「天使のスィーツ」と「エンゼルスィーツ」の知財高裁判決(商標権)
久しぶりに知的財産関係の判決紹介です。
商標権に関するもので、特許庁の無効審判手続において、無効審判の請求が認められなかった森永製菓が、商標登録を有する被告企業に対して、審決取消訴訟を提起していたもので、裁判所サイト知的財産裁判例に載っていました。この知的財産高裁判決は、森永製菓の請求を認めて、特許庁の審決を取り消しました。
平成21年7月2日知的財産高裁判決 審決取消請求事件(商標権)
「エンゼルスィーツ」の片仮名文字及び「Angel Sweets」の欧文字を上下二段に表した登録商標(指定商品「菓子及びパン」など)を有していた原告の森永製菓が、被告が有する「天使のスィーツ」の文字を横書きにした登録商標(指定商品「菓子及びパン」)について、商標法4条1項11号(不登録事由・・他人の先願の商標と同一又は類似のもの)に該当するとして、特許庁に無効審判を請求しました。
これに対して、特許庁は、本件商標(被告の商標)と引用商標(原告の商標)とは、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても同一又は類似のものということはできず、森永製菓の本件審判の請求は成り立たない、とする審決をしました。この審決の取消を求めた訴訟が本件訴訟です。
この訴訟で森永製菓が主張して争点となった審決の取消事由は、「1.両商標から生じる観念の類否の判断の誤り」と「2.出所の混同を生ずるおそれがないとした判断の誤り」の2つです。
まず取消事由1ですが、両方の商標から生じる観念の類否の判断ということになります。商標の類似の判断は、「外観、称呼、観念」を比較するという方法が一般的に採用されていますが、このうち、「観念」の類否の問題です。
本件知財高裁判決は、
「よって,本件商標からは,「天使の甘い菓子」,「天使のような甘い菓子」又は「天使」という観念が生じる。また,上記(1)のとおり,「エンゼル」「Angel」が「天使」の意味を有する我が国で親しまれた語であることに照らすと,引用商標からも,「天使の甘い菓子」,「天使のような甘い菓子」又は「天使」という観念が生じる。」とし、
「本件審決は,両商標がいずれも特定の観念を生じないと判断しているが,両商標の観念は,以上のとおり共通するのであって,本件審決の判断は是認することができないといわざるを得ない。」として、両者の観念は同一であるとし、
「・・・同一でも類似でもないとした本件審決の前記判断は,誤りである。」として、取消事由1を認めました。
次に取消事由2(出所の混同を生ずるおそれがないとした判断の誤り)については、昭和43年最高裁判決を引用して、「商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である」としたうえで、
本件商標と引用商標との類否については、まず、両商標の「外観」と「称呼」は相違するとしながら、
「・・両商標から生じる観念は同一であり,指定商品も「菓子及びパン」を共通にするものである。そうすると,本件商標と引用商標は,外観及び称呼において類似するとはいえないものの,観念が同一であって,取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すると,同一の指定商品である「菓子及びパン」に使用した場合に,商品の出所につき誤認混同されるおそれがあるということができる。なお,これに反する取引の実情は見当たらない。」として、
「そうすると,本件商標は,商標法4条1項11号に該当し,同号に該当しないとした本件審決の判断は,誤りである。したがって,取消事由2は,その趣旨をいうものとして理由があるといわなければならない。」(わかりにくい文章だ)とし、
判決の結論として、原告森永製菓主張の取消事由1.2はいずれも理由があり、特許庁の審決は取り消されるべき、としたのです。
特許庁と結論を異にしたのですから当然ではありますが、ちょっと微妙な判断かな、と私は思います。「天使のスィーツ」と「エンゼルスィーツ」(「Angel Sweets」)の類否判断・・いかがでしょうか?
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