アイドルの恋愛禁止条項の効力についての判決
本日の朝日新聞の報道によれば、アイドルグループの女性がファンとの交際を禁じた規約に違反したとして、東京都港区のマネジメント会社が、女性と交際相手の男性らに約 990万円の損害賠償を求めた訴訟の判決(1月18日)で、東京地裁の原克也裁判長は「異性との交際は幸福を追求する自由の一つで、アイドルの特殊性を考慮しても禁止は行き過ぎだ」と述べ、会社の請求を棄却した、とのことです。
記事によれば、この判決では、「ファンはアイドルに清廉性を求めるため、交際禁止はマネジメント側の立場では一定の合理性はある」と理解を示す一方で、「異性との交際は人生
を自分らしく豊かに生きる自己決定権そのものだ」と指摘。損害賠償が認められるのは、アイドルが会社に損害を与える目的で故意に公表した場合などに限られ
る、と判断した、とされています。
この判決文自体は読めていませんので、正確にはわかりませんが、交際禁止条項が絶対的に無効とするものではなく、損害賠償義務が認められるのは限定的な場合である、と判断したのだと思います。
この事案では、19歳の女性が2012年4月、「ファンと交際した場合は損害賠償を求める」などと定めた契約を会社と結び、グループとして活動を始めたが。13年12月ごろにファンの男性と交際を開始し、14年7月には辞める意思を伝えて、予定されていたライブに出演しなかった、とのことです。
実は、ほぼ同時期に同じような契約条項が問題になった事件の判決が昨年ありました。これも判決文は入手できてませんので、報道記事によれば、ということになりますが、昨年9月18日の東京地裁判決では、交際禁止ルールを破ったアイドルグループの少女に、マネジメント会社が損害賠償を求めた訴訟で、ルールは妥当とする判決が出ています。当時15歳だった少女が2013年3月、マネジメント会社と専属契約を結び、「異性との交際禁止」などの規約を告げられグループとしてデビューしたが、10月に男性と映った写真が流出して交際が発覚しグループが解散となった、ということのようです。したがって、事実関係としては、こちらのほうがちょっと先ですね。
そして、こちらの裁判の判決で東京地裁の児島章朋裁判官は、アイドルとは芸能プロダクションが初期投資をして媒体に露出させ、人気を上昇させてチケットやグッズなどの売り上げを伸ばし、投資を回収するビジネスモデルと位置付けたうえで、アイドルである以上、ファン獲得には交際禁止の規約は必要で、交際が発覚すればイメージが悪化するとして、会社がグループの解散を決めたのも合理的で、少女に65万円の支払いを命じた、とのことです。
(追記:日経の報道によれば、こちらの判決は控訴されず確定しているようです。)
この東京地裁の両判決の違いがどこから来るのかは、報道記事だけではわかりませんが、大変興味深い判決となっています。
なお、お隣の韓国では公正取引委員会が、かなり以前から芸能プロダクションと芸能人との間の契約内容について、修正を命じるなどしています。
日本では、今のところ、公正取引委員会がこのような契約内容に対してアクションを起こしたというのは聞いたことがありません。独占禁止法上の優越的地位濫用などが問題になると思われます。労働契約に優越的地位濫用が適用されるか否かについては微妙なところですが、芸能プロダクションと芸能人の契約関係や労働契約ではないと思いますので、優越的地位濫用となるかどうかを検討することは問題ないかと思います。もちろん、「恋愛禁止」というような個人の基本的人権とも関わる内容については独占禁止法だけではなく、憲法はもとより、民法上の公序良俗違反の問題も考察していく必要があろうかと思います。
私も、アイドルの芸能契約に関して、恋愛禁止条項が絶対的に無効とまでは思いませんが、それが解除原因にとどまるのか、損害賠償義務まで負うのかといった点は十分に検討されるべき点かと思います。
この点を考えていくと、ベッキーさんの問題もいろいろと関係してくるのですが、今回はここまで。
【追記】(2017/01/07)
本文記載の両事件の判決を読むことができましたので、「アイドルの恋愛禁止条項の効力についての判決(その2)」 をアップしました。
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