源泉徴収票へのマイナンバー記載の取扱い変更
当ブログの本年8月5日付記事「書籍の紹介:「判例による不貞慰謝料請求の実務」(中里和伸著)」で紹介しました「判例による不貞慰謝料請求の実務」ですが、週刊「女性自身」最新号(10月18日号)で紹介されるなど話題になっているようですね。
さて、いよいよ今月から付番され通知が発送されることになっているマイナンバー(個人番号)ですが、昨日(10月2日)、国税庁のサイトで大きな取扱い変更が発表されました。これは同日付の省令の改正によるものです。
→ 国税庁サイト
「本人へ交付する源泉徴収票や支払通知書等への個人番号の記載は必要ありません」(PDF)
この省令改正前まで(つまり、10月1日まで)は、従業員らに渡す源泉徴収票等について、従業員および扶養家族のマイナンバーを記載しなければならないこととなっていました。
しかし、そうすると住宅ローンの借り入れで銀行に所得証明のため源泉徴収票を銀行に渡すというような場合に、マイナンバーを銀行などに提供することとなってしまいます。
こういった場合について、特定個人情報保護委員会のQ&Aには「そのような場合に、給与所得の源泉徴収票を使用する場合には、個人番号部分を復元できない程度にマスキングする等の工夫が必要となります。」(Q&A5-3)とされていました(なお、当記事を投稿した時点では、まだこの部分は書き換えられていません。)。
もちろん、元々のマイナンバーが記載された源泉徴収票とは別にマイナンバーが記載されていない源泉徴収票を会社が発行することは問題ありませんので、そのような対応を行うことが必要でした。
これが昨日の省令改正により、従業員に渡す源泉徴収票等(後記参照)については、本人や扶養家族らのマイナンバーを記載しなくてよいということになりました。
この源泉徴収票のマイナンバー記載は、我々弁護士としても、(マイナンバー法に関心のある人にとっては)以前から問題となっていました。
私などは10月1日の夜の会議で、この問題について、この分野の第一人者的な大阪の某弁護士と話をしていたくらいです。
というのも、源泉徴収票は、法的紛争との関連で、税務や労働関係のほかでも弁護士が取り扱う機会は大変多いのです。
多くは、収入を証明する書類として利用する場合で、交通事故や傷害事件、医療過誤などの損害賠償事件の場合の損害立証のケースはもちろん、家事事件でも、養育費や婚姻費用の算定など、依頼者や第三者の収入を証明しなければならないことは日常茶飯事なので、マイナンバーが記載された源泉徴収票を受け取ったり、裁判所やADR機関(交通事故紛争処理センターなど)に提出したりする場合に、マイナンバーの取得、提供が許される事務に該当せず、どうすればよいのか、という点が(マイナンバー法19条12号の解釈などを含めて)未解決のままだったわけです。マイナンバー不記載のものを再発行できるとしても、例えば、退職した企業のマイナンバー入りの源泉徴収票はあるが、その会社が協力しないとか倒産して存在しない場合はマイナンバーの記載していない源泉徴収票を再発行してもらうことは困難であるという点もありました。
それが、上記の省令改正の方針大転換で、源泉徴収票等についての悩ましさの大部分はなくなりました。
ただし、その他、事案によっては、マイナンバー記載の書類(住民票を含む)を使わざるを得ないケースというのはいろいろと考えられます(会社側の源泉徴収票、支払調書の控えを書証で使うなど、マイナンバーが記載された社内の資料もあるかもしれませんし、レアケースでしょうけど、マイナンバー記載の住民票などにメモの記載があって、そのメモが重要な書面であるとか)。
そういった場合は、やはり依頼者らからの取得や裁判所などへの提出については、弁護士として取扱いに気をつける必要はあります。
なお、このような大転換がありましたので、これまで書かれていた記事、ブログなどで、現時点では間違いとなる記載のものが多くあります。ご注意ください。
【今回、マイナンバーの記載が不要とされた書類】
(※下記のうち、給与などを受ける人に交付する書類に限られます。)
・給与所得の源泉徴収票
・退職所得の源泉徴収票
・公的年金等の源泉徴収票
・配当等とみなす金額に関する支払通知書
・オープン型証券投資信託収益の分配の支払通知書
・上場株式配当等の支払に関する通知書
・特定口座年間取引報告書
・未成年者口座年間取引報告書
・特定割引債の償還金の支払通知書
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