写真の職務著作性に関する知的財産高裁判決
昨日は著作権に関する書籍のご紹介でしたが、私に関して言えば、ここ最近、著作権がらみの紛争、相談に関わることが多くなりました。年末に和解解決した著作権の裁判もありました。著作権といっても具体的な態様はさまざまで、WEBサイトの掲載内容に関するもの、商品デザイン的な著作物の紛争、プログラム関係など広い分野にわたります。大企業や出版業界などでなくても、私の中心的な顧客層である一般の中小企業、一般市民でも、著作権問題がいろいろと関係してきていることを実感いたします。
さて、裁判例のご紹介なのですが、これは昨年末に出された知的財産高等裁判所の判決です。主要争点は、写真の「職務著作」性です。著作権法第15条1項の問題ですね。
平成21年12月24日知的財産高裁判決
損害賠償請求控訴事件(著作権) 裁判所サイトより
この事件の原告(控訴人)は個人営業のフリーカメラマン。被告(被控訴人)会社が、オートバイレース写真を撮影して、レース終了後即時に販売する事業を企画して、原告(控訴人)がその写真撮影を行うことになり、原告(控訴人)はレースでの撮影を何度か行いました。
ところが、被告(被控訴人)会社が、その写真の一部(電子データ)を別の会社に提供し、別の会社が原告(控訴人)の承諾なく写真をホームページやポスターに掲載しました。
そのため、原告(控訴人)が被告(被控訴人)会社に対し、写真についての著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)の侵害を理由とする損害賠償請求として、著作権侵害分356万円・著作者人格権侵害分150万円の合計506万円及び遅延損害金の支払を求めた、というのが本件訴訟です。
原審(水戸地裁龍ヶ崎支部)は、本件写真が使用者たる被告(被控訴人)会社のために作成された職務著作であるか否か(著作権法15条1項)につき、職務著作性を肯定して原告(控訴人)の請求を棄却しました。職務著作ということになると、著作権はそもそも原告のカメラマンではなく、被告会社に帰属することになるので、原告は著作権の侵害を主張できないことになるわけです。
そして、控訴審である知的財産高裁は、職務著作性を認めず、原審の判断を採用しませんでした。この点についての主要な判断部分を以下引用します。
「・・・著作権法15条1項は,法人等において,その業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で,その法人等が自己の名義の下に公表するものの著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とすると定めているところ,「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実体にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべきものと解される(最高裁平成15年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事209号469頁参照)。」
そして、本件では、認定事実(詳しくは判決本文をご覧ください)を総合勘案すれば、
「・・・控訴人は基本的には被控訴人との契約に基づきプロの写真家として行動していた者であり,被控訴人の指揮監督の下において労務を提供するという実体にあったとまで認めることはできない。」
とし、職務著作であるとする被控訴人の主張は採用できず、これを肯定した原判決の見解は採用できないとしました。つまり、カメラマンの著作権を認めました。
しかし、本件写真については原告(控訴人)の利用許諾があったとして著作権の侵害を認めませんでした。また、著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)の侵害の主張についても、既に公表済の写真であるなどとして、これも認められませんでした。
したがって、本件控訴審判決の結論は、
本件写真につき職務著作性を認めず、これを肯定した原判決は失当であるけれども、本件写真の無償利用の許諾をしており、著作者人格権侵害の事実も認められないから、本件損害賠償請求は理由がない。
となり、控訴が棄却されたものです。原審と判断理由は異なりましたが、結論が同じですので、控訴の棄却となります。
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