債権者代位と転付命令の優劣に関する高裁判決
ちょっと複雑な事件で、専門的な内容になりますが、1年ほど前にもらった判決です。最近、判例時報に掲載されたので少しご紹介します。少しといっても、長文になりますけども。。。
大阪高裁平成18年12月13日判決 判例時報1984号39頁
(請求異議控訴事件 上告受理申立後、和解により申立取下)
事案を簡単にしてしまいます(実際には、債権譲渡やら、債権者代位の代位などが行われています。)。
① 本件被告(控訴人)A社が、本件原告(被控訴人)B社に対して貸金債権を有していた。また、B社はP社(B社の関連会社)に対して賃料債権などを有していた。
② そこで、A社は債権者代位権を行使してP社に訴訟を提起し勝訴判決を得た。そこで、A社は、P社所有不動産に対して、強制競売を申し立てた。
③ 一方、別のQ社も、B社に対して貸金債権を有していたので、Q社も上記同様に債権者代位権を行使してP社に対する判決を得て、この(B→P)債権につき、差押転付命令を得た。
④ 上記の事実に関する時間的な関係を説明すると、A社の強制競売開始決定が平成17年1月、Q社のP社に対する訴訟提起が同年5月頃、判決取得と差押転付命令が同年9月となる。
⑤ このような事情の下で、B社がA社に対して、上記②の強制競売手続に関して、請求異議訴訟を提起して、強制執行の不許を求めたのが本件訴訟である。その異議理由は、上記③のQ社の転付命令取得によって、(B→P)債権はQ社に移転したため、もはやA社は当該債権を喪失していて、強制競売を続ける権利はない、というものである。
さて、これに対して、原審の京都地裁は、B社の主張を認めたうえ、強制執行停止決定も行いました。
本件の法律的な争点は、本件転付命令の有効性ですが、権利濫用又は信義則違反の主張もA社からなされています(判決では判断されないので省略。これについても、判例時報コメントは若干触れています。)。
大きく言うと、債権者代位権を行使した者(本件のA社の立場)と、他の債権者(本件のQ社の立場)との関係の問題になるのですが、従前あまり論じられていないところです。
高裁判決は、「債権者が債権の満足を得るために、債権者代位権という法的手段を執ることについては、それに相応しい法的保護が与えられてしかるべき」とし、「代位債権者の訴えの提起は、自己の債権の保全ないし実現のために、債務者(被代位債権の債権者)に属する債権を取り立てるという点において、実質上、差押・取立命令を得た債権者が取立訴訟を提起しているのと異ならないということができるから、上記処分制限の効力が生じたときは、民事執行法159条3項を類推適用すべきことになる。」としました。
そして、上記②の(A→P)訴訟の請求認容判決が確定すれば、その判決の効力として、代位債権者(A社)と他の債権者(Q社)との関係においては、「被代位債権の行使は、上記確定判決を債務名義とする第3債務者に対する執行に集約され、被代位債権は、他の債権者(Q社)の差押については、もはやその被差押債権としての適格を欠くに至る」とし、(B→P)債権については、遅くとも、上記②の(A→P)訴訟の「第一審判決言渡しの日までには、処分禁止効が生じたものというべきであるから、民事執行法159条3項の類推適用により被転付債権としての適格を失ったものというべき」であり、さらに同別件訴訟の判決が確定により、「被差押債権としての適格を欠くに至ったものというべき」だから、「いずれにしても、その後に発せられた本件転付命令は無効である」と判断して、原審の判決を取り消して、B社の請求を棄却しました。
本件判決については、その後B社が上告受理申立をしたのですが、関係当事者間に和解が成立し、同申立は取り下げられ、この控訴審判決が確定判決となっています。大変興味深い判決で、最高裁の判断も見たかったという気もします(判例時報コメントも同様に期待されてるのですが、残念ながら・・・です。)。
なお、この事件に関連しては、この訴訟に対抗する形でA社からB社およびQ社に対して提起された転付命令無効確認・債権不存在確認請求事件という別件訴訟があります。これも、原審がA社の請求を認めず(理由は省きますが、却下。)、控訴審ではA社の請求に理由があるとして、原判決を取り消した上で、原審に差し戻す判決を行っています。これも、上記の和解により訴え取下に終わっています。
この事件は、もう1人の弁護士(こちらが主担当ですが)といろいろと工夫をした上記2事件の途中話ももちろんですが、後の和解に至る経過や、和解が履行されて解決した後のエピソード(不幸な話なのですが)も含めて、大変印象深い事件となりました。
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