広告媒体の不法行為責任を認めた判決(大阪地裁)
この土曜、日曜は、連続して講演の仕事でした。
日曜は、消費者団体関係の研修講座で「情報化社会と消費者」というテーマでしたので、私の最近の講演としては一番多い種類のものでしたが、土曜のほうは少し珍しくて、日本広告学会の関西部会で消費者問題と広告に関してしゃべってきました。
先日発行された雑誌「現代消費者法№6」(民事法研究会発行)の特集「広告と消費者法」に少し書かせていただいたこともあって、そんな関係でお呼びがかかった次第です。なお、この雑誌特集はヨーロッパにおける広告規制などについても詳しい紹介があり、この種のテーマの文献集としては有用かと思います。
→ 「現代消費者法№6」(民事法研究会Webサイト)
今回の広告学会での講演は、私にとっては新しい体験で、広告に関係する研究者や業界の方々に聴いていただくということで若干心配していましたが、何とか責任を果たすことができたようでした。皆さん、ありがとうございました。
ところで、私は、上記雑誌に、広告媒体(広告事業者や放送局、新聞社、雑誌社など)に対する消費者からの責任追及について書いており、責任を否定する判決が相次いでいる、としています。しかし、報道もされましたように、つい先日(5月12日)、広告代理店および広告掲載雑誌出版社の両方に対して損害賠償を認めた判決が大阪地裁で出ました。虚偽内容が記載されたパチンコ攻略法の広告を信じて情報を購入して損害を受けた原告が訴えていたもので、大阪弁護士会の消費者保護委員会で活躍している弁護士さんたちが勝ち取った判決です。
大阪地裁判決は、一般論として、この種事案の先例的最高裁判決(結論的に責任は否定)である平成元年9月19日判決と同様に、
「雑誌広告は、雑誌上への掲載行為によって初めて実現されるものであり、その広告に対する読者らの信頼は、当該雑誌やその発行者に対する信頼と全く無関係に存在するものではなく、広告媒体業務にも携わる雑誌社及びその広告の仲介・取次をする広告代理店としては、雑誌広告の持つ影響力の大きさに照らし、広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって、読者らに不測の損害を及ぼすことを予見し、または予見し得た場合には、真実性の調査権限をして虚偽広告を読者らに提供してはならない義務があり、その限りにおいては雑誌広告に対する読者らの信頼を保護する必要があると解され、その義務に違反した場合は不法行為が成立すると解される。」
としたうえで、本件パチンコ攻略法に関しては、両社ともに、広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があった、として、その責任を認めたものです。このパチンコ攻略法の内容がかなり怪しげなものであり、しかも、両社はパチンコの事情に詳しいという事情もあって、従来の枠組みのもとでも、不法行為責任が充分に認めらるものであったということがいえるでしょう。ただ、実際に広告媒体事業者の賠償責任が認められたことは他の業者に対しても影響を与えるものと思います。
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