携帯ゲームの「魚の引き寄せ画面」の著作権(グリーvsDeNA著作権侵害事件東京地裁判決)
先日、携帯電話の釣りゲーム「釣りゲータウン2」を運営するDeNA(ディー・エヌ・エー)らに、このゲームの配信停止等と約2億3400万円の損害賠償の支払を命じる東京地裁判決がありましたが、この判決が裁判所サイトに掲載されたようです。なお、報道によれば、原告、被告双方とも、この判決に対して控訴をしているようです。勝訴と報じられたグリーについても、後述の通り、その主張のかなりの部分は排斥されており、グリーも控訴せざるを得ないというところでしょう。
事案は、DeNAらの「釣りゲータウン2」が、グリーの携帯電話釣りゲーム「釣り★スタ」を模倣したものだとして、グリーがDeNAらに対して、配信停止や約9億4000万円の損害賠償などを求めていたもの。
平成24年2月23日東京地裁判決 著作権侵害差止等請求事件
判決文を見ると、グリーの主張のうち、DeNA作品の「魚の引き寄せ画面」が、グリー作品の「魚の引き寄せ画面」の著作権及び著作者人格権を侵害する、という点については、侵害を認めました。
判決は、双方の「魚の引き寄せ画面」を比較して、共通点、相違点を指摘したうえで、
グリー作品につき、「・・・特に,水中に三重の同心円を大きく描き,釣り針に掛かった魚を黒い魚影として水中全体を動き回らせ,魚を引き寄せるタイミングを,魚影が同心円の所定の位置に来たときに引き寄せやすくすることによって表した点は,原告作品以前に配信された他の釣りゲームには全くみられなかったものであり,この点に原告作品の製作者の個性が強く表れているものと認められる。」とし、
DeNA作品について、「・・・上記のとおり原告作品との相違点を有するものの,原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴といえる,水面上を捨象して,水中のみを真横から水平方向の視点で描いている点」,「水中の中央に,三重の同心円を大きく描いている点」,「水中の魚を黒い魚影で表示し,魚影が水中全体を動き回るようにし,水中の背景は全体に薄暗い青系統の色で統一し,水底と岩陰のみを配置した点」,「魚を引き寄せるタイミングを,魚影が同心円の一定の位置に来たときに決定キーを押すと魚を引き寄せやすくするようにした点」についての同一性は,被告作品の中に維持されている。」として、
「したがって,被告作品の魚の引き寄せ画面は,原告作品の魚の引き寄せ画面との同一性を維持しながら,同心円の配色や,魚影が同心円上のどの位置にある時に魚を引き寄せやすくするかという点等に変更を加えて,新たに被告作品の製作者の思想又は感情を創作的に表現したものであり,これに接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものと認められる。また,これらの事実に加えて,被告作品の製作された時期は原告作品の製作された時期の約2年後であること,被告らは被告作品を製作する際に原告作品の存在及びその内容を知っていたことを考慮すると,被告作品の魚の引き寄せ画面は,原告作品の魚の引き寄せ画面に依拠して作成されたものといえ,原告作品の魚の引き寄せ画面を翻案したものであると認められる。」としています。
そして、DeNAらが、これらについて、いずれも単なるアイデア、又は、平凡かつありふれた表現にすぎず創作的表現とはいえないと主張した点については、
「・・・魚の引き寄せ画面の共通点は,単に,「水面上を捨象して水中のみを表示する」,「水中に三重の同心円を表示する」,「魚の姿を魚影で表す」などといったアイデアにとどまるものではなく,「どの程度の大きさの同心円を水中のどこに配置し」,「同心円の背景や水中の魚の姿をどのように描き」,「魚にどのような動きをさせ」,「同心円やその背景及び魚との関係で釣り糸を巻くタイミングをどのように表すか」などの点において多数の選択の幅がある中で,上記の具体的な表現を採用したものであるから,これらの共通点が単なるアイデアにすぎないとはいえない。」として排斥しました。
そして、DeNAらが、ゲームを共同製作して公衆に送信した行為は、グリーの魚の引き寄せ画面に係る著作権(翻案権、公衆送信権)を侵害し、また、DeNAらが、グリーの魚の引き寄せ画面を改変して魚の引き寄せ画面を作成した行為は、グリーの同一性保持権を侵害するものと認められる、として、DeNAらのゲームの複製及び公衆送信の差止、記憶媒体の廃棄の請求を認め、さらに損害賠償として2億3460万円の支払を認めました。
ただ、グリーの以下の主張については、東京地裁は認めませんでした。
- DeNA作品における主要画面の変遷は、グリー作品における主要画面の変遷に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害している。
- DeNAらのウェブページに魚の引き寄せ画面を掲載する行為は、他人の商品等表示として周知のものと同一又は類似の商品等表示を電気通信回線を通じて提供し、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為(不競法2条1項1号)に該当する。
- DeNA作品を製作し公衆に送信する行為は、グリーの法的保護に値する利益を侵害する不法行為に当たる。
また、損害額についても、グリーの請求額が約9億4000万円であったのに対し、無形損害1億円の主張を排斥するなど、判決での認容額は2億3460万円となっています。
さらに、謝罪広告を求めた点についても、「・・・原告作品の魚の引き寄せ画面に係る原告の著作権の侵害の内容,態様等に照らすと,上記差止め及び損害に対する賠償金に加えて,原告の名誉,声望を回復するために適当な措置として,原告の請求する謝罪広告を掲載する必要性はない」として、請求を認めませんでした。
【追記】(8/8)
知財高裁が本日、著作権侵害を認めない逆転判決を出しました。
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