ベネッセ個人情報流出事件の判決(東京地裁)
ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)の顧客個人情報流出事件の判決が報じられています。顧客ら計462人が原告となって、ベネッセと関連会社シンフォームを被告として、慰謝料など計3590万円の損害賠償を求めていたものですが、本年12月27日、東京地裁で判決が出たようです。判決は、シンフォームに対してのみ、1人当たり3300円、計約150万円の請求を認め、ベネッセの損害賠償責任は認めなかったとのこと。
なお、シンフォームは、この流出事件の後に解散しているようですので、清算手続での対応でしょうか。
そして、シンフォームの損害賠償額としては、原告1人当たり慰謝料3000円と弁護士費用300円が相当としました。
私も関与したヤフーBB情報流出の裁判では、ヤフー株式会社とソフトバンクBB株式会社(旧・BBテクノロジー)の2社を被告としましたが、一審大阪地裁が顧客情報を直接管理していたソフトバンクBBのみの責任を認め、ヤフーには監督義務違反はない、としました。
しかし、控訴審大阪高裁は、ヤフーの使用者責任を認めて、両社に対して支払を命じました。控訴審での認容額は5500円(慰謝料4500円、弁護士費用1000円)です。慰謝料額が中途半端なのは、ヤフー側が事件発覚後500円の郵便振替支払通知書を原告ら顧客に送っていることをもって一部の弁済としたものですので、本来の慰謝料額は5000円という認定になります。この件については、下記のブログ記事および記事内のリンク先を参考にしてください。
→ 「ヤフーBB個人情報漏洩事件控訴審判決(大阪高裁)」 (2007/6/21)
ところで、このベネッセの情報流出事件に関しては、同様の訴訟が複数起こされています。
しかし、最高裁(平成29年10月23日判決。判例時報2351ー7)は、「本件個人情報は、上告人のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきであるところ(略)、上記事実関係によれば、本件漏えいによって、上告人は、そのプライバシーを侵害されたといえる。」「しかるに、原審は、上記のプライバシーの侵害による上告人の精神的損害の有無及びその程度等について十分に審理することなく、不快感等を超える損害の発生についての主張、立証がされていないということのみから直ちに上告人の請求を棄却すべきものとしたものである。そうすると、原審の判断には、不法行為における損害に関する法令の解釈適用を誤った結果、上記の点について審理を尽くさなかった違法があるといわざるを得ない。」として、審理を大阪高裁に差し戻しました。したがって、この裁判は、現在、大阪高裁で審理が行われているものと思われます。
また、別の事件(原告185名、ベネッセとシンフォームが被告)では、東京地裁(平成30年6月20日判決。D1-Law.com判例体系)は、被告2社の過失(注意義務違反)を認定しましたが、「・・・本件に顕れた事情を総合的に考慮すると、少なくとも現時点においては、最も多くの種類の個人情報(氏名、性別、生年月日、郵便番号、住所、電話番号、メールアドレス及び出産予定日)が漏えいした原告らであっても、民法上、慰謝料が発生する程の精神的苦痛があると認めることはできないといわざるを得ない。また、漏えいした個人情報の内容以外に、原告らにおいて考慮すべき事情に相違があったことはうかがわれないから、上記よりも少ない種類の個人情報が漏えいしたにとどまる原告らについても同様に、民法上、慰謝料が発生する程の精神的苦痛があると認めることはできない。」として、損害の発生はないという理由で、原告らの請求を棄却しています。上記の最高裁判決の後の判決ですが、損害発生を認めていない点が注目されます。
なお、この東京地裁判決と同日の平成30年6月20日に千葉地裁でもベネッセを被告とした判決があり(金融・商事判例1548ー48。原告は1家族親子4名のようです。)、ベネッセの過失を認めず請求棄却となっています(確定)。
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