コンプガチャ規制問題の補足
消費者庁がコンプガチャについて景品表示法による規制に乗り出す方針との報道は、昨日朝の読売に続いて日経など他の報道機関も流し始めました。各社の記事の中身を見る限りは消費者庁ルートの情報を元にしているものと思われます。
昨日もリンクいたしました「やまもといちろうBLOG」でも関連の補足記事を2つほど追加されていますが、報道よりも突っ込んだ情報が記載されていますので、関心のある方は是非お読みください。
→ やまもといちろうBLOG
・「消費者庁がコンプガチャ禁止へ、GREE田中社長は暖かくして寝る(補足あり)」
・「ソーシャルゲームへの「コンプガチャ」規制関連のメモ」
・「さらなる補遺」
なお、やまもといちろう氏は、課金の返還請求について触れておられますが、景品表示法違反があったからと言って、その取引が無効になったり取り消せるという効果には直接つながりません。あくまでも行政規制ですので、仮に、消費者庁が不当景品だということで措置命令を出しても、課金返金の請求権が発生するというものではありません。民法や消費者契約法などの民事法で返金が請求できる根拠が存在することが必要ですが、これは景品表示法違反というだけでは駄目ですので、ご注意ください。
他にも、ネット上ではいろいろと今回の報道に対する反応がブログなどにあがってきていますが、法律的な見地からは、次のブログがお勧めです(というか、あまりにも著名ブログでありますが)。いくつかの重要な指摘もなされています。
→ 企業法務戦士の雑感
「景表法は変質したのか?~「コンプリートガチャ」規制をめぐって。」
また、今回「カード合わせ」規制がクローズアップされたため、以前のAKB48の「桜の花びらたち2008」発売の際のキャンペーンが中止されたケースについて関連した発言も目立つようです。確かに、あのときも景品表示法(当時は公正取引委員会が所管)が話題になりましたが、「カード合わせ」の突っ込んだ話にまでなっていたかどうか確かな記憶はありません。なお、AKB側の広報では、景品表示法ではなく、独占禁止法(不公正な取引方法)に違反する恐れあり、とのことで中止したとされています。
当時の当ブログの記事をリンクしておきます。
→ 「AKB48の企画中止と独占禁止法」(08/3/23)
当時は、AKB48が今のようなトップアイドルグループになるとは思ってませんでしたね。
【追記】(5/6)
なお、課金返還の話に限りませんが、個別の相談などはブログでは受け付けておりませんので、コメント等にもお返事できないと思いますが、ご了承ください。わざわざ追記することでもないんですけど、そういった感じのキーワード検索でアクセスされている方もおられるようなんで、先に書いておきます。
【追記】(5/6)
やまもといちろうBLOGの最新記事によれば、被害者の会が損害賠償訴訟を起こす動きがあるとのこと、今回の消費者庁の動きと直接関連があるものではないということです。ひとまず、ご紹介のみ。
「冗談のような「ソーシャルゲーム被害者の会」が立ち上がり、返還訴訟を起こすらしい」
蛇足的に付け加えると、返金、損害賠償請求の可能性から考えれば、今回の「カード合わせ」の該当性の問題は本筋ではなく、ガチャ全体のシステムの暴利性、欺瞞性(公序良俗違反)みたいなものが立証できるとか、未成年取消の主張ができる、といったところが、突っ込み所ではないかと思いますね。
【追記】(5/9)
どちらも企業法務分野の著名ブログですが、今回の問題に関連した記事が出されていますのでご紹介。
→ ビジネス法務の部屋
「闘うコンプライアンス(景表法違反で御社は闘いますか?)」
大阪の山口利昭弁護士のブログ。ガチャ問題そのものではなく、このような企業の景品表示法違反リスク一般について書かれています。
→ 企業法務マンサバイバル
「コンプリートガチャ問題に対する行政指導のあり方について」
橋詰卓司氏のブログ。今回の問題に関連して、消費者庁の行政指導のあり方について懸念を示されています。
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コメント
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興味深く拝読しました。
直ちに返還請求権が発生するという論調が正しくない、とのご指摘はその通りかと思います。
他方で、景表法上違法と行政判断されるような手法を用いていること、また、特にコンプガチャ自体、人間の確率に対する認識の錯誤を利用していることなどから、消費者側が契約の錯誤無効を主張する余地はあるのではないかと愚考する次第です。
そのあたりについてはどうなのか、ご意見をいただければ幸いです。
投稿: ドラ猫さん | 2012年5月 6日 (日) 16時39分
追記の前にコメントいただいてたんで、ドラ猫さんのコメントにはお答えします(以後は個別コメントへのお返事は原則としてしないと思います。)。
もちろん、本文にも少し書いてあるように、個別の事案で、民法上の錯誤や詐欺に該当するような場合、あるいは、契約上の債務不履行(安全配慮義務違反含む)に該当する場合など、返金や損害賠償がありうるのは、むしろ当然ですね。
書きたかったのは、「景品表示法違反の効果として、返金請求や損害賠償請求が直接生じるわけではないですよ。」という点です。
そこの違いを明確にしておかないと、最悪の場合、被害者救済を名目にした2次被害が生じるという危険もありますので、補足しておいたものです。ご理解ください。
投稿: 川村 | 2012年5月 6日 (日) 17時45分
お忙しいところご返答ありがとうございました。
趣意理解できたつもりです。
これからもこういった前例が少ない時事事案について、
専門的な見地からの考察を頂けると、門外漢の身からは
大変勉強になり、有難いです。
投稿: ドラ猫さん | 2012年5月 6日 (日) 18時57分
行政法全般の解釈としては間違っていませんが、
景品表示法違反の結果として損害賠償が発生する可能性があるとの論理もあるようですよ?
行政規制法の中でも消費者の利害に関する規制の場合には認められている判例もあるようですっと
投稿: 実務重視の法学生 | 2013年8月28日 (水) 03時32分
「実務重視の法学生」さん
コメントありがとうございます。
論理といいますか、一部少数説にそのような考え方が示されているものがあることは承知しておりますが、実務的には現時点では取り得ない考え方だと思いますよ。
もちろん、本文および以前のコメントへの返信に書いていますように、行政規制違反行為が結果的に民法(債務不履行や不法行為)を根拠とする損害賠償請求権の発生につながることがあるのは当然ですね。
また、「判例」をどのような意味でお使いかはわかりませんが、そのような判例があるのであれば、具体的にご教示いただければ幸いです。
投稿: 川村 | 2013年8月28日 (水) 07時38分