コンピュータウイルス作成等の罪に関する刑法等改正案成立
本日午前の参議院本会議で、コンピューターウイルスの作成・配布の罪の新設などを内容とする「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」が可決され、成立しました。主に批判的な立場から「コンピュータ監視法」という名称が使われているのをよく見ますが、そのような特別法ができたわけではなく、法律の形から言うと、刑法や刑事訴訟法などの改正ということになりますね。サイバー犯罪条約との関連もある今回の改正ですが、法律案全体としては、かなりの数の法律の改正が含まれており、よく見ると、暴力団等の反社会的勢力が関与する強制執行妨害行為の抑止のため強制執行妨害の罪の拡充、厳罰化など、IT化とは関係のない改正点もいろいろとあります。
ウイルスなどに関する刑法の改正としては、第19章の2「不正指令電磁的記録に関する罪」という章を新設し、その中に第168条の2(不正指令電磁的記録作成等)と第168条の3(不正指令電磁的記録取得等)を規定した、という点が大きいところで、その他、従来の第234条の2(電子計算機損害等業務妨害)について新たに未遂を罰すること、第175条(わいせつ物頒布等)に「電磁的記録に係る記録媒体」を追加して電子メール等でわいせつ写真ファイルを送信した場合も犯罪とした、などいくつかの改正がなされています。
刑事訴訟法については、データの差押手続などの整備が主なものです。令状なしに差押が可能になったかのような誤解に基づく意見も見られますが、今回の改正においても差押には裁判所による令状が必要なのは当然のことです。
法律案などの資料(Q&Aもあります)については → こちら
ウイルスの作成、提供に関する罪は上記の内、第168条の2(不正指令電磁的記録作成等)になりますが、ひとまず1項の条文を見ると(改正条文の中身も知らないままの意見がネットなどで多く見られるのは残念ですね。)、「正当な理由がないのに」、「人の電子計算機における実行の用に供する目的で」、(後掲の)「電磁的記録その他の記録を作成し又は提供した」場合が、処罰対象になります(2、3項もありますが)。
そして、この「電磁的記録」の具体的なものとして、次のものが挙げられています。
- 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
- 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
つまり、これが「ウイルス」となるわけですが、これが広く解釈されるとソフト開発などにあたって技術者が萎縮するのではないか、いわゆるバグの放置まで罰せられるのではないか、などといった意見、批判がなされています。今回の改正に関する意見については、ネット上でいろいろと見ることができます(代表的なものとして、次の日弁連会長声明や高木浩光氏のブログ(「高木浩光@自宅の日記」)など)。
→ 日弁連・「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正
する法律案」について慎重審議を求める会長声明
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