ネットショッピングでの価格誤表示と売り主の責任
ネット通販大手のAmazonのタイムセールで、アイリスオーヤマの芝刈り機や工具箱その他の商品が、軒並み10円で出品されて、大量の注文が発生しているという情報がネット上でが昨日(3/20)流れていました。
このようなネット通販サイトでの価格誤表示事件は、最近でも一年前に、マウスコンピューターがPCの価格を「1865円」と誤表記したというのがありましたし、その他にも過去に何度か起こっています。
今回の件で、Amazonおよびアイリスオーヤマがどのような対応をするのか、まだ判明してません。連休中でしたので、明日あたりには何らかの公表がされるのかもしれません。
こういった事案で古いものとしては、平成15年の丸紅ダイレクト(丸紅の直販サイト)、平成16年のカテナ(通販サイトはヤフーショッピング)のケースがあります。いずれもパソコンの通販で、通常よりかなり安く表示してしまったもので、上記の最近の事案と基本的に同じものです。
さて、こういった場合に、安い価格を見て注文した人は、その価格で購入できるのか、言い換えると、売り主、買い主の間にどのような契約が成立するのか、しないのか、取消や無効の主張はできるのか、などという法律上の「契約」がどうなるか、ということが問題になります。
それを全部詳しくやると長くなってしまいますし、その通販サイトの規約や注文システムなどの具体的内容にもよる部分もありますので詳細は省きますが、経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(平成27年4月改訂版)の「Ⅰ-2-2 価格誤表示と表意者の法的責任」に詳しく検討されています。
なお、参考となる裁判例としては、上記の平成16年(2004年)のカテナの誤表示事件に関するものがあります。
◎ 控訴審・平成17年9月2日東京地裁判決
(判例時報1922号105頁)
ヤフーショッピングにおいて、パソコン3台を購入した個人が、その履行がされなかったとして、カテナを被告として、債務不履行ないし不法行為に基づき、パソコン3台の代金相当額34万5000円の支払いを求めたという事案です。金額が少額であり(少額訴訟として提起)、一審は東京簡易裁判所です。
一審判決は、原告が、本件売買契約はヤフーからの「受注通知」を原告が受領した時点で成立していると主張したのに対して、受信メールはあくまでもヤフーから発せられたものであり、カテナは後に原告の申込みに対して承諾しない旨意思表示をしているので、両者間に契約は成立しておらず、また、カテナはヤフーに対して、正しい情報を提供しているので、当該表示上の誤りにつき被告に過失はない、として原告の請求を棄却しました。
控訴審東京地方裁判所も、原告(控訴人)の請求を認めませんでした。売買契約の成立については、一審同様に、ヤフーの受注確認メールはカテナの承諾ではなく、カテナが原告の申込を承諾したとは認められないとして、これを否定しました。したがって、契約成立が前提となるカテナ側の錯誤無効の主張については判断していません。
そして、価格の誤表示についてのカテナの注意義務違反(不法行為)に基づく請求については、カテナが本件サイト上に自ら表示をすることはできず、削除することもできないと認められること及び商品の誤った表示がされたことに対し、直ちにヤフーにその表示を削除させたのであって、誤表示を放置したとも認められないことから、被控訴人の商品の誤表示についての注意義務違反を認めることはできない、として、これも認められませんでした。
なお、本件で、原告がパソコン3台分の通常の代金相当額約34万を請求した根拠は、パソコン3台の引渡をしないまま8か月が経過し、現在において原告はパソコン自体は不要なので、パソコンの引渡しではなく、同機種中古品3台の代金相当額を請求する、という主張になっていますね。
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