この機会に適格消費者団体による差止請求の説明でも
一昨日夜にアップした前回記事はたくさんのアクセスをいただきありがとうございました。
適格消費者団体・消費者被害防止ネットワーク東海(Cネット東海)の申入書に記載されたジャニーズファミリークラブの回答期限は昨日だったのですが、Cネット東海のサイトによれば、昨日、ジャニーズファミリークラブから、しばらく回答を猶予してほしいというFAXが届いたようです。
さて、せっかくの機会なので、消費者団体訴訟について、簡単に説明をしたいと思います。
まず、現在、消費者団体が消費者のために訴訟ができる制度は2つあります。
① 消費者契約法に基づく差止請求と、 ② 「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」にもとづく被害回復請求、の2つです。
消費者団体といっても、どんな消費者団体でも請求ができるわけではなく、国の認定を受けた団体でないといけません。①の差止請求ができるのは、「適格消費者団体」で、現在全国に14団体があり、今回のCネット東海もその1つです。なお、私は、大阪を本拠とする消費者支援機構関西(KC's)の活動に関わっています。
(※【追記】 一般の消費者個人や消費者団体が、このような法律上の請求権ではなく、事業者に営業活動や契約内容が違法、不当であるとして是正を求めること自体は、もちろん可能です。)
②の集団的被害回復制度は、今年(平成28年)の10月1日から施行されたばかりで、実際に制度が利用されるのはこれからです。そして、この制度で請求ができるのは、①の適格消費者団体の中で、さらに「特定適格消費者団体」の認定を受けた団体に限られます。現在、1団体(消費者機構日本〔COJ〕)が消費者庁に対して認定申請を行っているという段階ですので、現時点では、まだ認定を受けた特定適格消費者団体はありません。
したがって、今回の消費者団体による差止請求は、上記①の消費者契約法に基づく差止請求制度による請求行為となります。
これは、事業者が、消費者契約法などの法律に違反する行為を行った場合に、個別の消費者個人ではなく、適格消費者団体が事業者に対して差止請求、つまり、その行為をやめることを請求できる制度です。
消費者契約法違反だけではなく、現在は、特定商取引法、景品表示法、食品表示法の違反行為の一部についても差止請求ができることになっています。今回のCネット東海のジャニーズファミリークラブに対する差止請求は、消費者契約法違反の契約条項を止めるよう求めているわけです。なお、この制度は②の制度と異なり、損害賠償などの金銭の請求はできません。
もっとも、現時点では訴訟が起こされているわけではなく、是正の申入(請求)活動の段階です。
これによって、契約内容の変更などの適切な是正措置を事業者がとれば、もちろんそれで解決します。現に、各適格消費者団体は同様の申し入れを事業者に行っており、多くのケースでは事業者側も内容を検討して是正に応じています。これらの事案については、各適格消費者団体のサイトに掲載されていますので、興味のある方はご覧ください。なお、今回の件と似たようなものとしては、今年、同じくCネット東海が、宝塚歌劇の宝塚友の会に対して、雑誌の定期購読サービスの契約が消費者契約法違反であるとして申入活動を行っていますが、宝塚友の会は、これに沿う形で改訂を行ったため、申入活動は終了となっています。
しかし、事業者側が適切な対応をせず、消費者契約法などに違反した営業活動や規約を継続するような場合は、適格消費者団体が原告となって、事業者に対して差止請求の訴訟を提起することができます。これも、これまでにいくつもの裁判が起こされています。これらの裁判における判決や訴訟上の和解については、消費者庁サイトに公表されています(消費者契約法第39条第1項に基づく公表)。
今回のCネット東海の申入活動の今後がどのような形になっていくかは判りませんが、この機会に多くの方々にこの制度をご理解いただければいいな、と考えております。
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