『詐欺の帝王』(溝口敦・文春新書)
お盆休みですね。とはいっても、私の事務所は休みにはなっていないのですが。
こんな本を読んでみました。
暴力団などの裏社会に関する取材の得意なフリージャーナリスト溝口敦氏の本です。
この本の主人公は、匿名にはなっていますが、オレオレ詐欺業界の頂点に立っていたという30代後半の男性です。彼への直接の取材から本書は成り立っています。
まず、冒頭の学生のイベントサークルやらチーマーやらの話は、時々、事件がらみでマスコミ報道で見聞きするくらいで、世代的にいっても私はよく知りませんので、学生にそんな世界があったのか、という感じで少々驚きました。
その後の、ヤミ金、オレオレ詐欺、イラク・ディナール詐欺に至る数々の話は、私自身、被害事案の面からそれなりに見てきたものですが、それを業者(犯罪者)側から見るとこうなるのかと大変に興味深く読みました。商売がしずらくなったヤミ金業者が、オレオレ詐欺に移っていったという話自体は当時から聞こえていた話で、それらの点についても具体的に触れられています。
もちろん、自殺者を含めた多くの被害者から巻き上げた金銭が、女性とのデートでディズニーランドを借り切って数千万円が消えていくなどといった話などは、非常に腹立たしい、というレベルをはるかに超えるのですが。
よく、詐欺商法の事件に対して、「騙される方が悪い」という声があがります。
もちろん、そういう一面もあるでしょうし、消費者側も充分に防衛する必要はあります。ただ、詐欺商法を次々に編み出す連中は、この本の主役のように極めて頭が良く、どうやれば人からお金を吸い上げることができるかについて智恵を巡らせてきます。そして、そうやって集めたお金が大量に裏社会に消えていくことは、直接の被害者だけではなく、(騙されなかった人も含めて)社会全体に大きな損失を与えているものですので、やはり、叩いていく必要があると思います。
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