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2018年1月16日 (火)

web雑誌「国民生活」2018/1月号(国民生活センター)

 国民生活センターのweb情報誌「国民生活」の1月号がサイトにアップされています。

   → 「国民生活」(国民生活センター)

 今号の特集は、 「シェアリングエコノミーと消費生活」で、内容は以下の通りです(リンク先はPDF)。   

 その他の記事は以下の通りです。

 消費者問題アラカルト   

 新 インターネットと上手につき合う   

 賃貸住宅の基礎知識-入居から原状回復まで-   

 消費生活相談に役立つ社会心理学   

 海外ニュース   

  • 海外ニュース(2018年1月号)      
            
    • [イギリス]バイナリ-オプション詐欺
    •        
    • [香港]海外でレンタカーを利用する際の注意
    •        
    • [ドイツ]日本製の電子ピアノに高い評価
    •        
    • [オーストリア]バスマティ米(香り米)等のヒ素は基準値内
                    【執筆者】安藤 佳子、岸 葉子

 消費者教育実践事例集   

 明治時代の生活に学ぶ   

 新連載私たちと経済   

 苦情相談   

 暮らしの法律Q&A   

 暮らしの判例   

 誌上法学講座

2017年12月 6日 (水)

NHK受信契約締結義務に関する最高裁大法廷判決

 ニュース報道でご承知のように、本日、NHK受信料に関する最高裁大法廷判決がありました(平成26(オ)1130 受信契約締結承諾等請求事件).。

 受信契約を拒否している者に対して、NHKが受信契約は成立しているとして、受信料の支払いを求めていた裁判で、被告は、受信設備(テレビ)設置者に受信契約の締結を強制する放送法の規定は、憲法違反(13条、21条、29条)であるなどとして争っていた裁判です。

 この裁判の1審、2審は、NHKの主張を概ね認め、被告に対して受信料の支払を命じていました。

 そして、本日、最高裁大法廷は、憲法違反ではない、として、被告の上告を棄却しました。なお、受信契約の成立時期に関する原審判決の判断については、NHKも不服として上告していましたが、こちらの上告も棄却されています。

 大法廷判決多数意見は、   

  1. 放送法による受信契約の強制は憲法違反ではない
  2. 受信契約の承諾の意思表示を命ずる判決の確定により受信契約が成立し、それに基づき、受信設備の設置の月以降(つまり遡る)の受信料債権が発生する 
  3. 受信料債権(契約成立後に履行期が到来するものを除く)の消滅時効は、受信契約成立時(つまり判決確定時)から進行する

 というものです。NHKとしては、わざわざ裁判をしなくてはいけない、という負担は負うものの、遡って受信料債権が発生するうえ、判決確定までは消滅時効期間も進行しない、ということになり、非常に有利な結果といえます。

 この判決に関しては、4名の裁判官の補足意見が付されているほかに、15名の裁判官の内、唯一、木内道祥裁判官による反対意見が述べられています。木内裁判官は、大阪弁護士会の弁護士出身の最高裁判事です。

 この木内反対意見は、   

  1. 放送法の契約成立義務の規定は、意思表示を命ずる判決を求めることのできる性質のものではない
  2. そう考えても、契約締結義務を拒否する者に対して損害賠償責任や不当利得返還義務による追及は可能である

というものです。木内反対意見の全文を下に貼り付けておきましたので、長文ではありますが、興味のある方は是非お読みください。

〔裁判官木内道祥の反対意見〕  
 私は,放送法64条1項が定める契約締結義務については,多数意見と異なり,意思表示を命ずる判決を求めることのできる性質のものではないと解する。以下,その理由を述べる。   

1 意思表示を命ずる判決をなしうる要件   
(1) 意思表示の内容の特定 

 判決によって意思表示をすべきことを債務者に命ずるには,その意思表示の内容が特定されていることを要する。契約の承諾を命ずる判決が確定すると,承諾の意思表示がなされたものとみなされて契約が成立することになるが,1回の履行で終わらない継続的な契約においては,承諾を命じられた債務者は判決によってその契約関係に入っていくのであるから,承諾によって成立する契約の内容が特定していないまま,判決が債務者の意思表示の代行をなしうるものではない。   

(2) 意思表示の効力発生時期   
 判決が命じた意思表示の効力発生時期が判決の確定時であることは,民事執行法174条が定めており,これと異なる効力発生時期を意思表示を命ずる判決に求めることはできない。   

2 放送受信規約の定める受信契約の内容   
 放送法は受信契約の内容を定めておらず,原告の定める放送受信規約がその内容を定めている。そのことの当否は別として,放送受信規約の定める受信契約の内容は,次のようなものである。   

(1) 受信契約の種別と受信料(第1条第1項,第5条)   
 受信契約には,3つの種別があり,1の受信契約につき,その種別ごとの受信料が定められている。   

(2) 受信契約の単位(第2条)   
 受信設備が設置されるのが住居であれば,世帯が契約単位であり,1世帯で複数住居なら,住居ごとが単位となる。世帯とは,住居および生計をともにする者の集まり,または,独立して住居もしくは生計を維持する単身者である。   
 事務所等の住居以外の場所に設置される受信設備については,設置場所が契約単位であり,設置場所の単位は,部屋,自動車などである。   
同一世帯の1の住居に受信設備が何台あっても,契約は1,受信料も1であり,住居以外の場所では1の設置場所に受信設備が何台あっても,契約は1,受信料も1である。   

(3) 受信契約書の提出義務(第3条)   
 受信設備を設置した者は,遅滞なく,①設置者の氏名及び住所,②設置の日,③受信契約の種別,④受信できる放送の種類及び受信設備の数などを記載した受信契約書を原告に提出しなければならない。   

(4) 受信契約の成立(第4条第1項)   
 受信契約は受信設備の設置の日に成立するものとする。   

(5) 受信契約の種別の変更(第4条第2項)   
 受信契約の種別の変更については,受信設備の設置による変更は設置の日に,受信設備の廃止による変更は,その旨を記載した受信契約書の提出の日に,原告の確認を条件として,変更される。   

(6) 受信料支払義務の始期と終期(第5条第1項)   
 受信契約者は,受信設備の設置の月から解約となった月の前月まで,受信料を支払わなければならない。   

(7) 受信契約の解約(第9条第1項,第2項)   
 受信設備を廃止すると,受信契約者は,その旨の届出をしなければならない。原告が廃止を確認できると,届出があった日に解約されたものとする。   

3 放送受信規約の定めと意思表示を命ずる判決をなしうる要件の関係   
(1) 放送受信規約による契約内容の特定
   
 受信契約の承諾を命ずる判決には,承諾の対象となる契約の内容の特定が必要なところ,判決主文において明示するか否かを問わず,判決の時点における放送受信規約を内容とする受信契約の承諾を命ずることになる。そこで,放送受信規約の定めが,それ自体として,契約内容を特定するものとなっているのか否かが問題となる。   

(2) 放送受信規約による契約内容   
 放送受信規約は,受信設備設置者が設置後遅滞なく前記2(3)の事項が記載された受信契約書を提出して受信契約が成立することを前提としている。そのようにして受信契約が締結される限り,受信契約が受信設備設置時に遡って成立すると合意することは可能であり,1世帯に複数の受信設備があり,受信設備の種類が異なっていても,提出された受信契約書の記載によって,契約主体,契約の種別を特定することは可能である。
 他方,以下の①~③で示されるとおり,判決によって受信契約を成立させようとしても,契約成立時点を受信設備設置時に遡及させること,また,判決が承諾を命ずるのに必要とされる契約内容(契約主体,契約の種別等)の特定を行うことはできず,受信設備を廃止した受信設備設置者に適切な対応をすることも不可能である。   

① 契約の成立時点と受信料支払義務の始点   
 意思表示を命ずる判決によって意思表示が効力を生ずるのは,民事執行法174条1項により,その判決の確定時と定められている。承諾を命ずる判決は過去の時点における承諾を命ずることはできないのであり,承諾が効力を生じ契約が成立するのは判決の確定時である。したがって,放送受信規約第4条第1項にいう受信設備設置の時点での受信契約の成立はありえない。   
 受信料債権は定期給付債権である(最高裁平成25年(受)第2024号同26年9月5日第二小法廷判決・裁判集民事247号159頁)が,定期給付債権としての受信料債権を生ぜしめる定期金債権としての受信料債権は,受信契約によって生じ,その発生時点は判決の確定時である。受信契約が成立していなければ定期金債権としての受信料債権は存在せず,支分権としての受信料債権も生じない。したがって,放送受信規約第5条にいう受信設備の設置の月からの受信料支払義務の負担はありえない。   

② 契約の主体と受信契約の種別の変更   
 同一の世帯に夫婦と子がいる場合,放送受信規約第2条は,住居が1である限り,受信設備が複数設置されても受信契約は1とするが,夫婦と子のそれぞれが受信設備を設置しあるいは廃止すると,判決が承諾を命ずるべき者が誰なのかは,不明である。それぞれが設置した受信設備の種類が異なる場合,判決が承諾を命ずる契約の種別が何なのかも,不明である。   

③ 受信設備を廃止した受信設備設置者との関係   
 承諾を命ずる判決は,過去の時点における承諾を命ずることはできないのであるから,現時点で契約締結義務を負っていない者に対して承諾を命ずることはできない。受信契約を締結している受信設備設置者でも,受信設備を廃止してその届出をすれば,届出時点で受信契約は解約となり契約が終了する(放送受信規約第9条)ことと対比すると,既に受信設備を廃止した受信設備設置者が廃止の後の受信料支払義務を負うことはありえない。仮に,既に受信設備を廃止した受信設備設置者に対して判決が承諾を命ずるとすれば,受信設備の設置の時点からその廃止の時点までという過去の一定の期間に存在するべきであった受信契約の承諾を命ずることになる。これは,過去の事実を判決が創作するに等しく,到底,判決がなしうることではない。   
 原告が受信設備設置者に対して承諾を求める訴訟を提起しても,口頭弁論終結の前に受信設備の廃止がなされると判決によって承諾を命ずることはできず,訴訟は受信設備の廃止によって無意味となるおそれがある。   

4 財源としての受信料の必要性と放送法64条の関係   
 放送法の制定当時においても民事訴訟法736条が現行の民事執行法174条と同様の意思表示を命ずる判決を定めていたのであるから,放送法の制定にあたって,同法に定める受信契約の締結義務を,意思表示を命ずる判決によって受信契約が成立するものとし,それによって受信料を確保するものとする動機付けは存したかもしれないが,そのことと,実際に制定された放送法の定めが,受信契約の締結を判決により強制しうるものとされているか否かは,別問題である。   
 受信契約の内容は放送受信規約によって定められ,その規約による受信契約の条項は電波監理審議会の諮問を経た総務大臣の認可を経ているのであるから,放送受信規約は放送法64条1項の趣旨を具体化したものとなっていると解されるが,その規約の内容が,判決によって承諾を命ずることができるものにはなっておらず,かえって,任意の契約締結を前提とするものとなっていることは,前項で述べたとおりであり,放送法64条1項は判決により受信契約の承諾を命じうる義務の定め方をしていないのである。   

5 判決によって成立する受信契約が発生させる受信料債権の範囲    
 多数意見は,受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生する理由を,受信契約の締結を速やかに行った者と遅延した者の間の公平性に求めるが,これは,受信契約が任意に締結される限り受信料支払義務の始点を受信設備設置の月からとすることの合理性の理由にはなるものの,放送法の定めが判決が承諾を命じうる要件を備えたものとなっていることの理由になるものではない。   
 契約の成立時を遡及させることができない以上,判決が契約前の時期の受信料の支払義務を生じさせるとすれば,それは,承諾の意思表示を命ずるのではなく義務負担を命ずることになる。これは,放送法が契約締結の義務を定めたものではあるが受信料支払義務を定めたものではないことに矛盾するものである。   

6 受信料債権の消滅時効の起算点   
 多数意見は,判決により成立した受信契約による受信料債権の消滅時効の起算点を判決確定による受信契約成立時とし,任意の受信契約の締結に応じず,判決により承諾を命じられた者は受信料債権が時効消滅する余地がないものであってもやむを得ないとする。   
 受信設備設置者は,多数意見のいうように,受信契約の締結義務を負いながらそれを履行していない者であるが,不法行為による損害賠償義務であっても行為時から20年の経過により,債権者の知不知にかかわらず消滅し,不当利得による返還義務であっても発生から10年の経過により,債権者の知不知にかかわらず消滅することと比較すると,およそ消滅時効により消滅することのない債務を負担するべき理由はない。   

7 放送法の契約締結義務の私法的意味   
 放送法64条1項の定める受信契約の締結義務が判決により強制できないものであることは,なんら法的効力を有しないということではない。   
 受信契約により生ずる受信料が原告の運営を支える財源であり,これが,原告について定める放送法の趣旨に由来することから契約締結義務が定められているのであるから,受信設備を設置する者に受信契約の締結義務が課せられていることは,「受信契約を締結せずに受信設備を設置し原告の放送を受信しうる状態が生じない」ことを原告の利益として法が認めているのであり,この原告の利益は「法律上保護される利益」(民法709条)ということができる。受信契約の締結なく受信設備を設置することは,この利益を侵害することになり,それに故意過失があれば,不法行為が成立し,それによって原告に生ずる損害については,受信設備設置者に損害賠償責任が認められると解される。   
 同様に「受信設備を設置し原告の放送を受信しうる状態となること」は,受信設備設置者にとって,原告の役務による利益であり,受信契約という法律上の原因を欠くものである。それによって原告に及ぼされる損失については,受信設備設置者の不当利得返還義務が認められると解される。

2017年10月24日 (火)

ベネッセ個人情報流出事件 最高裁が差し戻し判決

 ベネッセの個人情報流出事件に関して、自分の個人情報が流出したとして、ベネッセに対し、損害賠償を求めた事件について、昨日(10/23)最高裁で判決がありました。

 判決内容は、請求を棄却した大阪高裁判決を取り消して、高裁に差し戻す、というものでした。
 最高裁は、 「原審は,上記のプライバシーの侵害による上告人の精神的損害の有無及びその程度等について十分に審理することなく,不快感等を超える損害の発生についての主張,立証がされていないということのみから直ちに上告人の請求を棄却すべきものとしたものである。そうすると,原審の判断には,不法行為における損害に関する法令の解釈適用を誤った結果,上記の点について審理を尽くさなかった違法があるといわざるを得ない。 」 としました。
 これは、不快感や不安を超える損害がなければ損害とならない、とした高裁の判断を誤り、として、損害について審理をやりなおすように命じたものです。

 → 判決文(裁判所サイト)

 従前、個人情報大量流出事件についての被害者らからの損害賠償請求の事件として有名なのは、次の3事件です。   
 これらの事件は、いずれも、個人情報保護法施行以前に起こった情報流出に関するものです。なお、個人情報保護法自体には、情報流出についての損害賠償責任などの民事的責任が定められた規定はありません。したがって、こういった場合、通常は、民法上の不法行為、もしくは債務不履行責任の問題になります。

 ◎宇治市住民基本台帳データ流出事件
    京都地裁 13.2.23.(慰謝料1万、弁護士費用5千円)
    大阪高裁 13.12.25.(控訴棄却)
    最高裁 14.7.11.(上告不受理)

 ◎TBC事件
    東京地裁 19.2.8.
      (慰謝料1万7千円(1名)、3万円(13名)、弁護士費用5千円)
    東京高裁 19.8.28.(控訴棄却)
 ◎ヤフーBB情報漏洩事件
    大阪地裁 18.5.19.(慰謝料5千円、弁護士費用1千円)
    大阪高裁 19.6.21.(地裁判決から既払500円を減額)
    最高裁 19.12.14.(双方からの、上告棄却 上告不受理)

 この内、最後のヤフーBB事件は、私も弁護団に所属していましたので、当ブログにも判決に関していくつかの記事を書いています。高裁判決の時の記事をリンクしておきます。そこから、いくつかの記事にリンクしてますので、興味のある方はお読みください。

   → 「ヤフーBB個人情報漏洩事件控訴審判決(大阪高裁)」 (2007/6/21)

2017年9月19日 (火)

SNSアカウントなりすまし行為に対する損害賠償訴訟判決(大阪地裁)

 裁判所webサイトの裁判例情報に出ていた判決に「インターネット上の掲示板において,他人の顔写真やアカウント名を利用して他人になりすまし,第三者に対する中傷等を行ったことについて,名誉権及び肖像権の侵害が認められた事例」(平成29年8月30日判決 大阪地裁平成29年(ワ)第1649号 損害賠償請求事件)というのがありました。

 → 裁判所webサイトの判決本文(PDF)はこちらから

 事案を簡単に紹介しますと、あるSNSサービスにおいて、被告が、原告と同じアカウント名を設定したうえ、プロフィール画像に原告の顔写真を使用して、なりすまし行為を行ったうえで、他者に対する誹謗中傷、差別表現の投稿を多数行ったというもので、これに対して、原告が、名誉権,プライバシー権,肖像権及びアイデンティティ権を侵害されたとして,被告に対し,不法行為に基づき,慰謝料,発信者情報開示費用及び弁護士費用の合計である損害賠償金723万6000円及び遅延損害金の請求を行った、という訴訟です。請求金額の内訳は、慰謝料600万円、発信者情報開示費用(開示手続の弁護士費用)58万6千円、本件訴訟弁護士費用65万円となっています。

 結論から言うと、大阪地裁は、被告に対して、損害賠償として130万6千円(慰謝料60万円、発信者情報開示費用58万6千円、弁護士費用12万円)と遅延損害金の支払を命じています。

 裁判所の判断の詳細は、上記リンク先から判決本文を見ていただきたいのですが、原告が本件の請求の根拠としている名誉権、プライバシー権、肖像権、アイデンティティ権についての判断を見ますと、まず、「第三者に対し、原告が他者を根拠なく侮辱や罵倒して本件掲示板の場を乱す人間であるかのような誤解を与えるものであるといえる」として、名誉権の侵害は肯定されています。

 次にプライバシー権ですが、原告の主張はプロフィール画像を原告の顔写真にして公開したことがプライバシー権侵害であるというものであるところ、この顔写真は原告によって自らのプロフィール画像として公開されていたものであるから、「原告の顔写真は、原告によって第三者がアクセス可能な公的領域に置かれていたと認めるのが相当であり、他人に知られたくない私生活上の事実や情報に該当するということはできない。」として、プライバシー権によって保護するものではない、と否定されました。

 肖像権については、最高裁判例を引用して、「他人の肖像の使用が違法となるかどうかは、使用の目的、被侵害利益の程度や侵害行為の態様等を総合考慮して、その侵害が社会生活上受忍の限度を超えるかどうかを判断して決すべきである」としたうえで、「被告は、原告の顔写真を本件アカウントのプロフィール画像として使用し、原告の社会的評価を低下させるような投稿を行ったことが認められ、被告による原告の肖像の使用について、その目的に正当性を認めることはできない」「(投稿内容は)原告を侮辱し,原告の肖像権に結びつけられた利益のうち名誉感情に関する利益を侵害したと認めるのが相当である。」として、権利侵害を認めています。

 最後にアイデンティティ権ですが、原告の主張は、憲法13条後段の幸福追求権又は人格権から、他者との関係において人格的同一性を保持する利益であるアイデンティティ権が存在するとして、本件のなりすまし投稿行為は原告のアイデンティティ権を侵害したというものです。   
 今回の大阪地裁判決では、「個人が,自己同一性を保持することは人格的生存の前提となる行為であり,社会生活の中で自己実現を図ることも人格的生存の重要な要素であるから,他者との関係における人格的同一性を保持することも,人格的生存に不可欠というべきである。したがって,他者から見た人格の同一性に関する利益も不法行為法上保護される人格的な利益になり得ると解される。」として、人格の同一性に関する利益も考えられるとしたうえで、   
「他者から見た人格の同一性に関する利益の内容、外縁は必ずしも明確ではなく、氏名や肖像を冒用されない権利・利益とは異なり、その性質上不法行為法上の利益として十分に強固なものとはいえないから、他者から見た人格の同一性が偽られたからといって直ちに不法行為が成立すると解すべきではなく、なりすましの意図・動機、なりすましの方法・態様、なりすまされた者がなりすましによって受ける不利益の有無・程度等を総合考慮して、その人格の同一性に関する利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものかどうかを判断して、当該行為が違法性を有するか否かを決すべきである。」としました。   
 そして、本件では、なりすましが正当な意図,動機によるものとは認められないけれども、「なりすましの方法,態様についてみると、本件サイトの利用者は、アカウント名・プロフィール画像を自由に変更することができることからすると、社会一般に通用し、通常は身分変動のない限り変更されることなく生涯個人を特定・識別し、個人の人格を象徴する氏名の場合とは異なり、利用者とアカウント名・プロフィール画像との結び付きないしアカウント名・プロフィール画像が具体的な利用者を象徴する度合いは、必ずしも強いとはいえない」、「原告が被告によるなりすましによって受けた不利益についても、「原告の名誉権及び肖像権の侵害による不利益については別に不法行為上の保護を受ける」し、その余の不利益についても、なりすましは本件サイト内の投稿にとどまること、投稿の直後から他の本件サイト利用者により、投稿が原告本人以外の者によるものである可能性が指摘されていたことが認められること、なりすましは短期間(約1か月余り)であったこと、などの事実を総合考慮すれば、被告のなりすまし行為(名誉権侵害行為,肖像権侵害行為は除く)による原告の人格的な利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものとまでは認められない、として、本件のなりすまし自体は違法とまではいえないという判断をしました。

 つまり、名誉権肖像権の侵害は認め、プライバシー権アイデンティティ権の侵害は認めなかったということになります。ただ、後者の2権利についても、なりすましの行為態様によっては、侵害が認められる場合もあることを示しているので、参考になろうかと思います。

2017年8月10日 (木)

朝鮮学校無償化裁判判決についてネット炎上している裁判長代読などについて

 先日の大阪地裁での朝鮮学校の授業料無償化に関する判決について、なんだかTwitterなどネット上で炎上しているようです。

 もちろん、これに限らず、判決の内容、結論について、賛否いろんな議論がされるのは結構なんですが、今回は変なところで炎上しており、判決自体の議論の邪魔にもなるので、取り上げてみます。

 問題とされているのは、この判決の裁判長である西田隆裕裁判官が、4月1日で裁判官から検事になっており、判決当日は裁判官ではないのに、別の裁判官の代読という形で判決が言い渡されているのは違法で判決は無効ではないか、という批判です。なお、この裁判は、西田裁判官の単独の判決ではなく、3名の裁判官の合議体での判決であり、他の2名の裁判官については、そのままです。

 しかし、上記の批判はあたらない、というか、訴訟を知ってる実務家であれば、誰も疑問に思わないところだと思います。

 まず、判決言い渡しの日までに異動(転勤)や定年退官、辞職などがあった場合に、代わりの裁判官が代読するのは別に珍しいことではなく、よくあることです。特に4月の異動は多いですので、その後くらいの判決では多いですね。私もそのような判決を受けたことは何回も経験しています。退官や辞職の場合は、判決の当日には既に裁判官ではなくなっているのですが、それが違法というわけではありません。

 若干脱線しますが、弁護士から任官された裁判官が「弁護士任官どどいつ」というのをたくさん作られていますが、その中に、4月のどどいつとして、こんなのを作っておられます。

  「なんで私が テレビに映る 代わりに判決 読んだだけ」

その解説として、   
「裁判官の転勤は4月が多い。判決を書くのは結審時の裁判官なのだが、言渡しが転勤後になった場合は、後任の裁判官が代読する事になっている。社会の注目を集める判決の場合でも、法廷撮影で映るのは、実は判決に全く関与していない裁判官という事も少なくない。(略)」   
とあります。 → 弁護士任官どどいつ(7)

 それと、炎上の内容として、西田裁判長が4月に裁判官から検事に任官していることが、弾劾逃れだとか、というのもあるのですが、これも間違いです。

 今回は、西田裁判官が、4月から大阪国税不服審判所の所長に就任したのですが、この大阪国税不服審判所の所長は、これまで裁判官が就任することが通例となっています。前の所長も裁判官です。なお、東京国税不服審判所の所長は、検察官が就任するのが通例です。国税不服審判所の審判官には、裁判官、検察官、弁護士、会計士などいろんな所から任官されています。

 したがって、西田裁判官の場合も、いわば異動(転勤)みたいなもので、本人が弾劾逃れで仕事を変えたとかというものではありません。ただ、国税不服審判所は、裁判所ではありませんので、移るにあたって、いったんは裁判所から離れて(裁判官をやめて)、「検事」の肩書になるものです。何年かして、所長交代の際には、裁判所に戻るのが普通です(定年等の事情がない限り)。

 このあたりのところは、なかなか文献等はないのですが、なぜかwikipediaに具体的な説明がなされてましたので、リンクを貼っておきますね。しかし、こんなマニアックな解説を書いたのは誰なんだろうと思ってしまいました。内部の方でしょうか?

 → Wikipedia「国税不服審判所」 (組織)   
「なお、行政審判機関としての性格や、国税庁に対する中立性・第三者性保持の観点から、国税不服審判所本部所長には裁判官からの出向者が、主要支部である東京国税不服審判所長には検察官からの出向者が、同じく大阪国税不服審判所長には裁判官からの出向者が充てられるのが通例である。このほか、本部及び主要支部に、裁判官又は検察官からの出向者が若干名配置されている(なお、裁判官からの出向者の出向中の身分(官名)は、検察官からの出向者と同じく「検事」となるのが例である。)。」

2017年7月26日 (水)

美容クリニックの院長氏が起こした名誉毀損請求訴訟

 美容クリニックの有名院長氏が、国会議員と民進党を被告として名誉毀損の民事訴訟を起こしたようで、先日第1回口頭弁論期日があったことが報じられています。その報道によれば、第1回期日に出頭された院長氏がいろいろとおっしゃっているようですが、訴訟手続を知っていれば、いろいろと疑問なことを話しておられたらしいです。

 この点について、弁護士さんがブログで詳細に書いておられますので、ご紹介します。要するに、民事訴訟の第1回口頭弁論期日では当たり前のことがあった、というだけのことになります。

 もっとも、院長氏はそのようなことはわかった上でおっしゃってるのかも知れませんけども。

 → 弁護士三浦義隆のブログ
     「高須院長の訴訟を題材に民事訴訟手続の流れを解説しよう

 なお、この関連で、テレビ番組で、浅野元宮城県知事が、「名誉毀損は事実と違うことを提示して名誉毀損するっていうんだけど」として、院長氏を批判したらしいですが、民事にせよ、刑事にせよ、名誉毀損というのは、真実でないことを言って名誉を毀損する場合だけではなくて、それが真実であっても成立します。たとえば、私に、殺人の前科があったとして、そのことは回りの人は知らないのに、「あいつは人殺しだ。」と言いふらしたような場合には、内容は真実ではありますが、名誉毀損が成立する可能性は十分にあります(もっとも、真実であれば、責任が問われない場合もあるとか、他にいろいろと例外的なことは法的にはあるのですが、複雑になるので、ここでは全て省略します。)。

【追記】(7/27)

弁護士ドットコムにこんな記事が出てました。
 → 「高須院長「民進党は何も反論しなかった」は誤解?」 

2017年6月21日 (水)

消費者支援機構関西が特定適格消費者団体の認定を受けました。

 本日、特定非営利活動法人「消費者支援機構関西」(略称「KC's」〔ケーシーズ〕)に対して、消費者庁は、特定適格消費者団体の認定を行いました。

  → 消費者庁サイト

  → 消費者支援機構関西サイト

 特定適格消費者団体は、昨年(平成28年)10月1日に施行された「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」に基づく集団的消費者被害救済訴訟の原告となることができる団体で、これは、これまで消費者契約法に基づいて認定され、同法や特定商取引法景品表示法食品表示法の違反行為に対して差止訴訟を提起することができる「適格消費者団体」(現在16団体)の中から申請に基づいて認定されます。
 これまでに、消費者機構日本(COJ)特定適格消費者団体の第1号として認定を受けており、今回の消費者支援機構関西が2団体目です。他にも認定を目指す団体はあろうかと思いますが、現時点では他に申請を行ったところはないと思います。

 消費者支援機構関西は、私も少しお手伝いしており、今回の認定に至るまでのご苦労を近くで見ていた者として感慨深いものがあり、関係者の皆さんに敬意を表します。ただし、実際にこの集団的消費者被害救済訴訟を担当していくことは様々な困難があると予想され、今後の一層の頑張りが必要になってきます。なお、今のところ、実際にこの訴訟は提起されていません。

 集団的消費者被害救済訴訟の制度はちょっとややこしい2段階構造になっているので、ここでは説明を省略しますが、興味のある方は、以下のサイトをご覧下さい。

  → 政府公報「消費者団体訴訟制度の活用を」! 
      (差止訴訟と被害回復訴訟の両方の一般広報)

  → 政府インターネットテレビ「新たな消費者団体訴訟制度」 (動画)

  → 消費者庁サイト
      (集団的消費者被害救済制度の法令の他、Q&Aにリンク)

  → 消費者機構日本(COJ)サイト「消費者団体訴訟制度とは」

      (差止訴訟と被害回復訴訟の解説)

2017年6月13日 (火)

美容室などを対象とした民事調停一斉申立(JASRAC)

 日本音楽著作権協会(JASRAC)が、公式サイトで、本日、BGMを利用する美容室などの店舗に対して全国一斉に法的措置(簡易裁判所への民事調停申立)を行ったことを公表しています。

 これは最近話題になった音楽教室から使用料を徴収する方針の件とは別の問題です。

 「BGMを利用していながら、著作権の手続きをしていない美容室など」に対して調停申立を行ったとのことですので、おそらくは、CDやダウンロードした音源を営業時にBGMとして顧客向けに流していたのではないかと思われます。調停の具体的内容は記載されていませんが、過去の使用料相当分の支払いと今後の契約締結でしょうね。調停や裁判にはなりませんでしたが、JASRACからこのような要求が来た、という相談は何度か受けたことがあります。

 本日の公表によれば、今回の一斉調停申立は、178事業者、352店舗に対して行われたとのことであり、そのうち163事業者、205店舗が美容室ということですので、美容室を主なターゲットにしたもののようです。

 JASRACは、昨年6月にも美容室を主な対象としてに一斉調停申立を行っています(プレスリリース)。このときは、187事業者、212店舗に対する調停申立で、そのうち132事業者、151店舗が美容室とのことです。

 この2016年6月のプレスリリースには、「BGMを流す施設の著作権管理を開始した14年前(2002年)は、有線音楽放送などの業務用BGMの利用が主流であり、著作権の手続きはそれらを提供している事業者が施設に代わって行っていたことから、ほとんどの施設が個別にJASRACに手続きをする必要はありませんでした。近年、BGMの音源が多様化(市販のCD、携帯音楽プレーヤー、パソコン、インターネットラジオ等)しており、こうしたBGMの利用については、施設ごとに著作権の手続きを行っていただく必要があります。」との記載がありますね。

 一昨年にも一斉申立を行っていて、このときは171事業者、258施設(美容室、理容店、アパレル店、飲食店他)が対象になっており(プレスリリース)、このような一斉申立は今回が3回目とのことです。

 この使用料請求は、現在の著作権法においては、当然にできるものと考えられますので、理美容室や飲食店などの経営者の方は気をつけないと、遡って多額の請求をされる可能性がありますので御注意ください。また、今後のBGM音楽使用については著作権法の専門家に相談されたほうがよいかと思います。著作権に関するネット上の情報は、法律的にはかなり間違ったものが出回っていますので。

2017年3月 3日 (金)

「判例による不貞慰謝料請求の実務〔主張・立証編〕」(LABO刊)

 一昨年に出版された「判例による不貞慰謝料請求の実務」(中里和伸著)については、当ブログでもご紹介しました。不貞行為の慰謝料については、実際に法的な紛争になることも多く、私たち弁護士にとっては(自分自身が不貞とは無縁の人であってもです〈笑〉)関与する機会の多い分野といっても良いかと思います。実際に、私が関わっている不貞慰謝料請求の訴訟手続の中で、この本は非常に参考になりました。

 → 「書籍の紹介:「判例による不貞慰謝料請求の実務」(中里和伸著)」(2015/8/ 5)

 そして、この本の姉妹編となる「判例による不貞慰謝料請求の実務〔主張・立証編〕」(中里和伸・野口英一郎著・LABO刊)が出版とのことで、3月10日発売開始予定となっています。Amazonでは予約受付中となっていますが、ありがたいことに編集者よりご恵贈いただき、一足先に入手できましたので〔関係性明示(笑)〕、ここにご紹介させていただきます。なお、東京地裁や日弁連会館の地下の書店では既に販売が開始されているようです。

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 前の本が、不貞慰謝料に関する多くの裁判例を整理して、理論的な問題や具体的な慰謝料の算定等について紹介されていたのに対し、本書は実際の民事訴訟手続における「主張・立証」活動を対象としています。
 したがって、特に我々弁護士にとっては極めて実践的で有益な内容になっていますね。

 目次は以下の通りですが、巻末の裁判例一覧には、前の本の出版以降に出された裁判例が追補となっています。また、書式集も実務的に役立つものが掲載されています。

 序 章 不貞行為の歴史
 第1章 不貞慰謝料請求訴訟の提起から終結に至るまでの時系列の流れ
 第2章 不貞慰謝料請求訴訟における典型的な主張と反論の構造
 第3章 民事訴訟における事実認定
 第4章 不貞行為の証拠の入手方法と裁判例
 第5章 不貞慰謝料請求訴訟と渉外問題
 第6章 不貞慰謝料請求訴訟と弁護士職務基本規程

 〔裁判例一覧〕
 〔実務に役立つ書式集〕

2017年2月27日 (月)

クロレラ最高裁判決についての記事を「文化通信」より転載

 消費者契約法の「勧誘に際し」の解釈に関してのクロレラチラシ配布差止請求訴訟の最高裁判決(本年1月24日)について、2月13日付のメディア専門誌「文化通信」に拙稿が掲載されました。

 文化通信社のご了解を得て、当ブログ右上の【コラム】に追加しましたので、興味のある方はご覧ください。

【コラム3】クロレラチラシ配布差止訴訟最高裁判決が広告に与える影響

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