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2020年9月 7日 (月)

「京都芸術大学」の名称の差止訴訟判決(請求棄却・不競法)

既に、報道でご存じの通り、公立大学法人「京都市立芸術大学」(以下、市立芸大)が、学校法人「瓜生山学園」が設置する「京都造形芸術大学」「京都芸術大学」に改称することについて(令和2年4月1日に改称を実施)、不正競争防止法違反であるとして、「京都芸術大学」の名称の差止を求めていた裁判で、大阪地方裁判所は、8月27日、差止を認めない判決(請求棄却)を言い渡しました。

 判決が裁判所サイトで公表されましたので、ちょっと概要を見ていきたいと思います。なお、学校名で同様の紛争になったものとしては、「青山学院事件」(東京地裁平成13年7月19日判決)がありますので、興味のある方は調べてみてください。こっちは差止が認められています。

 → 判決文はこちらから(裁判所サイト)

 原告の市立芸大が差止の請求の根拠としたのは、不正競争防止法2条1項1号(周知表示混同惹起行為)2条1項2号(著名表示冒用行為)です(商標権や著作権は無関係です。)。どちらも、有名な商品(サービスを含みます)などの名称や包装、容器のデザインなどのコピー商品を製造したり販売したりする行為を禁止するものです。

 1号の周知表示混同惹起行為は、他人の商品・営業の表示(商品等表示)として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の表示を使用し、その他人の商品・営業と混同を生じさせる行為であり、2号の著名表示冒用行為は、他人の商品・営業の表示(商品等表示)として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為、で、似ているのですが、違いは、

 2号の著名表示冒用行為では、その商品等の表示が「著名」であることが必要で、これは、全国的に一般に知られている、というかなり有名ブランドという感じです。一方、1号の周知表示混同惹起行為では、「周知性」が要件となっていて、これは、「著名」ほど有名でなくてもいいが、商品等の取引の相手方(需要者)には広く知られているという要件で、全国的でなくても、一地域での周知性でも足りるとされます。
 この点では2号より、1号のほうが緩い(広い)ことになりますが、1号では、その表示を行うことにより本家と「混同」を生じさせる、という要件が加わります。2号では、この要件は必要ないので、その点では2号にメリットがあることになります。
 つまり、「著名」な商品表示に類似した表示を使用すれば、それだけでアウトで、「周知性」のある表示(「著名」まではいかない)に類似した表示を使用した場合については、その表示で「混同」が生じた、ということが必要になります。どちらで差し止めてもらっても、効果は変わりませんので、市立芸大は、両方とも主張ということになります。

 さて、芸大の事案については、裁判所はどう判断したでしょうか。

 市立芸大が差止を求めているのは「京都芸術大学」ですが、これに類似する市立芸大側が使用している表示(原告表示)として次の5つの表示を挙げました。

1 京都市立芸術大学
2 京都芸術大学
3 京都芸大
4 京芸
5 Kyoto City University of Arts

 本件裁判の争点は、以下の通りです。

  1. 不正競争防止法2条1項2号該当性(争点1)
    ア 原告表示1~5の「著名」性の有無等(争点1-1)
    イ 原告表示1~5と本件表示との類似性の有無(争点1-2)
  2. 不正競争防止法2条1項1号該当性(争点2
    ア 原告表示1~5の周知性(需要者の間に広く認識されていること)の有無(争点2-1)
    イ 原告表示1~5と本件表示との類似性の有無(争点2-2)
    ウ 本件表示の被告の使用による原告の営業との混同惹起の有無(争点2-3)
  3. 本件表示の被告の使用による原告の営業上の利益の侵害又は侵害のおそれの有無(争点3)

 判決は、まず、原告表示1~5全部について「著名」とはいえない(争点1-1)、として、2号の著名表示冒用行為を否定しました。

 そして、「周知性」に関しては(争点2-1)、原告表示1の「京都市立芸術大学」については、原告大学を表示するものとして需要者に広く認識されており,周知が認められる、としましたが、その他の原告表示2~5については、周知とはいえない、としました。ここで、特に、原告表示2の周知性が認められなかった点は、結論にひびいていますね。

 ここまでの判断により、原告表示1「京都市立芸術大学」と被告の「京都芸術大学」が類似するか、が問題になります(争点2-2)。

 判例上、ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似のものか否かを判断するに当たっては、取引の実情のもとにおいて、取引者などが、両者の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断する、とされています。今回の判決もこの基準に拠っています。

 そして、「京都」「芸術」「大学」の各部分は、自他識別機能又は出所表示機能はいずれも乏しいとしましたが、「(京都)市立」の部分の自他識別機能又は出所表示機能は高いとしました。そうすると、「原告表示1の要部は、その全体である「京都市立芸術大学」と把握するのが相当であり、殊更に「京都」「芸術」の間にある「市立」の文言を無視して「京都芸術大学」部分を要部とすることは相当ではない。」としました。

 続けて、判決は、「京都市立芸術大学」「京都芸術大学」は、その要部を中心に離隔的に観察すると、「市立」の有無によりその外観及び称呼を異にすることは明らかであり、観念についても、「市立」の部分により設置主体が京都市であることを想起させるか否かという点で異なる。取引の実情としても、需要者は、複数の大学の名称が一部でも異なる場合、これらを異なる大学として識別するために、当該相違部分を特徴的な部分と捉えてこれを軽視しない。そうすると、取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が、両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるとはいえず、そうである以上、「京都市立芸術大学」と「京都芸術大学」とは、類似するものということはできない、と判断しました。

 要約すると、「京都市立芸術大学」の名称は、周知性はあるが、著名ではなく、両者は、「市立」の有無により、外観、称呼、観念が異なるから類似とはいえない、ということになります。

 なお、今回の判決とは直接の関係はありませんが、商標権に関連して、8月12日付で、昨年7月11日に市立芸大が出願していた「京都市立芸術大学」商標権特許庁が認めて登録しています。また、これと別に、同じく昨年7月、瓜生山学園(17日)と市立芸大(18日)は、「京都芸術大学」商標権をそれぞれ出願していますが、こちらは両方ともまだ「審査中」になっています。

【追記】(9/8)

 京都市立芸大が控訴したとのことです。

 → 京都市立芸大「控訴についての理事長コメント」

【追記】(9/9)

 続編を書きました。

 → 「「京都芸術大学」名称差止訴訟判決を引き続き考える。」 (9/9)

 

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