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2008年12月25日 (木)

「フェアユース」規定制定の報告書(著作権)

 さきほど、今年最後の裁判の期日(弁論準備期日)に行ってきました。もっとも、まだ仕事は続きますが。

 さて、朝日の報道によれば、昨日(24日)開かれた政府の知的財産戦略本部で、ネット上での著作物の利用制限を緩和するため、著作権者の利益を損なわない公正な利用であれば、許可なく著作物を利用できるようにする一般規定(フェアユース規定)を作るよう提言した報告書を専門調査会が提出した、とのことです。

 このところ、著作権ビジネス、コピー技術、インターネットがどんどん進化していく中で、著作権の侵害の問題が拡大し、著作権に関する権利者の利益保護を図らなければならない、という立場が強く言われます。
 しかし、一方で、各種のコンテンツの利用者の側からは、著作物の自由な利用という観点も忘れてはならない、という一種の対立的な状況が生まれます。単に他人の著作物を利用できれば便利だ、という利用者の個人的な利益だけを言うのではなく、著作物は、(権利者のみが独占すべき物ではなく)社会全体の文化的な生産物なのだから、広く社会的に利用されるべきであり、それによって、また新しいものが創造される、という面を強調する立場になります。

 この権利者と利用者の対立的な状況が、いろいろな面で問題となっているわけです。この「フェアユース(fair use)」つまり「公正な利用」という用語は、この両者の権利、利益の調整を目的として出てきます。

 日本の著作権法上も、既に、著作権者の同意がなくてもコピーしたりする権利は一部認められています。個人の私的複製や教育目的の複製などなど、法文上に個別具体的に定められた例外的な規定です。
 今、議論されているのは、現行法のような個別具体的な規定では、現在の技術進歩の状況などに追いついておらず、例えば、グーグルやヤフーなどのインターネットの検索サービスが、世界中の(著作権を有する)サイトの著作物をサーバーに複製している状況の違法性をどう考えるか、などといったIT技術を背景とした事象をはじめとした新しい様々な問題に対処できない、それを許しているアメリカのような国に遅れを取ってしまうではないか、ということになるわけです。

 そこで、アメリカのような「フェアユース」の規定を置くことによって、これを解決しようという考えが出てきます。
 簡単に言えば、「フェアユース」の規定というのは、日本の現在の著作権法のような個別具体的な例外規定を置くのではなく、公正な利用については権利者の承諾なく利用できる、という一般規定です。アメリカでは、著作権法に限らず、独占禁止法の規制などにもこういった極めて抽象的な規定が見られ、英米のような判例法が伝統の国ではなじみやすいのですが、日本においては、なかなか取り入れにくいということがあるかもしれません。

 どっちがいいか、というのは、なかなか難しい問題だと思いますが、ただ、仮に「フェアユース」規定を作ったとしても、それで問題が一気に解決ということではありません。

 このような法律上の一般規定の場合は、当然ですが、結局のところ、何が「公正な利用」に該当するのか、という点は、法律を見ても具体的には書かれておらず、明確な指針にはなりません。公正かどうか、というのは、一義的に決まりませんし、技術の進展など社会の変化によっても変わってきます。したがって、このような規定ができても、微妙なケースについては、いろいろと問題が生じ、裁判が起こり、いくつか判決が出たり、最高裁が確定的な判断を示すという段階までは、実務的には難しい選択が迫られます。もちろん、新しい課題は次々に出てきますので、技術の最先端の場面では、結局あまり変わらなかったということになるかもしれません。

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