譲渡担保についての最高裁判決
今回は、昨年もらった不動産譲渡担保と差押に関する最高裁判決についてのコメント(平成18年10月20日最高裁第二小法廷判決〔上告棄却〕)です。なお、私は民法学者ではないので、難しい議論は専門の研究者の方々にお任せするとして、判決を読んだ雑感的なコメントでご勘弁下さい。
この判決は、一審大阪地裁〔請求認容〕、二審大阪高裁〔原判決取消・請求棄却〕の判決と一緒に、金融・商事判例1254号23頁~に紹介がされています。
判決要旨は、
『不動産を目的とする譲渡担保において,被担保債権の弁済期後に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえたときは,設定者は,差押登記後に債務の全額を弁済しても,第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできない。』
です。
簡単に事案を紹介すると、
対象不動産のもともとの所有者X(譲渡担保設定者・原告・被控訴人・上告人)が、A(譲渡担保権者・Yの債務者)から金を借り、その担保とするため、その不動産につき「譲渡担保」を原因としてAに登記名義を移転しました。
Y(Aの債権者・被告・控訴人・被上告人)は、Aに対する債務名義を有していたため、それに基づき、A名義となっていた対象不動産につき、強制競売を申し立て、差し押さえました。その後、Xは、Aに対して、債務を弁済し、対象不動産について、「解除」を原因として所有権移転登記を行いました。
そして、Xは、Yを被告として、第三者異議訴訟を提起した(本件訴訟)というものです。
今回の最高裁の判決は、弁済期の前後で判断するという高裁の判決の結論を認容したものです。
ただ、高裁の事実認定によれば、譲渡担保権設定者(被控訴人・上告人)は当初の金銭消費貸借契約時(譲渡担保設定時)に定めた弁済期日が経過しても支払をしなかったが、その後、弁済期日の猶予を得たものとされていて、弁済期が変更となって、猶予状態になっていたこととされています。そして、高裁判決は、(猶予後の弁済期日ではなく)当初約定の弁済期日を基準として、本件のように、その当初期日後に、Yが目的不動産を差押えた場合には、その後に設定者Xが債務を弁済して受け戻しをしても、差し押さえた債権者Yには対抗できないと結論づけています。
その判断の理由は省略しますが、いずれにせよ、上記の最高裁の判例要旨にある「弁済期」について、高裁は、当初約定の弁済期とすべきとしているのですが、最高裁の判決では、それについては全く判断の記載がありません。この点については、上記の金融・商事判例の編集部コメントでも指摘されています。
不動産譲渡担保の場合、特に登記簿上、「譲渡担保」という移転登記原因が記載されておれば、所有名義人である譲渡担保権者から、その対象不動産の譲渡を受けることについては、大きなリスクを伴います。譲渡担保設定者から受け戻しなどの権利で対抗される可能性が否定できないからです。
そのため、実務上は、わざわざ、いったん「譲渡担保」の移転登記を、錯誤として抹消して元の設定者名義に戻してから、買い主に登記を移転するというような方法もとられるようですが、本来このような手法は実体とは異なる登記手続であり、問題なしとは言い切れず、しかも、この方法は譲渡担保設定者の協力がなければ実行できません。
さらに、任意売却ではなく、本件のような譲渡担保権者の債権者による差押(競売申立)となると、一層、当事者にとっては判断が困難な事態となるのです。となると、この不動産は、現在の名義人である担保権者の債権者からも、元の名義人である担保権設定者の債権者からも、差押困難な資産という誠に不思議な差押禁止財産的なものにならないでしょうか?これを悪く利用する人もいそうですね。
では、今回の最高裁判決により弁済期の前後で判断するという枠組みができたので、譲渡担保権者の債権者の立場が明確になり、任意売却にせよ、差押(競売)にせよ、判断がしやすくなったと言えるでしょうか。
残念ながら、まだ、問題は残ります。譲渡担保の場合、現在は上記の通り「譲渡担保」という登記原因が記載されておれば、その不動産が譲渡担保として名義移転されたことはわかりますが、(抵当権設定登記とは異なり)登記簿を見ても、「弁済期」どころか、その被担保債権が何であるのか内容については何も分かりません。したがって、外部の者からは、「弁済期」を判断することはできないので、当然「弁済期」の前か後かという判断そのものが無理になります。悪く考えれば、紛争が生じてから譲渡担保権者と設定者が馴れ合って、話を合わせて虚偽の弁済期(遅くする)を主張することだって考えられます。
そもそも、譲渡担保が、法律に規定のない非典型担保であることから種々の問題が出てくるもので、登記法上も移転登記原因として「譲渡担保」を認めるだけで、何の手当もされておらず、中途半端な公示方法となっているところなども問題なのでしょう。
蛇足ですが、もうひとつ、当初約定では、期限の定めがなかったり、長期の契約であったのが、後日、合意等により、「弁済期」が早くなった場合はどう考えますか?
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判例タイムズ、判例時報の最新号に、この最高裁判決が載ってました。
それについては、明日(2/3)の日記に続編を....
投稿: 川村 | 2007年2月 2日 (金) 23時04分