出店者の商標権侵害行為に関する電子モール運営事業者(楽天)の責任についての判決(東京地裁)
9月というのに暑すぎる日が続いています。それでも、空を見ると秋の雲になってはきているのですが。私もちょっとバテ気味ですが、皆さんもご自愛ください。
さて、今日、裁判所サイトの知的財産裁判例で見つけた8月31日の判決です。
平成22年8月31日東京地裁民事第46部判決
商標権侵害差止等請求事件
これは、知財事件で、要するに商標権者が被告の商標権侵害行為に対して、使用等の差止と損害賠償などを求めたというものなのですが、この事件の興味深いところは、被告が電子モール運営事業者(ここでは楽天)というところです。つまり楽天市場に出店していた者が、原告の商標を侵害する商品を展示・販売したという事案で、モール運営事業者である楽天を被告として、商標権侵害の法的責任を追及したというケースになります。
モール事業者の法的責任については、いろいろ論じられてきたところです。
→ 経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(PDF)
P44~「電子商店街(ネットショッピングモール)運営者の責任」参照
しかし、ここで一般的に議論となるのは、モールに出店した加盟店から商品を購入した顧客が、その取引に関してモール事業者に法的責任を追及できるか、という点です。名古屋でのヤフーオークション訴訟もその類型でしたね。
本件は、それとは異なって、顧客からの責任追及ではなく、出店した加盟店が商標権侵害の商品を売ったことについて、商標権者がモール事業者を追及したという事案です。
2年前に当ブログでもご紹介しましたが、アメリカとフランスの裁判所で、偽ブランド品の横行に関して、世界的なオークションサイトの大手イーベイに対して著名なブランド事業者が起こした裁判の判決の結論が分かれたことがありました(その後どうなったかフォローできてませんが)。
当ブログ「偽ブランド品のオークション出品と運営者イーベイの責任(フランス)」(08/7/1) など
今回の東京地裁の判決では、結局、モール運営事業者(楽天)の責任を認めなかったのですが、楽天が、商標法2条3項2号の「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡」した行為を行ったということがいえるかどうかの判断が問題となりました(本件では不正競争防止法2条1項1号2号の「譲渡のための展示」「譲渡」も同様に解している)。
これについて、判決が認定した楽天市場のシステムを前提として、
楽天市場においては、①出店者が被告サイト上の出店ページに登録した商品について、顧客が楽天のシステムを利用して注文(購入の申込み)をし、出店者がこれを承諾することによって売買契約が成立し、出店者が売主として顧客に対し当該商品の所有権を移転していること、②楽天は、売買契約の当事者ではなく、顧客との関係で、上記商品の所有権移転義務及び引渡義務を負うものではないことが認められ、これらの事実によれば、楽天の出店ページに登録された商品の販売(売買)については、当該出店ページの出店者が当該商品の「譲渡」の主体であって、楽天は「主体」に当たらない、としました。
また、実質的にみても、商品の販売は出店者が、楽天とは別個の独立の主体として行うものであることは明らかであり、販売の過程において、楽天が出店者を手足として利用するような支配関係は勿論のこと、これに匹敵するような強度の管理関係が存するものと認めることはできず、また、販売による損益はすべて本件各出店者に帰属するものといえるから、楽天の計算において販売が行われているものと認めることもできないし、販売について、楽天が出店者とが同等の立場で関与し、利益を上げているものと認めることもできない、などとして、楽天が商品の販売(譲渡)の主体あるいは共同主体の一人であるということはできないというべきである、としています。
したがって、本件においては、電子モール運営事業者は「譲渡のための展示」「譲渡」(商標法2条3項2号)の主体にあたらない(不正競争防止法2条1項1号2号も同様)、として、商標権者たる原告の請求を棄却したものです。
蛇足ですが、本件の商標は、誰でも知ってる棒付きキャンデーのあの商標です。
【追 記】(12/3/2)
平成24年2月14日に知財高裁判決が言い渡されました。結論は一審同様の原告敗訴ですが、判断理由は少し違っています。
→ 「チュッパチャプスvs楽天商標権侵害訴訟知財高裁判決について」
(12/2/27)
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