ヤフー事件控訴審判決 追記と雑感
昨日6月21日のヤフーBB個人情報漏洩事件の大阪高裁の判決の判断で、注目できる点は、一審では認められなかった被告ヤフーの賠償責任を認めた点です。本件で漏洩した顧客情報は、被告ソフトバンクBBが管理し、同社従業員らが担当していたということで、被告ヤフーに賠償責任が認められるか否かが争点となるわけで、一審判決はこれを否定的に判断して、ソフトバンクBBのみに賠償の支払いを命じていました。
しかし、大阪高裁は、
「前記認定に係る被告らの密接な関係、本件サービス(注:ヤフーBBのサービスを指す)が被告らのそれぞれの提供部分を分離することができない不可分のものであったこと、更に、ヤフーは、顧客との間で、ソフトバンクBBが管理する顧客情報の管理についても、ソフトバンクBBと共にセキュリティー対策をとることを顧客らに宣言していたことからすると、ヤフーは、ソフトバンクBBの従業員を、顧客情報の管理について、直接間接の指揮監督の下、本件サービスの提供に係る事業に従事させていたということができるから、ヤフーとソフトバンクBBの従業員であるKら担当者との間には、事業につき、民法715条1項所定の使用者と被用者との関係が成立していたと解するのが相当であって、
ヤフーも、民法715条、719条に基づき、ソフトバンクBBと共に、原告らが本件不正取得により被った損害を賠償する責任を負うものというべきである。」(少し、原文を変えています)
として、両社共に、民法715条の使用者責任を負うことを認めました。
つまり、「ヤフーBB」というサービスを外形上一体として行っている点を重視して、グループ企業の従業員の行為に関しても、民法上の使用者責任を認めたことになります。
IT企業に限らず、今の時代、自分がどこの会社(法人)と直接に取引を行っているのか、消費者側からは見えにくいことも多いのではないでしょうか。
本件でも、「ヤフーBB」の申込みをした多くの消費者の内、いったい何人が、契約相手が、「ヤフー株式会社」と「ソフトバンクBB株式会社」の2社であり、それぞれどういう分担内容になっているということを認識しているでしょうか。
今回の大阪高裁の判決は、そのような現代社会の実情を踏まえた判断だと評価できます。
持ち株会社制度だとか、会社分割だとか、事業譲渡だとかの事例でも感じることが多いのですが、このごろは、当事者が見えにくくなってきているというか、「法人格」が形式的に使われ過ぎているような気がします(「法人」ではありませんが、近ごろ流行の匿名組合のようなものも、同じ事かもしれません。)。
このようなシステムが、会社の責任逃れの手段になるようでは困ります。
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