丸かぶり巻きずしの商標権についての判決(「招福巻」)
ここ数日、商標権関係の事案検討をしていたのですが、それとのこじつけで、最高裁サイトの知財判例速報に出ていた大阪地裁の商標権の裁判例をご紹介(もちろん、私の検討中の事案とは全く無関係ですよ。)。
大阪地裁平成20年10月2日 商標権侵害差止等請求事件
事案は、「招福巻」の商標権を持つ会社(小鯛雀鮨鮨萬)が原告で、被告は、大手スーパーのイオンで、イオンが全国の「ジャスコ」で、節分用の巻きずしに「十二単の招福巻」という商品名を付けて、宣伝、販売した行為が商標権侵害に当たるとして、販売などの差止と2300万円の損害賠償の請求を行ったものです。
「十二単の招福巻」というのが、登録商標「招福巻」の侵害になるかどうかは、これが「類似」といえるかどうかの法的判断になります(他の争点もありますが、略します。)。
判決での「類似」の判断の部分は、極めてあっさりしていて、
「『招福巻』は,それ自体として自他識別性に欠けることはない。また,被告標章は,本件商標『招福巻』の前に『十二単の』という修飾語を付加したものであるところ,そこでいう『十二単の』というのは,巻きずしに12種類の具材が入っていることを示しているにすぎず,その使用態様からしても『十二単』の部分に自他識別力があるものとは認められない。したがって,被告標章の要部,すなわち被告標章において自他識別力があるのは,『招福巻』の部分であって,『十二単の招福巻』の全体ではないというべきである。」
としたうえで、イオンの商品名(被告標章)の要部である「招福巻」と原告の商標「招福巻」は、称呼(読み方)及び観念が同一として、「類似」を認定しています。
ところで、このイオンの巻きずしは、すっかり定着した3月の節分の巻きずし丸かぶり用のすしとして販売されていて、それを当て込んだ商品名です。なので、この判決でも、この丸かぶりの風習について、事実認定をしている部分がありました。
「・・・起源は定かではないものの,節分の日に「その年の恵方に向いて無言で壱本の巻寿司を丸かぶりすれば其年は幸運に恵まれる」と言い伝えられ,遅くとも昭和7年ころには大阪の一部地域(大阪船場が発祥の地とも伝えられる。)において,節分に恵方を向いて巻きずしを丸かぶりする風習が行われるようになった。大阪鮓商組合後援会は,当時既に,節分に恵方を向いて巻きずしを丸かぶりすることを勧める宣伝ビラを発行しており,その中でこの巻きずしを「幸福巻寿司」と呼んでいた。昭和15年ころには,大阪鮓商組合後援会がこれと同様の宣伝ビラを発行していた。その後,時を経て昭和52年ころ,大阪海苔問屋協同組合が「幸運巻すし」と銘打って節分に巻きずしを丸かぶりすることを勧める宣伝活動を始め,また,関西厚焼工業組合も同じころから広範囲で同様の宣伝活動を行うようになり,昭和62年ころには,関西地方のみならず,岐阜,浜松,金沢,新潟等の各都市や九州地方にまで上記同様の宣伝ビラを送付していた。その後,スーパーマーケットなどでも宣伝を行うようになり,節分に恵方を向いて巻きずしを食する風習が関西地方を中心に次第に広い地域に広がっていった。」
というものです。
私は昭和34年大阪生まれの大阪育ちですが、子供の頃には、今のように一般的な風習ではないし、知りませんでしたが、いつだったか、父親が、節分にはこんな習慣があるんだ、ということを話していた記憶があります。父親がもともと知っていたものか、どこからか聞きかじってきたものかはわかりません。
話を判決に戻しますが、結局、裁判所は商標権侵害を認めて、被告イオンに対して、販売等の差止と損害賠償を命じました。
しかし、損害賠償について、原告の請求が2300万円(被告売上に対する商標使用料相当割合10%の一部2000万円と弁理士・弁護士の費用の一部300万円)であったのに対して、判決が認めたのは51万円余(被告売上に対する商標使用料割合5%の31万円余と弁理士・弁護士費用20万円)です。
商標権侵害が認められて、差止も全て認められて、弁理士と弁護士の両者の費用相当の損害金が、20万円では、ため息がでるなぁ。
【追記】(10/1/23)
昨日(平成22年1月22日)、上記事件について、大阪高裁で控訴審判決が出たと報道されています。結果は、イオンの逆転勝訴。「招福巻」が普通名称化しているとの判断のようですが、今の所、マスコミ報道だけですので、判決文が出たら、新しい記事を書くかもしれません。
【追記の追記】(10/2/1)
控訴審判決が裁判所サイトで公開されましたので、本日付で新しく記事を書きました。
→ 「「恵方巻」控訴審判決と巻寿司丸かぶりの風習の由来(大阪高裁)」
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