高値仕入れのガソリンの安値販売は、不当廉売か?(独禁法)
さて、話題のガソリン値下げの問題ですが、揮発油税の暫定税率の法的根拠がなくなったとはいえ、既に暫定税が上乗せされて高い価格で仕入れたガソリンを今日から赤字覚悟で安売りしているガソリンスタンドも多いようで、テレビのニュースでもそんな状況を追いかけていますね。(税金が減って安く仕入れたのをその分安く販売するのは問題ない、というのは当然。)
これは、一種のエイプリルフールの冗談みたいなものなのかも、と思ったりしますね。このブログでは独占禁止法の観点から見てみたいのですが、これに関してもいくつか報道がされています。
まず、仕入原価を割り込んで安い価格で販売することが、独禁法の「不公正取引」の「不当廉売」に該当しないか、というのが、第1の問題点ですね。
これについては、3月31日の記者会見で、町村官房長官が、ガソリンスタンドが揮発油税の暫定税率が上乗せされた高い価格で仕入れたガソリンを、安い価格で販売することについて「独占禁止法上の問題はなんら生じない」と述べ、不当廉売などにはあたらないとの見方を示した、ということです。なぜ、問題にならないか、については語られていないのかな?
新聞の記事の中には、公取委は「ケース・バイ・ケース」と言ったというのもありました(朝日)。
日経はもっと詳しく、「公正取引委員会はガソリンの値下がりに伴い、給油所の不正行為が出ないかどうかを慎重に見極める方針だ。今回の事態をシェア拡大の機会に悪用し、競合他社に先駆けて原価割れで値引きしようとする給油所を厳しく監視する。 課税済みのガソリンを1日から値引きして売るのは、独占禁止法の不当廉売には抵触しないというのが公取の見解だ。ただ、過度の値引きが長期間継続し、競合他社の事業活動に困難が生じた場合には「不当廉売に当たる可能性もある」(取引部)とみている。」という報道をしています。
うむ、ひょっとして、朝日のほうが的確でわかりやすいかもしれぬ。。。
以下は、日経の記事の理解の参考に、という程度のものですけど、「不当廉売」と安売りは違うということについては、このブログで何度もしつこく書いてきました。
例えば→ 「不当廉売規制と安売り規制は違うよ」(07/11/13)
「不当廉売」は、独禁法で禁止されている「不公正な取引方法」の一般指定で定められている行為の1つで、
一般指定 6項 「不当廉売」
正当な理由がないのに商品又は役務を、その供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、その他不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれのあること。
とされています。
まず、「供給に要する費用を著しく下回る対価」かというのが問題ですが、公取委の「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」(昭和59年)では、「通常の小売業においては、仕入価格を下回る価格がこれに当たると考えられ、実務上は、仕入価格を下回るかどうかを一つの基準としている。」とされていますので、この点だけを言えば、仕入価格を下回っていることは明らかです。
ただ、「継続して」という要件もあり、これについて上記「考え方」では、「『継続して』とは、相当期間にわたって繰り返して廉売を行い、又は当該廉売を行っている販売業者の営業方針等から客観的にそれが予測されることであるが、毎日継続して行われることを必ずしも必要としない。 」とされています。例えば、短期間の「開店記念セール」などのようなものは、この要件に該当しないことになります。
今回のケースでは、廉売(安売り)の期間が、この相当期間に該当するか否かが大きな問題となるでしょう。
次に重要な要件として「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」というのがあります。突き詰めるとなかなか難しい要件ではありますが、おおざっぱに言ってしまえば、全体の状況によっては、これに該当する場合はあり得ると思います。
さらに「正当な理由」の存否という要件もあります。
これも詳しくは触れませんが、よく出される例としては、生鮮食料品や季節商品の見切り販売、きず物、はんぱ物の廉売などについては、不当廉売とはされません。これは、今回のガソリンの場合は、ちょっと違うように思うのですが、視点によっては、「正当な理由」ありという考え方もできるのかな、という気もします。今日の報道の状況を見てると、一般的には「正当な理由」と見てもよいかと、私は思います。
他のスタンドが税金の安いガソリンを仕入れて安く販売している状態になったときに、高く仕入れていたガソリンをやむなく安く販売することは、それが仕入原価割れであっても違法にならないのは当然です。
なお、上記の「不当廉売」とは全く別の問題として、石油元売り業者が売り先等に対して安売りしないように要請したり、ガソリンスタンドの同業者組合などが、お互いに安売りしないように申し合わせをする、といった場合には、独占禁止法上の問題が生じます。
前者は、「不公正な取引方法」(再販売価格の拘束)、後者は「不当な取引制限」(価格カルテル)という問題になる可能性があります。
【追記】(4/2)
今日の公取委事務総長定例会見で、この問題が取り上げられ(実は1週間前のこの会見でもこの件の質疑は出ていたのですが)、同じような話をしているようですね。
時事の報道によれば、事務総長は、「一時的なコスト割れなら、直ちに不当廉売に該当するとは言えない」と述べ、独占禁止法に抵触しないとの考えを示し、原価割れで継続的に販売し、他社の事業活動を困難にする恐れがある場合は不当廉売に当たると指摘した、とされています。
【追記の追記】(4/3)
上の4月2日の公取委事務総長定例会見の記事を、追加しました。
→ 「高値仕入ガソリン話の続き(公取事務総長会見)」(4/3)
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