. 広告も消費者契約法上の「勧誘」に含まれるとの新判断(最高裁)
            1,879 (2017年1月24日)
  16.    
  17. ひとまず、「PPAP」商標登録出願騒動について
            1,596 (2017年1月26日)

ということになりました。

 なお、次点は、 「催涙スプレー携行と軽犯罪法(最高裁判決)」 (2009年3月26日)でした。

 3位のトップページを除くと、ベストテン中、5位、6位、8位以外は、2017年の記事ですね。早い時期の記事のほうが当然有利なんで、1月の記事が3本入ってます。その中で、ずっとコンスタントにアクセスいただいた「祭りくじ」がダントツの1位となっていますね。最近でもアクセス数が多いのですが、何ででしょうかね。

 10年程前の記事が3本入っているのも(次点も入れると4本)、面白いです。

2017年10月11日 (水)

アディーレ法律事務所に対する懲戒処分(東京弁護士会)

 本日夕方、アディーレ法律事務所に対する東京弁護士会の懲戒処分のニュースが入ってきました。弁護士法人アディーレ法律事務所に業務停止2ヶ月、元代表の石丸弁護士に業務停止3ヶ月というものです。

  → 東京弁護士会会長声明 (公表文本文へのリンクもあります。)

 懲戒の対象となった行為は、昨年(平成28年)2月の消費者庁から出された景品表示法違反措置命令の対象行為(不当表示)です。

 これは、いわゆる有利誤認表示で、不当な二重価格表示に関するものです。

  → 消費者庁公表資料 (PDF)

 簡単に言うと、平成22年10月から平成27年8月までの約5年間にわたり、同事務所のwebサイトにおいて、事件の着手金を値引き、あるいは、無料とするキャンペーンを1ヶ月程度の期間限定と称して行っていたというものです。つまり、ずっと、値引きや無料であるのに、あたかも期間限定で、今ならお得、的な広告をしていたものです。

 したがって、同事務所が積極的に行っているテレビや電車内などの広告に対する懲戒ではありません。ツイッターなどを見ると、誤解している人も多いので念のため。ただし、業務停止期間中は、こういったテレビ広告などを含めた業務はできませんので、テレビCMの穴をどう埋めるのかな、と要らぬ心配もしております。

 なお、当ブログでは、景品表示法違反の消費者庁措置命令の事案は、ほとんど記事にしているのですが、上記のアディーレ法律事務所に対する措置命令の時は、ちょうどブログ更新を長らく怠っていた期間だったので、独立した記事は書いてませんでした。後で、他の事案の時に何度か言及をしていますけども。   

2017年5月17日 (水)

web版「消費者情報」(関西消費者協会)

 長年にわたって関西消費者協会から発行されてきた消費者問題の専門雑誌「消費者情報」が3月をもって休刊となりましたが、今回、新たにweb版がスタートしました。年4回無料配信の予定です。

 既に、国民生活センター雑誌「国民生活」も同様にweb版となっていますが、こちらも5月号が掲載されています。

     → web版「消費者情報」(関西消費者協会)

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 このweb版「消費者情報」5月号の内容は以下の通りです。 興味のある方はご覧下さい。

【消費者情報5月号】

○消費者運動(団体)の課題と役割

  巻頭インタビュー 海外動向から見る消費者団体の課題と方向性   
               金城学院大学教授 丸山 千賀子

  今、消費者運動に必要なものは何か   
               弁護士 木村達也

  これからの消費者運動のゆくえ   
               日本消費者新聞社代表取締役・主幹 岩下道治

  消費者運動 現場からの報告Ⅰ・Ⅱ   
               全国地域婦人団体連絡協議会 会長 柿沼トミ子    
               全国消費者団体連絡会 事務局長 河野康子

○がんばれ!消費者委員会

  身元保証等高齢者サポート事業に関する消費者問題についての建議
               消費者委員会事務局

○団体訴訟への展開

  サン・クロレラチラシ差止め訴訟最高裁判決   
               京都消費者契約ネットワーク(KCCN)弁護士 志部淳之介

○消費者弁護士の肖像

  山﨑省吾 第5回(全9回予定)

○地方消費者行政の「今」を歩く

  大阪編・堺市立消費生活センター

○公正取引委員会の仕事

  不当な表示や景品に“待った”をかける   
               公正取引委員会事務総局 近畿中国四国事務所
                                 取引課長 笠原雅之

○ネット漂流

  タッチで支払い【Apple Pay】は子どもでも使えてしまう   
               NIT情報技術推進ネットワーク株式会社 篠原嘉一

○Infomatiom

  インフォメーション

2016年12月29日 (木)

今年を振り返る、のに替えて、当ブログを振り返る。

 今年もいよいよというところまで来ました。

 このブログも、更新回数が昔より減っておりますが、それでも、この記事で今年49本目で、なんとかほぼ週1本ペースとなりました。前は、平日は毎日のように更新していたのですが、数年前からSNSが普及して、そちらへの投稿で済ませてしまうようになって更新が激減していった感があります。一時は中断期間が長くなり、このまま終わるかな、と思ったりもしました。   
 しかし、最近は、またブログもSNSとの相乗効果で発信手段としての魅力はあるな、と感じ始めまして、来年はさらに気分を一新して発信していきたいと思っています。来年以降もお付き合いよろしくお願い申し上げます。

 このブログも、2006年から始まって、今年で10年を超えました。投稿記事も1433本(この記事含む。最初の頃の記事で削除したものは含まず。)。ブログは、時事的なニュースなどを取り上げることが多いので、投稿から時間を経た記事は当然ながら読まれなくなっていきますが、それでも、キーワード検索で、長い期間にわたってアクセスする人の多い記事、ベストセラー記事(?)みたいなのもあります。

 今年一年(1月1日から現時点まで)で、アクセスのあった記事ベストテンは、

  1 適格消費者団体によるジャニーズファミリークラブへの規約是正の申入 7,727
  2 
::::弁護士 川村哲二::::〈覚え書き〉::::(トップページ) 6,051
  3
この機会に適格消費者団体による差止請求の説明でも 3,700
  4
『国際ジャーナルの取材受けました』という話 2,599
  5
控訴・上告期間と年末の判決 2,599
  6
拘留と科料(引き続き軽犯罪法) 1,608
  7
マルチ大手業者に対する業務停止命令(特定商取引法)と「水素水」の効能表示 1,569
  8
KIDS-CRICコピーライト・ワールド(おじゃる丸編) 1,008
  9
最高裁判所を徳島へ、という提言 961
 10
催告後の債務承認と民法153条(時効談義:その9) 827

となります。右側の数字が、今年の各記事へのアクセス回数(PV)です。

 1位のジャニーズ記事は、つい1ヶ月ほど前の記事ですが、Twitterで拡散されて、ジャニーズファンの皆さんと思われる方々が訪問してくださり、あっというまに当ブログの一日アクセス記録を塗り替えてしまったものですね。3位の記事も、これに関連して続けて書いたものです。

 8位のおじゃる丸は、なぜかこの「コピーライトワールド」を探す人が多いのです。実は、このおじゃる丸が使われたサイトは既になくなっているのですが、これを探して当ブログにたどり着かれるようです。なので、道案内的に、今年の2月に「おじゃる丸コピーライトワールド(CRIC)は今はないですよ、という告知」という記事を書いて、リンクさせておきました。

 4位、5位、6位、8位、10位は、2007~09年にかけての古い記事ですが、当ブログでのロングセラー記事です。

 4位は、その関連記事を含め、おそらくは、国際ジャーナルなどから取材の電話勧誘があった人が検索して訪問されるのだと思われます。同社にとっては目の上のタンコブ記事かと思います。下の3年間ランキングを見ると、これが当ブログの歴代トップの記事であることがおわかりいただけるかと思います。

 5位は12月とかゴールデンウィーク前になるとアクセスが毎年増える記事です。アクセスされるのが、弁護士か一般の人かはわかりませんけど。こういった季節物ベストセラー記事としては、年明けすぐから2月上旬にかけてアクセスが毎年急増するのが、 「「恵方巻」控訴審判決と巻寿司丸かぶりの風習の由来(大阪高裁)」 (2010年)と 「丸かぶり巻きずしの商標権についての判決(「招福巻」)」 (2008年)です。

 ついでに、過去3年間(2013年12月30日~2016年12月29日)のベストテンも出してみましたが、9位にキャリーバッグ判決が何故か顔を出していること以外は、上とあまり変わりませんね。こちらのほうは、面倒なのでリンクはしてませんがご了承ください。もっとブログ開設当初からの長期間の数字を出したかったのですが、ココログの側が数年前にアクセス解析のシステムを変えましたので、これが精一杯のようでした。

  1 ::::弁護士 川村哲二::::〈覚え書き〉::::(トップページ) 17,516
  2 『国際ジャーナルの取材受けました』という話 11,266 
  3 控訴・上告期間と年末の判決 7,929
  4 適格消費者団体によるジャニーズファミリークラブへの規約是正の申入 7,727
  5 拘留と科料(引き続き軽犯罪) 4,843
  6 この機会に適格消費者団体による差止請求の説明でも 3,700
  7 KIDS-CRICコピーライト・ワールド(おじゃる丸編) 3,570
  8 ::::弁護士 川村哲二::::〈覚え書き〉::::(学問・資格カテゴリー) 3,016
  9 キャリーバッグによる転倒事故の損害賠償判決(東京地判・平27.4.24.) 2,673
 10 催涙スプレー携行と軽犯罪法(最高裁判決) 2,648

2016年5月11日 (水)

いわゆるEM菌に関する記事が著作権侵害等に当たるとして朝日新聞を訴えた裁判の判決

 琉球大学名誉教授であり、いわゆるEM菌の研究者である比嘉照夫教授(原告)が、自分の執筆したブログの一部を朝日新聞が記事に引用したことが、比嘉教授の著作権(複製権、同一性保持権)を侵害し、また、自分に取材せずに記事を掲載したことが不法行為に当たるとして、朝日新聞を被告として、損害賠償及び謝罪広告を求めていた裁判の判決が平成28年4月28日に東京地裁民事46部(知的財産部)でありました。   
 判決では、原告の請求が棄却されています。   
 この裁判については、訴訟提起時にサンケイ新聞が記事にしていましたが、今回の判決は、朝日もサンケイも他の報道機関も報じていないようですね。

  → 東京地裁平成28年4月28日判決(裁判所サイト)

 事案は以下の通り。   
 朝日新聞が、朝日新聞青森版に、平成24年7月3日付けで「EM菌効果『疑問』検証せぬまま授業」と題する記事を、同月11日付けで「科学的効果疑問のEM菌3町が町民に奨励」と題する記事をそれぞれ掲載した。

 原告のブログには、「私はEMの本質的な効果は,B先生が確認した重力波と想定される縦波の波動によるものと考えています。」と記載していた。    
朝日新聞の上記記事には、「EM菌の効果について,開発者のA・琉球大名誉教授は「重力波と想定される波動によるもの」と主張する。」「開発者のA・琉球大名誉教授は,効果は「重力波と想定される波動による」と説明する。」との記載がある。

 これらの記事は原告を取材せずに作成されたものであるが、朝日新聞の「朝日新聞記者行動基準」では、「記事で批判の対象とする可能性がある当事者に対しては,極力,直接会って取材する」ものとされている。

 そして、上記の原告ブログ記事が著作物であり、朝日の2記事が、この著作物の複製権又は同一性保持権を侵害するものである、というのが、原告の第1の主張です。

 朝日新聞は、このようなブログ記事の記載には著作物性は認められないし、仮にそうではないとしても、事件報道において,当該事件を構成するものを、報道の目的上正当な範囲において複製し、当該事件報道に伴って利用したものであるので、著作権法41条により許された利用に当たる、と反論しました。

 これについて、裁判所は、

「著作権法において保護の対象となるのは思想又は感情を創作的に表現したものであり(同法2条1項1号参照)、思想や感情そのものではない。本件において本件原告記載と本件被告記載1及び2が表現上共通するのは「重力波と想定される」「波動による(もの)」との部分のみであるが、この部分はEMの効果に関する原告の学術的見解を簡潔に示したものであり,原告の思想そのものということができるから,著作権法において保護の対象となる著作物に当たらない」 

として、著作物性を否定しました。

 原告の主張の第2は、朝日新聞記者が原告に取材することなく記事を掲載したことが不法行為(民709条)に該当するというものです。

 原告の主張によると、本件2記事における原告のコメント部分はかぎ括弧が用いられているが、引用元や出典が明示されていないから、一般読者は記事が原告を取材して得たコメントを掲載した記事として読むことになるが、実際には朝日新聞は原告を取材せずに掲載しており、記事で批判の対象となっている原告を取材しなかったことは、「朝日新聞記者行動基準」に定められた取材方法に違反する、これにより、自らの意思に反してコメントをねつ造されない人格的利益が侵害されており、不法行為に当たる、としています。

 これについて、裁判所は、かぎ括弧内のコメントが、一般読者に取材による記事として読まれる可能性があったというべきであり、「記者行動基準」の規定に抵触しかねない行為であったといえるとしたうえで、

「上記基準は記者が自らの行動を判断する際の指針として被告社内で定められたものであり、これに反したとしても直ちに第三者との関係で不法行為としての違法性を帯びるものでない。」とし、「公にされていた本件原告記事を参考にして執筆されたものであって、その内容はEMの本質的効果に関する原告の見解に反するものではない」、そうすると、2記事によって「原告の見解が誤って報道されたとは認められず、したがって、これにより原告が実質的な損害を被ったとみることもできない」ので、記者の「行為は不適切であったということができるとしても、不法行為と評価すべき違法性があったとはいえないと判断するのが相当である。」 

として、不法行為の成立も否定しました。

 著作物性を否定した点も不法行為の成立を否定した点も妥当な判決だと思います。

2016年3月 7日 (月)

「ネット誹謗中傷対策」業者に対する弁護士からの不正競争防止法に基づく損害賠償請求

 裁判所サイトに掲載された知的財産高裁の控訴審判決です。

  → 知財高裁判決平成28年2月24日(PDF) 

 原審判決も掲載されています。

  → 東京地裁判決平成27年9月25日(PDF) 

 この訴訟の事案は、原告(控訴人、以下「原告」)が弁護士2名で、被告(被控訴人、以下「被告」)がネット誹謗中傷対策についてwebサイトを公開している業者です。

  請求は、被告のサイト上の表示(宣伝)の内容が、不正競争防止法で禁止する不正競争行為のうち、「品質等誤認表示」と「営業誹謗行為」に該当するとして、損害賠償(慰謝料)を求めるものです。
 弁護士が原告となっており、しかも、被告の行為が非弁行為(弁護士法違反)であるとの前提にたっての請求であることから、本件の訴訟提起にあたっては背景事情がいろいろとあるのかな、とも推測されるのですが、そこのところはわかりませんので、本稿では触れません。詳しい事実関係等は判決文をご覧ください。   

 また、不正競争防止法の最近の改正(営業秘密規定の追加等)により、本件行為当時は、「品質等誤認表示」は不正競争防止法2条1項の13号、「営業誹謗行為」は同じく14号でしたが、現在は1つずつずれて、14号、15号となっていますので、御注意ください。

  なお、一審東京地裁判決の時点では、原告訴訟代理人は、IT弁護士として有名な神田知宏弁護士のお名前が記載されていますが、知財高裁控訴審判決では、原告訴訟代理人の記載はなく、本人訴訟(といっても、原告は弁護士ですが)となっていますね。この点も事情はわかりません。 

 判決によれば、本件は,被告が被告webサイトにおいて,「弁護士は,料金が高い」,「法律のプロの力を借りなければ削除が難しいサイトだけに限って弁護士に依頼すれば,全体の費用を大幅に減らすことができます」等と表示し,「ネット削除に詳しい弁護士」として原告氏名を表示したことが,(1)原告よりも契約条件において有利であるかのような表示をしている点において品質等誤認表示に,(2)原告と被告とは競争関係にあるところ,原告の料金が不相当に高額であり,被告に比べて「コストパフォーマンスが悪い」との営業誹謗行為に、それぞれ当たり,これにより原告の営業権が侵害され,原告の名誉,信用に対する損害を被ったと主張して,慰謝料各80万円の支払を求める事案です。

  一審の東京地裁判決は、被告サイト上の表示は役務の品質に伴う価格について誤認させる表示とはいえない、原告の営業を誹謗する行為にも該当しないとして、原告の請求を棄却しました。 

 そして、知財高裁もこの原判決の判断を妥当なものとし、控訴を棄却しています。

  控訴審判決では、不正競争防止法に基づく請求の前提となる原告と被告との競業関係については一定の限度でこれを認めたうえで、被告の表示内容について、原判決を支持し、非弁行為を行うことを表示したものでもなく、品質誤認表示とはいえない、としました。そして、営業誹謗行為の主張についても、表示内容は、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知、流布があったとは認められない、と判断しました。 

 結論はともかく、webサイトでの宣伝表示内容が、品質等誤認表示行為営業誹謗行為に該当するか、についての知的財産高裁の判断の一事例として参考になる事案です。

  そして、それ以上に、宣伝表示行為につき弁護士法違反(非弁行為)が疑われる事案に関し、弁護士が原告となって不正競争防止法違反で損害賠償請求訴訟を提起したこと自体が珍しい訴訟であり、今後はこういった問題が訴訟などの法的手続に進展していくことも充分に考えられるところでありますので、弁護士の業務独占、非弁行為についての判断の一事例としても、大変興味深い事案かと思います。

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