控訴、上告と上告受理申立(民事訴訟):後編
さて前編に続いて、民事訴訟での最高裁への「上告」の場合の上告理由についてですが、普通、判決の内容に不服があるというのは、その判決が認定した事実関係(誰がどうやって殴ったとか、こういう内容の書面を誰が書いたとか、赤信号を無視して150㎞で運転したとか、販売商品をいつどこで引き渡したとか・・・)が間違っているという場合(事実認定についての不服)と、法律の解釈についての不服という2つの場合がほとんどだと思います。ところが、これらは、現在の民事訴訟法では、最高裁への「上告」の場合の上告理由には当たらないのです。
まず、上告理由として挙げられるのは、判決に憲法違反があるという場合です(民訴312条1項)。
次に、民訴312条2項に列挙された6つの場合なのですが、その内、1~5は、裁判所がうっかりして手続ミスをしたなど、かなり特殊なケースですので、通常は使えません。6つ目の「判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること」(理由不備、理由齟齬)という理由については、上告代理人としては、特にその後段(理由齟齬・・判決の理由自体に矛盾があって、論理性がない場合)に引っかけて、上告理由を考えることが多くなるのですが、単に控訴審判決の理由がおかしいということでは、実際には簡単に認めてくれません。
なお、高裁が上告審となるときは、この他に「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があること」も上告理由になります。民事訴訟法大改正以前は、この上告理由は、最高裁への「上告」でも使えたのですが、これが削られたわけです。したがって、単なる法令違反を理由とするのでは、最高裁への「上告」が認められなくなったのです。
また、事実認定に関する不服は、以前から上告理由にはなっていませんので、控訴審判決の事実認定がおかしいから調べ直してほしいという理由では、最高裁に対しても高裁に対しても、上告理由には該当しません。
さて、このように上告理由が削られたこともあって、「上告受理の申立」という制度が新設されました(民訴318条)。
これは、上記の上告理由がない場合でも、「原判決に最高裁判所の判例と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に起案する重要な事項を含むものと認められる事件」については、最高裁判所が決定により上告審として受理することができる、という制度です。
つまり、上記の上告理由には当たらないけれども、法令の解釈に関して重要な事項を含む場合であれば、法令の解釈の統一などの必要性などから、最高裁が判断したほうが適当な事件もあるだろうということで、ものによっては上告審で審理しますよ、という制度になったわけです。これにより、最高裁が上告受理をすると決定すれば、上告審と同様に扱われることになります。
したがって、民事訴訟法大改正のあった約10年前からは、控訴審判決に不服がある場合、「上告」だけではなく、もうひとつ「上告受理申立」という手続を取ることが多くなったのです。もちろん、どちらか一方だけを行っても構わないのですが、それぞれの理由が異なるため、考えられる限りは両方を申し立てる場合も多いということになっています。
もっとも、いちいち厳密に、「上告」と「上告受理申立」を書き分けると面倒だし、わかりにくいこともあるのでしょう、マスコミは全部まとめて、「上告」と言っているように思います。このブログでも、同じことなので、「上告」とだけ書くかもしれませんが、ツッコマないで下さい。
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