時効中断のための破産会社(同時廃止)に対する債務確認訴訟についての2判決(名古屋高裁)
今日は、午前中、東京地裁の裁判で、昼前ののぞみで帰阪。顧問会社寄って、夕方から家事調停(離婚)事件の打合せ。
さて、久しぶりに判決の紹介。金融実務的には非常に参考になる判決です。
これは、裁判所サイトに紹介されていたもので、名古屋高裁(4民)の控訴審判決2件です。一審が、名古屋地裁の本庁と一宮支部ですので全く別事件ですが、同種のものです。おそらく、控訴人は同じか同種の法人だと思いますので(たぶん)、略号はどっちもXとしておきました。
ご注意いただきたいのは、両事件とも旧商法(有限会社法含む)、旧破産法の適用である点です(ここは当記事では深入りしません。)。
【第1事件(原判決取消、控訴人請求認容)】
名古屋高判 平成21年6月30日(原審名古屋地裁)
控訴人Xは、被控訴人Yに対して、貸金債権を有していたが、Yは、破産宣告を受け、手続は同時破産廃止により終了しています。そこで、Yの主債務の連帯保証人との間で主債務が時効により消滅するのを防ぐため、XがYを被告として、主債務が存在することの確認を求める事案です。つまり、破産して同時廃止となった株式会社(主債務者)に対して訴訟を提起して主債務の時効を中断して、連帯保証人に対する請求権を維持しようというものです。
この訴訟の原審は、同時破産廃止の時点においてYに残余財産がなかったと認められるので、同時破産廃止決定が確定した日にYの法人格は消滅したとの理由で、不適法却下しました。
で、高裁判決は、原審の却下判決を取り消して、主債務の確認判決をしています。
【第2事件(控訴棄却)】
名古屋高判 平成21年7月16日(原審名古屋地裁一宮支部)
控訴人Xは、被控訴人Zに対して、貸金債権を有していたが、Zは、破産宣告を受け、手続は同時破産廃止により終了しています。そこで、Zの主債務の連帯保証人との間で主債務が時効により消滅するのを防ぐため、XがZを被告として、主債務が存在することの確認を求める事案です。ここまでは、第1事件とほぼ一緒。
ただ、Yは株式会社で、Zは有限会社です。
大きく違うのは、第2事件は、主債務の消滅時効期間経過後もZが保証債務の分割弁済を続け、結局全額支払っています。にもかかわらず、なぜXが訴訟を提起したかというと、後から、Zが主債務の消滅時効を主張して、弁済した金額を不当利得として返還請求する可能性があるから、ということのようです。したがって、確認の対象は、最終弁済直前時点の残債権の確認という形になっています。
この第2事件訴訟の原審は、同時破産廃止の時点においてZには、2491円の預金債権しかなく、それもその後処分されたと認められるので、Zの法人格は消滅したとの理由により、不適法却下しました。
で、高裁判決は、こっちは控訴棄却で、原審の却下判決の結論を維持していますが、理由は異なります。
【コメント】
両事件の原審判決とも、破産手続が同時廃止となった会社について、法人格が消滅したとして、Xの訴えを不適法却下しました。この判断について、高裁は、いずれも誤りとして、法人格は消滅していないとしました。
ここでは、会社(株式会社、有限会社)の残余財産の有無にかかわらず、清算手続に移行するものであり、清算手続が結了していない以上、法人格は存続している、との判断が示されています。この判断は非常に注目されます。
したがって、第1事件の高裁判決は、消滅時効の中断のために、確認の利益があるとして、Xの請求(主債務の確認)を認めました。
一方、第2事件の高裁判決では、時効援用をされてはじめて債権消滅の効果を確定的に生ずるものであり、Zが保証債務を時効援用することなく弁済しているのであるから、各弁済により対応する主債務が消滅したことになり、完済後、主債務の消滅時効を援用したとしても、「その時点では、消滅時効の対象となる主債務は既に連帯保証債務の履行(弁済)により消滅しているから、時効による主債務の消滅という効果が生じる余地はない。」とし、過去の法律関係の確認を求める利益はないとして、訴えの却下という原審判決の結論を維持しました。
以前、あるところで、保証人が過去の弁済について、主債務の時効を援用した場合に債権者は時効期間経過後の弁済分の返還を要するか、ということを議論したことがありましたが、全く同様のケースです。
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