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2022年5月の記事

2022年5月13日 (金)

台風被害によるマラソン大会の中止と参加費の返金

 以前、新型コロナ関連で、マラソン大会の中止の場合の返金の問題について、書いたことがありました。

→ 「東京マラソン(一般参加)中止と参加料の不返金」(2020/2/18)

 先日、ケースは違いますが、市民マラソン大会の中止と返金についての判決を見つけたので、ご紹介します。

 判決によれば、事案は、以下のようなものです。

 原告(控訴人)は大会にエントリーしていた個人X、被告(被控訴人)は大会の主催者である一般社団法人Yです。

 Yは、マラソン大会(2020年2月1日開催予定)参加者の募集を、前年の2019年9月頃から開始しました。

 ところが、2019年10月の台風で、会場予定の公園が冠水し、園内に土砂が堆積したため、市は、2020年2月末までの期間で、業者に復旧業務を委託しました。そして、公園管理者は、2019年10月に、公園全域の閉鎖を決定し、利用予定者(Yを含む)に、利用再開日時は未定である旨を連絡しました。

 2019年11月頃、市は、公園開放時期として、2019年12月の一部開放、2020年3月の全面開放を目標として公表しました。

 公園管理者は、2019年12月中旬頃、本件公園の一部開園を決定しましたが、この頃、Yを含む公園利用予定者に対し、復旧業務の進捗等を説明し、マラソン大会の実施の可否については未定である旨案内しました。

 Xは、2019年12月17日、本件大会への参加を申し込んで、Yに対して、参加費1万4000円を支払いました。

 Yは、2020年1月10日までに、大会当月に本件大会のコース予定地に工事車両が往来する予定が組まれたことを知ったため、同日、大会の中止をメールでXを含む参加予定者に知らせました。

 なお、大会利用規約第1項には「地震・台風・降雪・事件・疾病等の主催者の責によらない事由で、大会の開催が短縮・縮小・中止となった場合、参加費の返金は一切行いません」と定められていました(これについて、Xは、参加にあたって、この規約に同意していないし、消費者契約法10条に違反し無効である、と主張しています。)。

 Xは、参加費1万4000円と、電話料金や法律相談料など本件対応に必要となった費用5万9995円の合計7万3995円の支払を求めて、簡易裁判所に訴訟を提起しました(代理人弁護士の付かない本人訴訟のようです。)。

 この訴訟の主位的請求は、Yが、公園がマラソンコースとして使用できない状態であることを認識しながら、参加者の募集を継続し、Xから参加費の支払を受けたのが債務不履行にあたるとする損害賠償請求で、、予備的請求が、危険負担により参加費は不当利得となるとしたものです。しかし、一審の簡易裁判所は、Xの請求を全て認めなかったため、Xは東京地裁に控訴しました。

 控訴審の東京地裁は、参加費1万4000円の請求を認め、その他は認めませんでした(東地判2021.2.17)。

 控訴審判決は、Yは、公園利用再開日時や大会の実施可否については未定である旨の説明しか受けていなかったのであるから、Xの大会申込を受けた2019年12月17日の時点において、復旧業務の進捗によっては本件大会が開催できない可能性があることを容易に認識し得たものというべきであり、上記の本件規約第1項のような条項があることに照らせば、Xが返金を受けられない不利益を被るおそれがあったといえる、そうだとすれば、Yは大会の中止を認識し得た以上、信義則上、参加申込者の申込に先立ち、申込者に対して、大会開催は未定であり、復旧業務の進捗によっては中止もあり得る旨を告知すべき義務を負っていたものと解するのが相当である、としました。そして、Yがそのような告知をしていないので、告知義務の違反について、控訴人に対する損害賠償責任を負うものと認められる、としたものです。

 ただし、損害賠償の範囲について、参加費は認めたものの、他の費用については相当因果関係が認められない、として、請求を認めませんでした。

 つまり、主催者側の参加者に対する告知義務違反という債務不履行があったという判断ですね。損害の判断も思うところはありますが、今の裁判所だと、こういう判断になるだろうなぁという感じですね。



2022年5月 5日 (木)

「クレベリン」(大幸薬品)措置命令まとめ

 本年5月3日、大幸薬品は、同社サイトで、同社の空間除菌商品「クレベリン」の表示に関し、消費者庁から出された2回の景品表示法違反に基づく措置命令に従うことを公表しました。

 → 同社サイト『弊社商品の表示に関するお知らせ』

 1回目の措置命令は、今年1月20日、同社の「クレベリン スティック ペンタイプ」、「クレベリン スティック フックタイプ」、「クレベリン スプレー」、「クレベリン ミニスプレー」の商品パッケージや自社サイトでの表示について出されました。あたかも、商品から発生する二酸化塩素の作用により、表示記載の場所において、身の回りの空間に浮遊するウイルス又は菌が除去又は除菌されるなどの効果が得られるかのように示す表示をしていたため、消費者庁景品表示法の規定(不実証広告)に基づいて、同社に対し、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求め、同社から資料が提出されたが、当該資料はいずれも当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められないとして優良誤認表示であると見なされたものです。

 → 消費者庁サイト

 2回目の措置命令は、今年4月15日、同社の「クレベリン 置き型 60g」、「クレベリン 置き型 150g」の同社サイト、テレビCM、Youtube動画広告での表示を対象とするもので、あたかも、商品をリビング等の室内に設置すれば、同様に二酸化塩素の作用により、リビング等において、室内空間に浮遊するウイルス又は菌が除去又は除菌されるなどの効果が得られるかのように示す表示をしていたもので、上記同様に不実証広告制度により、優良誤認表示と見なされました。

 → 消費者庁サイト

 実は、大幸薬品の「クレベリン」について、景品表示法違反として消費者庁から措置命令が出されたことは初めてではありません。新型コロナが問題になるずっと以前の平成26年(2014年)3月27日、消費者庁は、二酸化塩素を発生させる商品を販売する17業者に対して、部屋に置いたり首に掛けたりするだけで、空間に浮遊するウイルスや菌の除去ができる旨の広告表示が不当表示であるとして措置命令を出していますが、この中に「クレベリン」商品が含まれていました。この時は、同社は表示の文言の修正を行って対応しています。

 最近になって、新型コロナの感染が世界中の問題となり、抗菌、抗ウイルス商品が爆発的に売れるようになったわけですが、表示された効果に疑問のある商品も多く、消費者庁景品表示法健康増進法に基づいて監視を強め、不当表示の疑いのある業者に対する改善指導や、消費者向け注意喚起を行っています。そして、今回の大幸薬品以外にも、同様の商品の表示について措置命令が出されています。

 冒頭の同社サイト公表は、今回の消費者庁による2回の措置命令に従う旨の会社見解が示されたものです。
 しかし、ここまで、同社は、消費者庁に対抗する姿勢を見せていました。

 同社サイトでの公表内容に基づけば、
 昨年11月26日、商品の表示が不当表示に当たるとして、消費者庁から、措置命令案についての弁明の機会を付与されたことから、同社は、昨年12月14日、措置命令の差止訴訟を提起し、併せて仮の差止の申立を行っています。

 この仮の差止事件について、東京地裁は、本年1月12日、対象とされた商品6点の内、置き型商品2点につき、同社提出資料が効果の裏付けとなる合理的根拠に当たることを認め、措置命令の仮の差止めの決定をしました。ただし、その他の4商品表示については、措置命令の差止を認めませんでした(同社は東京高裁に即時抗告)。
 この地裁決定の直後の本年1月20日に、差止対象外となった4商品について消費者庁措置命令を出したのが、1回目の措置命令です。

 そして、本年4月13日、東京高裁は、東京地裁の決定を覆し、対象商品6点全部について、同社の主張を認めない決定を行いました。
 そのため、高裁決定の2日後の4月15日、消費者庁は、残る置き型の商品2点に対しても、措置命令を出したのが、2回目の措置命令となります。

 この高裁決定に対して同社が最高裁の判断を仰ぐのかが注目されましたが、結局断念し、措置命令に従うことを表明したのが冒頭のサイト公表です。

 ということで、措置命令をめぐる今回の一連の動きはひとまず終わったわけですが、報道によれば、同社は「表現は行きすぎていたが、商品そのものには問題がなく、利用者からの返品は受け付けない。」との対応のようです。今後、同社がこれらの商品の販売を継続するとすれば、どのような広告表現に変更するのか、また、返金対応が全くないということで購入者の納得が得られるのか、といった点が注目されます。

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