いわゆる「写り込み」などに関する著作権法改正法案公表
今の国会に著作権法の一部を改正する法律案が提出されています。
改正の趣旨としては、
「デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、(1)著作物の利用形態の多様化等が進む一方、(2)著作物の違法利用・違法流通が常態化している中、以下のとおり規定を整備。
(1)の観点から、著作物等の利用を円滑化するため、いわゆる「写り込み」等に係る規定等を整備。
(2)の観点から、著作権等の実効性確保のため、技術的保護手段に係る規定を整備。」ということです。
著作権に関しては、以前から、いわゆる「フェアユース」の導入が問題になっているわけですが、今回の改正のうち、上記(1)の観点は、「フェアユース」の議論の中で出てくるいくつかの具体的な事例の場合における著作物の利用を認める内容になります。しかし、「フェアユース」の導入という点からはあまりにもわずかな部分ではあります。
このうち、広く一般の人に関係するのは、いわゆる「写り込み」に関する改正です。写真撮影したときにたまたま背景に他の著作物が写り込んでいた場合にその著作物に関する著作権侵害についての問題です。
もっとも、一般の人の場合は、このようなことがあっても、実際にはこれまでも問題にされることはほとんどなかったと思われますが、たとえば、ホームページやブログに自分で撮影した写真や戸外での録音をアップロードしたりした場合には問題となりうるもので、これが著作権侵害に該当するとすれば大変なことになります。
「写り込み」問題についての現行法上でのこれまで議論については、経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(平成23年6月改定)の『Ⅱ-10-3 著作物の写り込み』を参照いただきたいですが、今回の改正法案では、次のとおり著作権法30条の2(付随対象著作物の利用)を新設することになっています。
第30条の2(付随対象著作物の利用)
写真の撮影、録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて、当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該創作に伴つて複製又は翻案することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により複製又は翻案された付随対象著作物は、同項に規定する写真等著作物の利用に伴つて利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
ちょっと括弧書きが多くて読みづらいですが、写真撮影や録音をするにあたって、その対象となる事物や音から分離することが困難な他の著作物(これを「付随対象著作物」と定義しています。)は、本来の写真や録音に伴って複製、翻案が(著作権者の承諾なくても)できる、ということです。
具体的には、何かの写真や映画の撮影する場合に、背景にあるポスターも撮影してしまうとか、街角のインタビュー録音などの際にバックに音楽が流れていて一緒に録音してしまうような場合ですね。
ただし、規定では、本来の写真や録音等での軽微な構成部分に限られるとされています。また、著作権者の利益を不当に害してはならない旨の縛りもされています。「写り込み」の名目で、バックの写真などの著作物を複製することが目的であるような利用法までは許されませんのでご注意を。
なお、上記の「写り込み」に関する規定などについては、平成25年1月1日が施行日として予定されています(まだ成立してませんので、あくまでも予定です。)。また、他の改正部分も仕事の場面では結構関係するところもありますが、今回は省略します。
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