最高裁判所を徳島へ、という提言
報道で御存じの通り、現在、政府は、政府関係機関の地方移転を検討しています。
ただ、中央官庁の移転には抵抗が大きく、結局現在のところ、俎上にのぼっているのは、消費者庁・国民生活センターの徳島移転と文化庁の京都移転となっているようです。
文化庁について詳しくはないので触れませんが、消費者庁の徳島移転には反対せざるを得ません(ひとこと言っておきますと、徳島はいいところです。とくしまマラソンも素晴らしいマラソン大会です。)。
もちろん私も東京一極集中は是正されるべきと思いますが、それは本来行政機関が果たすべき機能が果たされるような移転でなければならないのは当然です。
消費者庁は設置からの期間も短く、まだ組織としても充分ではないうえ、地方部局を全く持っていません。このような弱小官庁が地方に移転すれば、ますますその機能を果たすことはできなくなります。
当然ながら各地の弁護士会や消費者団体からは反対の意見が相次いでいるわけで、別に消費者庁の職員たちが地方への引っ越しが嫌だから、とかいう、公務員個人の身勝手な反対のレベルの問題ではありません。
しかし、消費者庁を担当する河野太郎大臣は、今のところ移転に前向きな方針を明らかにしており、本日の報道では、「20日朝の自民党の会議で「地方へ役所が行ったら仕事ができないぐらいの役所だったら、そんなもん潰した方がいい」と吠えました。」(TBSのニュース)と伝えられています。
それならば、もっと力のある財務省とか経済産業省とか文部科学省とかを移転したほうが効果があるのにと思うのですが、なぜ消費者庁なのか、上の河野発言の後半「潰したほうがいい」に力点があるのではないか、と勘ぐってしまいます。他の抵抗が強く、移せないから、政府としては格好をつけるための帳尻合わせなのでしょうけども。
さて、上に書きましたように反対意見はいろいろと出ており、各団体のサイトにも掲載されています。いちいち取り上げませんが、大阪弁護士会の意見書を参考にして、いくつかあげると(国民生活センターについては今回は割愛)、
①地方移転によって「情報の集約・調査・分析」、「情報の発信・注意喚起」、「各省庁への措置要求」、「すき間事案への対応」等の様々なアクセスが阻害され、結果として司令塔としての機能が低下・後退することが懸念される。
②緊急事態において、数時間内での対面の会議を実施し、官邸や省庁をまわっての情報収集と情報共有を行い、国民に情報を提供し、注意喚起する必要があり、、消費者庁が地方に移転した場合に現在と同じように迅速な対応を果たすことは極めて困難。
③消費者庁に総合調整機能は消費者行政の司令塔・エンジン役としての役割強化が求められており、関係省庁との日常的な連携、消費者団体や事業者団体が消費者被害の未然防止などの取組を行うに当たって、新たな消費者問題を迅速に把握、対応することは不可欠で、そのためには正確で深い理解が必要であり、迅速・確実に指令を出すために消費者庁が地方にあるという状態は役割を著しく低下させる。
④消費者庁が地方に移転すると、事実調査に多くの時間とコストがかかることが予想され、厳正かつ迅速な執行、見直し機能が阻害される可能性が極めて高い。
⑤消費者庁は、総合調整を図るべく、関係省庁や消費者団体や事業者団体と調整し、必要な措置を執らなければならず、このような役割を大きく阻害する。
⑥消費者政策においては、法改正を迅速かつ頻繁に行うことが重要だが、法改正においては、関係省庁との調整だけでなく、内閣法制局と頻繁に協議し、国会への対応が不可欠であり、法改正審議となれば、国会議員に個別に趣旨や内容説明を直接行うことも多いが、これらをテレビ会議や電話で行うことは限界があり、移転は消費者政策に計り知れないダメージを与える。
などです。 私もその通りだと思います。
もっとも、反対だけではいけないので、地方移転の弊害がなるべく少ないところはないかと対案を考えてみると、最高裁判所がいいのではないか、という結論になりました。
もともと司法予算獲得努力は不十分なところですし、司法機関ですので、中央行政官庁と頻繁に協議したり会議を行う場面もほとんどありません。国会対応も事業者団体との接触も不要。地方部局として各地にたくさん裁判所はあり、司法行政上の問題もありません。会議などはテレビ会議で充分できるはずです(と、河野大臣は言ってます。)。今のインターネット環境では必要な資料収集も充分可能ですし、必要な図書館くらいは、どこの官庁が移っても必要なので同じです。全国の裁判官会議などは、東京事務所を置いておけば充分でしょう。
最高裁判所の裁判手続が不便になるではないか、と心配のむきもあるかと思いますが、最高裁判所が審議する上告事件の裁判は、上告理由が限られていることもあり、裁判全体からすればごく一部ですし、おまけにそれら上告事件裁判のほとんどは、「弁論期日」すなわち当事者(弁護士を含む)が出頭しなければならない手続は開かれません。
ほとんどの上告事件は上告したら、書面審理だけで、判決が送られてきます。なので、最高裁判所の法廷に行ったことのない弁護士もたくさんいます。私も、実際に最高裁判所の法廷で口頭弁論期日に出席したのは、30年以上の弁護士生活の中で1回だけです。
したがって、徳島に限らず、地方移転する国の機関としては、最高裁判所がもっとも適していると思いますし、ついでに同様の理由で、最高検察庁も移転してもいいのではないか、と思います。そのついでに、日本弁護士連合会が地方移転しても私は構いませんが、我々の会費で移転しなければならないので、それは反対(苦笑)
【追記】
考えてみると、司法の最高機関が、行政府、立法府と離れた場所で公正な裁判を行うという点からも、いいアイデアではないかと思いました。
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コメント
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最高裁も国会対応ありますよ
投稿: | 2016年1月25日 (月) 20時00分