ピンク・レディーvs光文社事件、上告審判決(最高裁)
本日、ピンク・レディーの肖像写真の利用に関して、ピンク・レディー側が損害賠償を求めていた裁判で、最高裁判所の上告審判決が出ました。既に裁判所webサイトにも掲載されています。
最高裁判所 平成24年2月2日第一小法廷判決 損害賠償請求事件
この事件については、1,2審とも当ブログで判決時に取り上げましたので、事案の内容はそちらをごらんください。
→ 「ピンクレディvs光文社事件控訴審判決(知財高裁)」(09/8/29)
→ 「ピンクレディが出版社の写真使用を訴えた事件の判決(東京地裁)」(08/7/13)
(※正しい表記は「ピンク・レディー」です。ご容赦ください。)
1,2審とも、裁判所は、人格権に由来するものとして、いわゆる「パブリシティ権」があることを認めましたが、本件事案においては、記事や写真使用の態様から見て権利侵害は否定して、結論としては、いずれもピンク・レディー側の請求を認めませんでした。
今回の最高裁の上告審判決も、基本的には同様で、商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利として「パブリシティ権」は認めましたが、本件の行為は違法とはいえないとして、上告を棄却したものです。
この判決は、人の「パブリシティ権」を認めた初めての判決であり、それを侵害する行為が不法行為と認められるための要件を示した点で、大変重要な判例であるといえます。
一般の方が、このニュースに触れると、判決結果を聞いて、「パブリシティ権」が認められなかったという受け取り方をする人も多いとは思いますが、法律家的には、「パブリシティ権」が認められた重要な判決、ということになると思います。面白いところです。
今回の判決において、「パブリシティ権」については、
「人の氏名,肖像等は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される。」
「そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。」として、これを認め、その一方で、
「他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。」として、権利が制限される場面があることについて述べています。
そして、肖像等を無断で使用する行為が「パブリシティ権」を侵害し、不法行為法上も違法となる場合として、
- 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,
- 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,
肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とする
という要件を示しました。
これを前提として、本件の事実関係からみて、ピンク・レディーの肖像写真に顧客吸引力は有するものの、
「・・・本件記事の内容は,ピンク・レディーそのものを紹介するものではなく,前年秋頃に流行していたピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法につき,その効果を見出しに掲げ,イラストと文字によって,これを解説するとともに,子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。そして,本件記事に使用された本件各写真は,約200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上,いずれも白黒写真であって,その大きさも,縦2.8㎝,横3.6㎝ないし縦8㎝,横10㎝程度のものであったというのである。これらの事情に照らせば,本件各写真は,上記振り付けを利用したダイエット法を解説し,これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって,読者の記憶を喚起するなど,本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきである。」
として、本件行為は、もっぱらピンク・レディーの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず、違法とはいえないとしました。
なお、この判決には金築誠志裁判官の詳しい補足意見が付されていますので、興味のある方はご覧ください。
【追記】(2/4)
蛇足的説明を次の別記事にして書きました。
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