ドメイン使用差止を認めた動物愛護団体の不正競争事件判決
裁判所サイトの知的財産裁判例集に、動物愛護団体(NPO法人)が別の動物愛護団体(任意団体→被告は代表者個人)に不正競争防止法に基づく差止と損害賠償を求めた訴訟の大阪地裁判決が出ています。
平成21年4月23日 大阪地裁判決 不正競争行為差止等請求事件
差止請求としては、簡単に言えば、原告の活動と紛らわしい被告の表示をやめさせるというものですが、その中に、被告が使用しているドメイン「※※※※.jp」(念のため、伏せ字にしました。)を使用するな、というのが含まれていて、判決は、この部分も認容しました。
争点はいろいろとあるのですが、まず、動物愛護団体が不正競争防止法上の「事業者」に該当するか否か(原告・被告それぞれ)、という点について、判決は、
- 「不正競争防止法1条の「事業者」であるためには,その者が営利目的を有する必要はなく,経済上の収支計算の上に立った事業であれば足りると解される。不正競争防止法1条は,同法の目的が事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため,不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ,もって国民経済の健全な発展に寄与することにあると定めるところ,この目的に照らすと,営利目的がなくても,経済上の収支計算の上に立った事業であれば,営利目的のある事業と同様にその競争秩序を維持すべきであり,同法によって保護するのが相当だからである。」
と判示して、原告、被告とも、経済上の収支計算の上に立った事業を行っているとして、事業者性を認めました。さらに、以下のようにも述べています。
- 「被告は,原告及び被告の本来の活動は不正競争防止法上の事業活動と評価されるものではないし,グッズの販売等は,本来的な動物愛護活動と密接不可分であって,事業活動とみなされるべきではない旨主張するが,原告及び被告の行っている物品の販売等は,それによって得た資金が動物愛護のために使われるにしても,物品の販売等自体は動物愛護活動そのものではなく,動物愛護活動と密接不可分であるとは認められないから,被告の上記主張は採用することができない。」
また、ドメインが、不正競争防止法の対象となる被告の営業表示としての機能を有するか、という点については、
- 「インターネット上のアドレス「http://※※※※.jp」において開設するウェブサイトにおいて,ドメイン名「※※※※.jp」を使用しているが,上記ドメイン名は,大文字と小文字の違いはあるものの被告表示1と全く同じものに「.jp」が付加しているに過ぎないこと,上記のとおり,被告各表示は営業表示として使用されていること,上記ウェブサイトにおいて,被告各表示を付した物品を販売していることなども併せ考えると,被告の上記ドメイン名は,被告の営業表示としての機能を有していると認めるのが相当である。」
としています。
なお、損害賠償請求については、原告が550万円(慰謝料500万円、弁護士費用50万円)の支払を請求していたのに対し、判決は、被告が本件の各表示を使用することにより、被告と原告との混同が認められ、しかも、ある事件に原告が関与しているとの誤解が生じていたことなどから、動物愛護活動について築いてきた原告の信用を傷つけられ、無形の損害を被ったということができるとして、不正競争行為の期間は2年以上になっていること、混同の事例が生じていること等一切の事情を総合すると、無形損害について100万円、弁護士費用について10万円と認めるのが相当である、としました。
慰謝料は精神的な損害についての賠償であることから、法人について慰謝料が認められるか、という論点がありますが、本件判決は原告が「慰謝料」としていた損害について、「原告は慰謝料と表現するが,個人の慰謝料に相当する無形損害の賠償を認めるべきである。」として、信用毀損についての無形損害という形で評価しています。
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