フォト

weathernews

ツイッターでつぶやく

無料ブログはココログ

【コラム3】クロレラチラシ配布差止訴訟最高裁判決が広告に与える影響

クロレラチラシ配布差止訴訟最高裁判決が広告に与える影響

                       弁護士  川  村  哲  二

100

※これは平成29年2月13日付メディア総合専門誌「文化通信」掲載記事
 であり、文化通信社の承諾を得て掲載しています。無断転載を禁じます。

(1)差止訴訟の概要

 本年1月24日、消費者契約法(消契法)に関する重要な最高裁判決が出された(1月30日付「文化通信」記事参照)。
 これは、適格消費者団体京都消費者契約ネットワーク(KCCN)が、クロレラなどを含む健康食品の販売会社に対し、新聞チラシに記載されたクロレラなどの薬効が景品表示法(景表法)の不当表示(優良誤認)にあたるとともに、消契法で禁止されている不実告知にあたるとして、チラシの配布中止などを求めた訴訟である。この事件では、チラシ作成名義が販売会社と異なっていたため、両者の一体性も争点となったが、地裁も高裁も一体性を認めている。
 同様の健康食品などで、薬機法(旧薬事法)の効能表示禁止を免れる目的で販売業者と違う名義の書籍で効能をうたう行為(バイブル商法)は従来から重要な問題であるが本稿では省略する。
 この訴訟の一審平成27年1月21日京都地裁判決は、チラシの記載が不当表示に該当する、として、チラシ配布を中止するよう命じ、景表法違反に基づく適格消費者団体の差止請求を認めた最初の判決である。一方、不当表示による差し止めを認めた結果、消契法の不実告知該当性の判断はなされなかった。
 この判決に対して業者が控訴をしたところ、控訴審平成28年2月25日大阪高裁判決は差し止めを認めない逆転判決となった。
 控訴審判決は、景表法の不当表示による差し止めについては、本件チラシは一審判決後に配布を中止し、今後もそのおそれがあるとは認められず差し止めの必要性がない、という理由で請求を否定し、チラシの表現の不当表示該当性の判断はしていない。
 次に、一審で判断されなかった消契法の不実告知についての判断を示し、新聞チラシ配布は、消費者契約の「勧誘をするに際し」(消契法12条1項、2項)ての不実告知(同法4条1項1号)にはあたらない、として控訴を棄却した。ここでも、記載内容の不実告知該当性の判断はされていない。
 そして、この控訴審判決を不服とするKCCNが上告し、今回の最高裁判決が出された。

(2)「勧誘」要件の新判断

 結論的には、最高裁もチラシ配布の中止を重視して上告を棄却した。しかし、注目されたのは、「勧誘」要件について「控訴審判決の判断は是認できない」とした点である。
 判決は、記載内容全体から判断して消費者が事業者の商品等の内容や取引条件などに関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは、働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得るとし、不特定多数の消費者に働きかけを行う場合を一律に除外することは相当ではなく、控訴審の判断は法令の解釈適用を誤った違法がある、として、広告も「勧誘」に当たる場合がある、との判断を示した。

(3)消契法の「勧誘」要件と広告

 消契法の「勧誘」の範囲の考え方としては、行政解釈では、控訴審判決のように一般向けの広告は該当しない、とされてきたが、例えば、昨年の日本消費者法学会でも、鹿野菜穂子慶大教授がそのような限定をすべきではないと強く主張されるなど、解釈論としても狭すぎる、という意見があった。今般の消契法改正作業の中でも、立法的に対象範囲を拡大しようという声はあがっていたが、経済界の反対も大きく、昨年の改正(平成29年6月施行)では範囲拡大は含まれなかった。
 しかし、「勧誘」要件の検討が終了したわけではない。消費者委員会消費者契約法専門調査会では、現在も「勧誘」要件の在り方が優先的に検討すべき論点として取り上げられ、審議が続いている。同調査会では、従前の裁判例も検討しており、新聞広告等は該当しないとする裁判例もある一方、パンフレット等の広告も「勧誘」に該当することを前提にした例があることが報告されている。
 また、岡村消費者庁長官は、判決翌日の記者会見で、最高裁判決は大変重要と考えており、平成28年改正を踏まえた消契法「逐条解説」の改定作業に判決内容を盛り込み、必要な修正をして周知を図りたい、と述べ、消費者委員会での「勧誘」要件の在り方の審議につき一層充実するよう引き続き協力する、と答えている。

(4)広告への影響

 消契法ではないが、健康食品の広告に関し、昨年3月消費者庁は、大手業者の特定保健用食品の新聞広告が、健康の保持増進効果について著しく誤認させるような表示であり、健康増進法の誇大表示禁止違反として勧告を行った。また、特定保健用食品の成分調査も始まるなど、健康食品の広告・表示については、消費者庁が重視し、規制強化の方向に動いている。
 また、昨年4月には景表法の不当表示に対する課徴金制度が施行され、今年1月、三菱自動車に対して燃費不正表示に関して5億円近い課徴金納付を命じられた。これは、不当な広告・表示により多額の経済的リスクがあることを示している。
 このような状況下での最高裁判決であり、今回は消費者団体の差止訴訟であるが、消契法の不実告知は契約の取消理由でもあり、個々の被害者救済の枠を拡げる意味を持つ。事業者にとっても影響が大きく、広告のチェック体制を整備すべきであろう。
 特に、画面上の広告から直ちに購入に移るネットショップの場合は、最高裁のいう「当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与える」と判断される危険が高いと考えるべきだ。