通信料金高額化に対する注意喚起・情報提供義務違反を認めた京都地裁判決(ソフトバンクモバイル)
1月の判決で、どうやら報道もされたようですが、見逃していました。原告代理人は京都の長野浩三弁護士のようです。先週、長野弁護士の別の判決(セレマに対する消費者団体訴訟判決)についての研究会に参加し、その後、食事も一緒にしましたので、知っておれば、この判決についてもお聞きできたのに残念です。
携帯電話をパソコンにつないでインターネット通信をするサービス「アクセスインターネット」を利用して約20万円のパケット通信料を請求され支払ったとして、ソフトバンクモバイル社に返還を求めた訴訟ですが、京都地裁は、約10万7千円の返還を命じる判決を言い渡したというものです(裁判所サイトの下級裁判所判例集に掲載。)。
結論的には、通信契約に基づく料金高額化への注意喚起のための情報提供義務の不履行による損害賠償請求部分の損害(原告の過失相殺3割有り)が認められています。通信事業者に対して、このような注意喚起義務を認めた点で大変重要な判決であろうと思います。
京都地方裁判所平成24年1月12日判決 通信料金返還請求事件
この裁判で、原告は、下記1または2を理由として、通信料金のうち1万円を超える部分に相当する19万6571円と法定の遅延損害金の請求を行っています。
通信契約における通信料金を定める契約条項のうち、一般消費者がサービスを利用する際に通信料金として通常予測する額である1万円を超える部分は、消費者契約法10条若しくは公序良俗に反し無効であることによる不当利得返還請求権。
- サービスを利用する際の通信料金を具体的に説明する義務若しくは同サービスの利用により通信料金が高額化することを防止するための措置を採るべき義務の履行を怠ったとする、通信契約の債務不履行による損害賠償請求権。
この原告の主張に対し、判決は、1の消費者契約法違反、公序良俗違反は認めませんでした。
しかし、2に関して、判決は、契約時点での説明、情報提供義務は果たしており、義務違反はないとしたものの、料金が高額化した段階での情報提供義務に関して、ソフトバンクモバイルは、「遅くとも,原告のアクセスインターネットの利用によるパケット通信料金が5万円を超過した(略)段階において,原告が,誤解や不注意に基づきアクセスインターネットを利用し,通信料金が予測外に高額化したことを容易に認識し得たといえる。」とし、「被告は,原告に対し,パケット通信料金が5万円を超過していることをメールその他の方法により通知することにより,原告に通信料金の高額化に関する注意喚起をする義務があったというべきである。」として、原告への注意喚起義務を認めました。ソフトバンクモバイルが実際に警告メールを発したのは通信料金が10万円を超過した翌日だったようです。
そして、ソフトバンクモバイルが、通信料金が5万円を超過した旨の電子メールを送信するなどして注意喚起義務を果たしていれば、原告は直ちにアクセスインターネットの利用を中止したものと認められるとして、15万3055円の通信料金相当額は債務不履行と相当因果関係のある損害と認めています。
ただし、原告が、アクセスインターネットを利用した場合の通信料金について問い合わせをしたり、パケット通信料金の確認をすることなく、アクセスインターネットの利用を継続しており、パケット通信量に従って通信料金が発生することは知悉し、携帯サイトの閲覧よりアクセスインターネットによるPCサイト等の閲覧の方が画面に表示される情報量が大きいことも認識していたのであるから、通信料金の高額化については十分な注意を払うべきであったから、累積パケット通信料金額を把握するなど一切行わなかった点で過失があるとして、原告の過失相殺(3割)を認定しています。
そのため、上記損害額約15万円の7割、10万7138円が、この判決の認容額となりました。
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