2018年2月20日 (火)

芸能界の契約実態についてのヒアリング・アンケート結果(公取委)

 前回取り上げました「「人材と競争政策に関する検討会」(公取委)報告書の公表」ですが、この検討会の基礎資料とするために公正取引委員会事務局が、フリーランス、スポーツ、芸能といった各業界の事業者団体、事業者、個人、有識者など幅広くヒアリングを行い(合計91者)、また、フリーランス、スポーツ選手、芸能人などを対象に、webサイト上でアンケートを実施し、549件の回答を得ています。

 この結果については、「人材獲得競争に係る実態ヒアリング及びフリーランス等に関するウェブアンケートの結果」としてまとめられており、公正取引委員会競争政策研究センター(CPRC)の検討会ページに公表されています(「人材と競争政策に関する検討会」の「報告書」欄の「・別紙3(事務局ヒアリング及びアンケート結果)」からPDFファイルがリンクされています。

 今回は、この調査結果の中から、芸能人に関するところを抜粋してご紹介したいと思います。スポーツ選手関係は、またまとめたいと思います。

 なお、これらの事項は、公正取引委員会が違法とか違法のおそれを認定したということではありません。ただ、調査結果のとりまとめで、これらの事項を掲げているということは、少なくとも違法のおそれがあるかもしれない、ということで抽出されていることは推測できると思います。
 そして、この調査結果などを踏まえて、前回ご紹介の報告書ができていますので、公正取引委員会が今後どういう形で、関与していくか、について期待したいところです。

100

 すぐにどうこうはないかもしれませんが、公正取引委員会から事情聴取もされた音楽芸能プロダクションの事業者団体である日本音楽事業者協会(音事協)が、芸能プロダクションと芸能人との契約のひな型の変更を行うとの報道もなされています。

 ヒアリングやwebアンケートで寄せられた芸能関係の意見は以下のとおり。

  •  多額の報酬を示唆することに基づく芸能人の引き抜きは行わない旨の共通認識があり、実際、芸能事務所間の芸能人の引き抜きは盛んではない。

  •  業界団体において、製作者が、出演交渉の相手方を固定化して、製作者が交渉相手を頻繁に変えなくてはならない事態にならないようにするため、芸能事務所が他の芸能事務所に対して引き抜きを行わないよう指導している(ただし、芸能人が自らの意思で移籍をすることは禁止していない。)。

  •  契約満了時に芸能人が契約更新を拒否する場合でも、芸能事務所のみの判断により、契約を一度更新できることが契約上規定されており、また、芸能事務所の判断で当該規定が実施される場合がある。

  •  楽器や移動車等の多くの経費が必要な芸能人や、アイドルのようにスカウト~育成~宣伝費等,発掘から売れるようになるまで経費が莫大にかかる芸能人については、多大なコストがかかることから、芸能事務所は、その投資回収が済むまでの間、所属芸能人の移籍を認めないことがある。また、デビュー前の所属芸能人との間で、退所から一定期間は他の芸能事務所に所属できない旨を盛り込んだ契約を締結することがある。

  •  ある芸能事務所は、契約を更新しない意思表示をした芸能人に対し、これを翻意させるため、契約期間中であるにもかかわらず、報酬の支払を遅延したり、当該芸能人の業務を受託しない場合がある。

  •  ある芸能事務所は、契約期間満了に伴い芸能事務所を移籍しようとした芸能人が移籍できないようにするため、当該芸能人が移籍しようとした芸能事務所に対し圧力をかける、芸名を使用させない、芸能人としてのブランドイメージを損なわせる虚偽情報を流布する等により移籍を妨害している。

  •  ある芸能事務所は、所属芸能人に対する移籍への萎縮効果を目的として、業務委託契約に伴い離籍した芸能人に関する悪評を流布し、当該芸能人と製作者等との間の契約成立を妨害した。

  •  ある芸能事務所は、契約期間中にある芸能人と契約期間延長交渉時に、実績を踏まえ報酬額アップを交渉されても、育成投資コストの回収が終わっていないことを理由に協議に充分応じなかった。

  •  芸能人は、通常、芸能活動を行うに当たり、芸能事務所との間で「芸能人は専属芸術家業務を行うこと」及び「芸能事務所はプロダクション業務を行うこと」を内容とする契約を締結している。芸能事務所の事業者団体は、契約書の雛形を作成し、加盟する芸能事務所に対して、当該契約書の使用を推奨している。契約書の雛型には、契約満了時に芸能人が契約更新を拒否する場合でも、芸能事務所のみの判断により、契約を一度更新できることが規定されている。

  •  芸能事務所の提示する条件に応じず移籍を求めた場合には、芸能事務所とトラブルを生じたといったネガティブな印象が業界に広がり(場合によっては、芸能事務所がそのような情報を流布し)、テレビ局などが仕事を発注しなくなり、芸能活動が困難となるため、提示された条件で契約せざるを得ない。

  •  日本では、素人の新人を芸能人として育成するために、人材育成投資費用(レッスン代、オーディション代、衣食住等に係る費用)を芸能事務所が負担していることがあり、また、投資・育成期間は長期間になることがある。かかる費用の回収を図るために、芸能事務所が芸能人の移籍や独立を容易には認めない場合がある。

  •  芸能事務所の中には、芸能人の育成投資費用について、芸能人個々人ではなく、所属芸能人全体で計算していることがあり、いわゆる「売れっ子」の芸能人の売上げを、まだ育成期間中にある他の所属芸能人の費用や、売れていない・売れなかった所属芸能人に対する投資の回収に充てている。

  •  (取引条件等についてやむを得ず同意したのは)伝統的な慣習が大半のため。

  •  キャンセルになった仕事の分を自分で新しく探さねばならず、ひと月強ほど、収入が減少した。

  •  言われたことに納得がいかず、反発したり断ったりすると「仕事なくなるよ」等の脅迫的言辞を幾度となく言われたことがある。実際そうなると思ったし、業界丸ごとそうなっているのは事実であるから仕方なく従わざるを得ない。

  •  契約書などの書面を作成すると言っておきながら、それを数ヶ月にわたって放置される。また、書面が存在しないため、実質の責任が相手に発生しない。

  •  芸能人は、通常、芸能活動を行うに当たり、芸能事務所との間で「芸能人は専属芸術家業務を行うこと」及び「芸能事務所はプロダクション業務を行うこと」を内容とする契約を締結している。芸能事務所の事業者団体は、契約書の雛形を作成し、加盟する芸能事務所に対して、当該契約書の使用を推奨している。契約書の雛型には、契約満了時に芸能人が契約更新を拒否する場合でも、芸能事務所のみの判断により、契約を一度更新できることが規定されている。

  •  芸能事務所の提示する条件に応じず移籍を求めた場合には、芸能事務所とトラブルを生じたといったネガティブな印象が業界に広がり(場合によっては、芸能事務所がそのような情報を流布し)、テレビ局などが仕事を発注しなくなり、芸能活動が困難となるため、提示された条件で契約せざるを得ない。

  •  日本では、素人の新人を芸能人として育成するために、人材育成投資費用(レッスン代,オーディション代、衣食住等に係る費用)を芸能事務所が負担していることがあり、また、投資・育成期間は長期間になることがある。かかる費用の回収を図るために、芸能事務所が芸能人の移籍や独立を容易には認めない場合がある。

  •  芸能事務所の中には、芸能人の育成投資費用について、芸能人個々人ではなく、所属芸能人全体で計算していることがあり、いわゆる「売れっ子」の芸能人の売上げを、まだ育成期間中にある他の所属芸能人の費用や、売れていない・売れなかった所属芸能人に対する投資の回収に充てている。

  •  (取引条件等についてやむを得ず同意したのは)伝統的な慣習が大半のため。

  •  キャンセルになった仕事の分を自分で新しく探さねばならず、ひと月強ほど、収入が減少した。

  •  言われたことに納得がいかず、反発したり断ったりすると「仕事なくなるよ」等の脅迫的言辞を幾度となく言われたことがある。実際そうなると思ったし、業界丸ごとそうなっているのは事実であるから仕方なく従わざるを得ない。

2018年2月15日 (木)

「人材と競争政策に関する検討会」(公取委)報告書の公表

 注目されていた公正取引委員会「人材と競争政策に関する検討会」の報告書が本日公表されました。

 → 「人材と競争政策に関する検討会」報告書について (公正取引委員会サイト)

 報告書は本文が47頁となっており、上のリンク先からPDFファイルにリンクしています。   

100_2

           (「報告書概要」 公取委サイトより)

 まだ、公表されたばかりで、読み込めてませんが、ひとまず一部を抜粋しておきます。

 まず、労働法と独占禁止法との関係については、

「・・・・1947年の独占禁止法立法時には,「人が自分の勤労を提供することは,事業ではない」として,労働者の労働は独占禁止法2条1項の「事業」に含まれないとの解釈がなされ,公正取引委員会は,これらを踏まえて独占禁止法を運用してきた。
 しかし,前記第1の1〔1~5頁〕のとおり,就労形態が多様化する中で,独占禁止法上も労働法上も解決すべき法的問題が生じてきている。さらに,近年,労働契約以外の契約形態によって役務提供を行っている者であっても,労働組合法上の「労働者」に当たると判断される事例も生じている。このように労働契約を結んでいなくとも「労働者」と判断される者が,独占禁止法上の事業者にも当たることも考えられる。
 以上のことを踏まえると,労働者は当然に独占禁止法上の事業者には当たらないと考えることは適切ではなく,今後は,問題となる行為が同法上の事業者により行われたものであるのかどうかを個々に検討する必要がある。同様に,独占禁止法上の「取引」についても,その該当の有無を,取引の類型ごとに一律に整理するのではなく,独占禁止法上禁止されている行為(後記第5〔15~22頁〕又は第6〔22~44頁〕の行為)に該当する行為が行われていると認められる場合に,その行為のなされている取引が独占禁止法上の「取引」に該当するかどうかを個々に検討することが適切である。そして,労働法と独占禁止法の双方の適用が考えられる場合,それらの適用関係について検討する必要がある。
 そもそも独占禁止法立法時に前記のとおり労働者の労働は「事業」に含まれないとの解釈が採られたのは,使用者に対して弱い立場にある労働者保護のため,憲法の規定に基づき労働組合法,労働基準法を始めとする各種の労働法制が制定されたことを踏まえたものであった。この意義自体は現在も変わらないことからすれば,独占禁止法立法時に「労働者」として主に想定されていたと考えられる伝統的な労働者,典型的には「労働基準法上の労働者」は,独占禁止法上の事業者には当たらず,そのような労働者による行為は現在においても独占禁止法の問題とはならないと考えられる。加えて,労働法制により規律されている分野については,行為主体が使用者であるか労働者・労働者団体であるかにかかわらず,原則として,独占禁止法上の問題とはならないと解することが適当と考えられる。例えば,労働組合と使用者の間の集団的労働関係における労働組合法に基づく労働組合の行為がこのような場合に当たる。使用者の行為についても同様であり,労働組合法に基づく労働組合の行為に対する同法に基づく集団的労働関係法上の使用者の行為も,原則として独占禁止法上の問題とはならないと解される。また,労働基準法,労働契約法等により規律される労働者と使用者の間の個別的労働関係における労働者(下記囲み部分参照)に対する使用者の行為(就業規則の作成を含む。)も同様である。ただし,これらの制度の趣旨を逸脱する場合等の例外的な場合には,独占禁止法の適用が考えられる。」

 そして、スポーツ選手や芸能人の契約に関する独占禁止法の適用に関しては、以下のような記載がありました。                              

「例えば,スポーツ分野においては,複数のクラブチームが共同することで初めてプロリーグという一つの事業が成立する場合があるが,そのとき,複数のクラブチームが共同して選手の移籍を制限する行為はプロリーグの魅力を高めることを通じて消費者に対して提供するサービスの水準を維持・向上させる目的から行われているとの主張がある。
 これは,人材獲得市場における競争は阻害されるものの商品・サービス市場における競争は促進され,またこれを通じて人材獲得市場における競争も促進されるという主張と考えられる。そのような移籍制限行為が当該目的の実現に不可欠であるのか,商品・サービス市場での競争促進効果(消費者利益の向上等)の程度や,それが人材獲得市場での競争阻害効果を上回るものであるか,といった点も含めて総合的に考慮した上で判断されることになる。また,目的に比べてその手段が相当か,同様の目的を達成する手段としてより競争制限的でない他の手段は存在しないのかといった内容,手段の相当性の有無も考慮の上で判断される。」          

「例えば,芸能事務所やクラブチームが特定の者と一定期間の専属契約を締結し,その者の市場における価値の創造・拡大に資する(例えば,新人芸能人や新人選手の育成)とともに,その芸能人や選手の肖像等を芸能事務所等や本人以外の第三者が利用する取引の円滑化を図る場合があるが(後記脚注86参照),そのような事情の有無も含めて考慮した上で判断される。育成費用の回収を目的とする場合の具体的な考え方は,前記第5の3〔17~20頁〕の育成費用を回収する目的である場合と同じである。
 一方,契約期間が終了しても,既存の提供先である発注者の一方的な判断により専属義務を含む役務提供に係る契約を再度締結して役務提供を継続させる行為が,芸能事務所と芸能人の間の契約において行われる場合がある。芸能事務所と芸能人の間の契約が一度終了した後も,芸能事務所と第三者の間の当該芸能人についての契約が継続していることを理由に行われる場合,その必要性の有無も含めて考慮した上で判断される。」

「役務提供者が今後事実上移籍・転職ができなくなるほどの程度である場合,その不利益の程度は相当大きい。
 また,契約期間終了後は再契約をしないとの意向を示した役務提供者に対して,それを翻意させるために,発注者が役務提供者に対して,報酬の支払遅延や業務量の抑制などの不利益な取扱いをしたり,悪評の流布等により取引先変更を妨害し再度契約を締結させたりするといった行為についても,不利益の程度がより大きくなる場合がある。」

2018年1月11日 (木)

第5回「人材と競争政策に関する検討会」にて報告書案を討議

 芸能人やスポーツ選手などの契約関係について、昨年いくつか記事を書きました。

 → 「アイドルの恋愛禁止条項の効力についての判決(その2)」 (2017/1/7)

 → 「芸能プロダクションと芸能人との契約について公取委が調査との報道」
                           (2017/7/8)

 → 「芸能プロ契約問題と「人材と競争政策に関する検討会」(公取委)」
                           
(2017/7/13) 

 → 「ラグビー トップリーグの移籍制限 公正取引委員会が調査」との報道(独禁法)」 
                           
(2017/7/16)

 この公正取引委員会「人材と競争政策に関する検討会」の第5回の会議が、昨年末2017年12月27日に開催されており、その時の議事次第と議事要旨が、本日公開されました。

  → 公取委サイト

 しかし、この会議で配布され、討議されていたはずの報告書案は公開されていませんので、中身は全くわかりません。

 ただ、この会議の当日夜には、共同通信が、 「公取委、契約慣行の違法性を指摘 芸能人やスポーツ選手」というニュースを配信しており、一部新聞には記事として掲載されました。共同通信が、報告書案を入手したものと思われます。

 この報道によれば、「(公正取引委員会は)所属するタレントや選手に対する過度な移籍制限や、フリーランスに他の企業との取引制限を一方的に課すことは独禁法違反に当たるとの解釈を初めて示した。(中略)所属先に対して立場が弱く、人権上の問題も指摘されており、根強く残る不当な慣行に歯止めをかける狙いがある。」とし、また、労働契約の問題で独占禁止法違反になった例はないが、報告書案は法改正をしなくても適用対象にできると指摘している、としています。そして、2月の最終検討会で報告書を取りまとめ、来春までに報告書公表、とのことです。

続きを読む "第5回「人材と競争政策に関する検討会」にて報告書案を討議" »

2017年12月 8日 (金)

「ジャニーズ通信」(mixi関連)強制捜査の報道

 ジャニーズ事務所の商標権を侵害したなどとして、兵庫県警が12月4、5両日に、IT大手の「ミクシィ」の子会社で、チケット転売サイト「チケットキャンプ(チケキャン)」を運営する「フンザ」を家宅捜索していたことが本日報道されています。

 報道によれば、フンザは、ジャニーズ事務所の所属アイドルのコンサート日程や場所をまとめたサイト「ジャニーズ通信」を運営していましたが、ジャニーズ事務所から名称使用の許可をとっていなかったということです。フンザは、家宅捜索後の12月6日には、このサイトを閉鎖したとのこと。このチケットキャンプは、チケット転売サイトの中でも最大手だそうです。

 不正競争防止法違反は、同法2条1号(混同惹起行為)2号(著名表示冒用行為)のいずれかだと思われ、いずれも、一般に知られている他人の商品などの表示を使う行為が対象となります。ジャニーズくらいの有名銘柄になると、2号の著名表示冒用行為に該当するのではないか、と思われます。このような不正競争防止法違反行為は、民事上の差止とか損害賠償だけでなく、刑罰規定もあり、犯罪となりますので、今回兵庫県警が強制捜査に乗り出したものですね。

 商標法違反は、他人が持っている登録商標を商品名称などに使うことが商標権の侵害とされ、これも同じく侵害行為には刑罰規定があり、犯罪ということになります。

 チケット転売は、一般の消費者が、病気や仕事の都合などで、せっかく買ったチケットが使えないような場合には便利です。しかし、一方では、ネットや電話を使ってチケットを買い占める転売業者が、どうしてもチケットが欲しい一般消費者に高値で転売して利益を上げるという問題があり、また、この買い占め行為により販売開始時に一般の消費者が買えない事態にもなっています。

 なお、チケットキャンプのサイトには、次のような記載がありました。

「この度、誠に勝手ながら本日2017年12月7日(木)をもちまして、チケットキャンプのサービスを一時停止致しますことをお知らせします。

 チケットキャンプのサービス一時停止に関する詳細は、以下の通りとなっております。

 2017年12月7日(木)      
・新規会員登録、新規出品・リクエスト、新規落札が行えなくなります。      
・現在出品中のチケットで、落札前(取引成立前)のものにつきましては、事務局にて削除を行いました。      
※現在出品中のチケットで落札後(取引成立後)のものにつきましては、削除は行わないため通常通りお取引を継続ください。      
※サンロッカーズ渋谷「チケキャンダンクシート」、千葉ジェッツふなばし「XFLAG JAMシート」はご購入いただけます。       
※売上金につきましては、振込依頼を行っていただくことで通常通りお受け取りいただけます。

 サービスの一時停止期間につきましては未定となっております。」

2017年8月23日 (水)

消費者被害防止ネットワーク東海とジャニーズ事務所との差止請求に関する協議が成立

 昨年、ジャニーズのファンクラブの規約に関して適格消費者団体から是正の申し入れがあったことについて、当ブログで以下の通り書きました。   

 → 「適格消費者団体によるジャニーズファミリークラブへの規約是正の申入」 (2016/11/17)
 → 「この機会に適格消費者団体による差止請求の説明でも」 (2016/11/19)

 その後、いろいろとやり取りがあって、ひとまず決着がついたようで、協議内容が本日、消費者庁サイトに掲載されました。

 → 消費者被害防止ネットワーク東海と株式会社ジャニーズ事務所との差止請求に関する協議が調ったことについて (PDF)

 これまでの経緯については、消費者被害防止ネットワーク東海のサイトの「申入れ是正の活動(終了したもの)」に記載されています。

 消費者庁サイトの本日の公表の概要は次の通りです。ジャニーズ事務所は、申し入れられた契約条項変更を受け入れたようですね。


 消費者被害防止ネットワーク東海と株式会社ジャニーズ事務所との差止請求に関する協議が調ったことについて下記の事項を公表する。    

(1)事案の概要    
 適格消費者団体「消費者被害防止ネットワーク東海」が、ジャニーズ事務所に対して、ジャニーズ事務所に所属するタレントを応援することを目的とするファンクラブであるジャニーズファミリークラブに関し、ジャニーズ事務所同クラブの会申込者、会員との間で用いられる会員規約について、次のように契約条項の変更を申し入れた事案である。

(申入れの概要)   

  • 「本件規約は予告なく改訂されることがあり、改訂された本件規約は、閲覧可能となった時点から効力を有するものとする契約条項」が、消費者契約法10条に条項に該当し無効であるとして、その変更
  •    
  • 会員が本件規約に定める会員資格の各条件を満たしている場合でも、会員を退会処分とする場合があり、「退会処分とされた会員は損害賠償等の一切の権利行使ができないとする契約条項」及び「ジャニーズ事務所は本件クラブのサービスに関しいかなる責任も負わないものとする契約条項」が、それぞれ消費者契約法8条1項1号及び3号に該当し無効であるとして、その変更
  •    
  • 「会員が資格を喪失した場合、理由のいかんを問わず、支払済みの入会金及び年会費の返還ができないとする契約条項」が、消費者契約法9条1号に該当し無効であるとして、その変更

(2)結果

 平成29年6月1日、ジャニーズ事務所は、消費者被害防止ネットワーク東海に対し、上記の申入れに係る契約条項の改定について連絡した。    
これを受けて、平成29年7月25日、消費者被害防止ネットワーク東海は、申入れの趣旨に沿う内容の改定がなされたものとして、ジャニーズ事務所に対し、申入れ終了の連絡をした。

2017年7月13日 (木)

芸能プロ契約問題と「人材と競争政策に関する検討会」(公取委)

 先日、NHKの報道に関して、 「芸能プロダクションと芸能人との契約について公取委が調査との報道」 (2017/7/ 8)を書きましたが、今日は朝日新聞が関連記事を報じています。

 これは、芸能タレントやスポーツ選手、コンピュータープログラマーなど、特殊な技能を持つ人と企業などとの契約について、公正取引委員会が有識者会議を来月から開催し、早ければ今年度中に報告書を公表する、としているものです。

 おそらく、公正取引委員会競争政策研究センター(CPRC)が昨日(7/12)公表した 「「人材と競争政策に関する検討会」の開催について」「人材と競争政策に関する検討会」のことかと思われます。

 公表内容では、特に、芸能、スポーツなどに絞ってはいませんが、アメリカや欧州でのスポーツ選手の移籍問題や、昭和38年の我が国の映画会社の事案などに触れており、オブザーバーにスポーツ庁も入っていますので、芸能、スポーツ関係も視野に入れていることは間違いないようです。

 検討会のメンバーは以下の通りです。

   荒木 尚志 東京大学大学院法学政治学研究科教授
   大橋 弘
    東京大学大学院経済学研究科教授
              (
競争政策研究センター主任研究官)
   風神 佐知子
 中京大学経済学部准教授
   川井 圭司
 同志社大学政策学部教授
   神林 龍
   一橋大学経済研究所教授
座長 泉水 文雄
 神戸大学大学院法学研究科教授
   高橋 俊介
 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授
   多田 敏明
 日比谷総合法律事務所 弁護士
   土田 和博
 早稲田大学法学学術院教授
   中窪 裕也
 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
   中村 天江
      リクルートワークス研究所労働政策センター長
   和久井 理子
 大阪市立大学大学院法学研究科特任教授
              (
競争政策研究センター主任研究官)

(オブザーバー)
文部科学省(スポーツ庁) 厚生労働省 経済産業省
             [五十音順,敬称略,役職は平成29年7月12日現在]

 いつもいろいろとお世話になってます神戸大学の泉水文雄教授が座長となっておられますね。今後の検討状況を注目したいです。

【追記】(7/18)

 「人材と競争政策に関する検討会」について、公取委事務総長定例会見でも触れられていたようですので、追記しておきます。
 → 事務総長会見記録(平成29年7月12日) 

続きを読む "芸能プロ契約問題と「人材と競争政策に関する検討会」(公取委)" »

2017年7月 8日 (土)

芸能プロダクションと芸能人との契約について公取委が調査との報道

〔※【追記】続報を別記事で書きましたのでご覧下さい。「芸能プロ契約問題と「人材と競争政策に関する検討会」(公取委)」 (7/13)〕

 先日、AKB48のメンバーの突然の結婚宣言があった際には、当ブログの今年初めの記事「アイドルの恋愛禁止条項の効力についての判決(その2)」 (2017/1/7)への訪問が増えたという現象が起こりました。

 若干それとも関連するのですが、NHKが、昨日(7月7日) 「大手芸能事務所など不公正な契約ないか調査 公取委」というニュースを報じています。(注:ニュースのリンクは一定期間経過後、切られるかと思います。)   
また、同様の内容で、NHK「クローズアップ現代」 「芸能人が事務所をやめるとき ~“契約解除”トラブルの背景を追う~」を放送しています(2017年3月1日)。

 この調査開始の報道は、公正取引委員会からの正式発表ではなく、関係者からの取材で判明、とするものですが、このNHKの報道によれば、「芸能人の所属事務所からの独立や移籍をめぐってトラブルになるケースが相次いでいることから、公正取引委員会が大手芸能事務所などを対象に独立や移籍を一方的に制限するなど、独占禁止法に抵触するような不公正な契約が結ばれていないかどうか、調査を始めた」とのことです。

 この記事の中で、「業界団体の統一契約書」というのが出てきますが、これは音楽芸能プロダクションなどの業界団体「日本音楽事業者協会(音事協:JAME)」が作成している「専属芸術家統一契約書」という標準契約書のことですね。もちろん、事業者団体の作成するこういった標準契約書は、各プロダクションに対して強制力を持つものではなく、あくまでも「ひな形」だろうと思いますが、ネットで検索しても、音事協のサイトを含めて、統一契約書は見つかりませんでした(あればご教示下されば幸いです。)。

 NHKの報道によれば、この統一契約書では、事務所と芸能人の関係について一般的な雇用関係ではなく、「互いに対等独立の当事者どうしの業務提携」と位置づけており、契約期間満了の翌日から自動的に契約が延長されるとしていて、芸能人側が契約の更新を希望しない場合であっても、事務所側が期間の延長を求めることができるとしている、とのことですし、タレントが芸能活動を休業したり事務所との契約を解除したりする際には、「事前に書面によって事務所側の承諾を得なければならない」としていて、ほかの事務所に移籍するなどして芸能活動を再開しようとする際にも、一定の期間は前の事務所の承諾を得る必要があるとしているようです。

 今回は、こういった契約内容が、独占禁止法上問題とならないか、についての調査検討を公正取引委員会が始めた、ということですね。

 なお、この動きにも関連するのだと思いますが、公正取引委員会に置かれている競争政策研究センター(CPRC)では、今年3月に、内部向け研究の一環として、フリーライターの星野陽平氏の講演を開催しており、その際の資料「独占禁止法をめぐる芸能界の諸問題」 (PDF)がサイトにあげられています。これはSMAP事件など最近の芸能界で起きた事件、芸能界の歴史、芸能事務所のビジネスモデルなどを踏まえて、アメリカの状況との比較を行って、提言がなされています。(蛇足:文中、「レッツゴー三匹」とあるのは、正しくは「レツゴー三匹」です。)

 お隣の韓国でも、以前から芸能人の契約が「奴隷契約」などと呼ばれて問題視されていますが、そういった中で、韓国の公正取引委員会は、「大衆文化芸術家標準専属契約書」を作成しており、2011年には、青少年芸能人の人権を保護する内容への改定がなされています(中央日報日本語サイト)。    
 また、先日の報道では、韓国大手芸能事務所が、芸能プロダクションと「練習生」との間の不公正な契約慣行に関して、公正取引委員会による是正措置を受けて契約内容を修正した、と報じられています(朝鮮日報日本語サイト)。

 さらに、韓国では、「大衆文化芸術産業発展法」(2014年1月公布)が作られており、これによって、上記の標準契約の普及や、女性や未成年の芸能人の人権保護が図ろうとしています。   
 → 国立国会図書館立法情報「【韓国】 大衆文化芸術産業発展法の制定」海外立法情報課藤原夏人(PDF)

 さて、日本の公正取引委員会は今後どういった動きを見せるのでしょうか。

続きを読む "芸能プロダクションと芸能人との契約について公取委が調査との報道" »

2017年5月10日 (水)

米国FTCがSNSによる女優らのステマ投稿に警告

「ステマはだめ!」、InstagramインフルエンサーにFTCが警告 (ITpro)

 これは、先月4月20日の記事ですが、この中では誰に警告を送ったのかは公開されていない、とされています。

 ところが、このほどロイターが送付先の資料を入手したとして報じています。

米規制当局が女優やモデルに注意喚起、SNSでの商品推奨に (ロイター)

 これによれば、「米女優のソフィア・ベルガラ、スーパーモデルのハイディ・クルム、元プロバスケットボール選手のアレン・アイバーソンなど35人以上の著名人や40社を超える企業に対し3月に書簡を送付した」とのことですね。

 FTCの警告は、FTCの推奨・体験談(エンドースメント)に関する広告ガイドラインによるものです。当ブログでもステマの問題は何度も取り上げていますし、このFTCガイドラインについても以前書きました(ガイドラインは2015年5月に改訂されています。)。

 「ブログのステマ記事と米FTCガイドライン」 (2012/12/22)

 また、FTCは、このエンドースメントに関する広告ガイドラインとは別に、新たに いわゆるネイティブ広告(広告という形をとらない広告)についてのガイドラインを2015年12月に公表しています。

 なお、これまでのエンドースメントに関する広告ガイドラインによる勧告の事案(FTCとの和解で終了)としては、デパートのロード&テイラーに関するものがあります。

 「「広告であることを明かさないで消費者をだました」と、米連邦取引委員会が老舗デパートを罰する」 (田中善一郎)

2017年1月26日 (木)

ひとまず、「PPAP」商標登録出願騒動について

 ベストライセンス社、上田育弘氏は、商標権まわりの仕事に関係している人には、以前から大変な有名どころであったわけですが、突然、ピコ太郎の「PPAP」関連で、新聞やテレビが取り上げはじめ、大騒ぎになっていてビックリしています。
 今、人気の「PPAP」だから、というのも当然あるのでしょうが、やはり、ネット炎上の拡大の速さに今さらながら感じ入るしかないというところです。

 この件について、詳しく解説する時間はとてもありませんが、テレビなどでの報道、それを見ての一般の方々のTwitterなどでの投稿を見ていると、誤解されている部分がいくつか見られますので、そこだけ簡単に指摘して、今回の記事とさせていただきます。

  1.  上田氏は、元「弁理士」で、元弁護士でも元税理士でもありません。
     「弁理士」は特許など知的財産権の登録の出願、管理などを仕事とするための国家資格を持っている人です。
  2.    
  3.  今回の「PPAP」については、ベストライセンス社が「商標登録をした」、「商標権をとった」ということではなく、商標権の登録のための「出願」をしただけで、特許庁が登録を認めたわけではありません。登録を願い出た段階にすぎません。
  4.  これまでの同様の出願からみて、おそらく出願料は特許庁に支払われていないと思います。これを支払わないと、そもそも特許庁は登録の可否についての審査を始めません。      
  5.    
  6.  今回の出願で、出願料を払っても、特許庁は登録を認めない可能性がかなり高いと言えます。      
  7.    
  8.  仮に、認められて、ベストライセンス社が商標権を得たとしても、ピコ太郎が「PPAP」を歌えなくなる(こういう見出しの記事をいくつか見ましたが)、ということはありません。

                  以上です。

【追記】(1/27)
 弁理士さんの詳しい解説記事がありましたので、ご紹介します。上の記事だけでは、根拠がわからない、という方はお読みください。かなり長いです。私が「詳しく解説する時間はとてもありませんが」と冒頭にかいたのがお分かりいただけるかと (笑)

  → 「PPAPの商標が他人に商標登録出願された問題の解説」

               (ファーイースト国際特許事務所サイト)

【追記】(1/27)

 待望してました栗原潔先生の解説が出ました。
 ぜひご覧ください。

 → 「PPAP等の大量勝手商標出願問題について整理してみる」

2017年1月 7日 (土)

アイドルの恋愛禁止条項の効力についての判決(その2)

少し遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。

    本年もよろしくお願い申し上げます。

 昨年の判例時報の目次に目を通していたら、ファンと交際するなどした女性アイドルが芸能プロダクションから損害賠償を求めて訴えられていた裁判の判決で責任が肯定された、というのを見かけました。こういう判決について、ブログを書いたよなぁ、と思って探したら、ありました。1年前の記事でした。

「アイドルの恋愛禁止条項の効力についての判決」 (2016/1/18)

 これは、昨年(平成28年)の1月18日の東京地裁判決(下記第2事件)の報道に関するものでしたが、その際、上の判例時報の判決(平成27年9月18日東京地裁・下記第1事件)にも触れていましたね。ただ、この昨年1月の時点では、両判決とも判決文自体は読めていませんので、報道記事の内容と私の推測を交えた感想文になっていましたが、今回、両方の判決文を読むことができましたので、改めて記事にしておこうということで、今年最初の記事です。少し長くなりますが、タレントの契約における恋愛禁止条項の解釈について、特に第2事件については、なかなか面白い判決となっています。


【平成27年9月18日東京地裁判決(第1事件)の事案】

 被告Y1(女性アイドルタレント・15歳)が、原告X1(芸能プロダクション)との間で、芸能活動に係る専属契約を締結し、アイドルグループのメンバーとして芸能活動を行っていた。原告X2は、このアイドルグループについてX1との間でタレント共同運営契約を締結していた会社。被告Y2はY1の親権者(父親)。なお、ややこしいので、X1とX2を併せてXら、、Y1とY2を併せてYらと表記します。   
 そして、Y1が、男性ファンとラブホテルに入るなど専属契約に違反する行為をし、これにより、グループを解散せざるを得なくなり損害を被ったとして、Xらが、Y1に対しては債務不履行又は不法行為に基づき、親権者Y2に対しては民法714条1項(責任無能力者の監督義務者の責任)に基づき、合計約500万円の損害賠償金等の連帯支払を求めたという事案です。

 なお、専属契約には、Y1について「ファンとの親密な交流・交際等が発覚した場合」などの事項が発覚した場合、契約を解除して、X1はY1に損害の賠償を請求することができるものとされていました。   
 また、Y1は、専属契約締結の際、X1から「アーティスト規約事項」を受領していますが、この規約には、「私生活において、男友達と二人きりで遊ぶこと、写真を撮ること(プリクラ)を一切禁止致します。発覚した場合は即刻、芸能活動の中止及び解雇とします。 CDリリースをしている場合、残っている商品を買い取って頂きます。 異性の交際は禁止致します。ファンやマスコミなどに交際が発覚してからでは取り返しのつかないことになります。(事務所、ユニットのメンバーなどに迷惑をかけてしまいます)」という定めがありました。

 結論からいうと、判決(児島章朋裁判官)は、Y1にXらへの合計約65万円の損害賠償金の支払を認め、Y2への請求は全部棄却しています。

【平成28年1月18日東京地裁判決(第2事件)の事案】

 こちらは、原告X(芸能プロダクション)が、Xとの間で専属マネージメント契約を締結した被告Y1(女性アイドルタレント・契約当時は未成年)、被告Y2,Y3(親権者・両親)、被告Y4(Y1と交際したファン)に対して、Y1とY4が交際を開始し関係を持ち(当時は両者とも成年)、共謀してイベント等への出演を一方的に放棄するなどしたとして、Y1(債務不履行又は不法行為)とY4(共同不法行為)に対しては約880万円の連帯支払、Y2とY3に対してはY1の行為について管理監督を行うべき信義則上の義務に違反したとして110万円の連帯支払を求めたという事案です。

 こちらの契約では、「XがY1の出演業務に関して第三者との間で契約を締結した場合には、Y1はXの指示に従って誠実に当該出演業務を遂行しなければならない。」、「(損害賠償請求ができる事由として)〈1〉 いかなる理由があろうと仕事や打ち合わせに遅刻、欠席、キャンセルし、原告に損害が出た場合 〈3〉 電話もしくはメールで連絡が付かず損害が出た場合 〈8〉 ファンと性的な関係をもった場合 またそれにより原告が損害を受けた場合 〈11〉 あらゆる状況下においても原告の指示に従わず進行上影響を出した場合 〈13〉 その他、原告がふさわしくないと判断した場合」という定めがありました。なお、この契約にはY2も親権者として署名押印しています。

 なお、本件契約については、Y1は、メール(平成26年7月11日)および内容証明郵便(同月26日付)で、Xに対して、グループを脱退し、契約を解除する旨の意思表示を行っています。

 こちらの判決(原克也、中野達也、藤田直規裁判官)は、全ての請求が棄却となっています。


 まず、第1事件で、裁判所が女性アイドルの責任を認めた構成ですが、Y1はグループで活動するにあたり、交際禁止条項について説明を受け、その内容を認識していた事実が優に認定できる、とし、専属契約においては、交際等がX1に発覚した場合について規定しており、規約においては、ファンへの交際発覚を含む旨を明確に記載しているから、本件の交際がファンやXらに発覚したことが交際禁止条項の違反にあたることは明らかである、としました。そして、不法行為責任についても、「異性とホテルに行った行為自体が直ちに違法な行為とはならないことは、Yらが指摘するとおりである。しかし、Y1は当時本件契約等を締結してアイドルとして活動しており、本件交際が発覚するなどすれば本件グループの活動に影響が生じ、Xらに損害が生じうることは容易に認識可能であったと認めるのが相当である。そうすると、Y1が本件交際に及んだ行為が、Xらに対する不法行為を構成することは明らかである。」とし、債務不履行および不法行為を負う、としました。

 第1事件での損害賠償額ですが、Xらそれぞれへの信用毀損(各200万円の請求)は、その事実は認められないとされ、Tシャツの作成費、レコーディング費用、レッスン費用などの費用のみが損害とされたうえで、過失割合について、「Xらが芸能プロダクションとして職業的にアイドルユニットを指導育成すべき立場にあることや、Y1が当時未だ年若く多感な少女であったことなどを踏まえると、本件交際における過失割合は、Xらが40、Y1が60とするのが相当である。」として、上記費用の6割が損害賠償額とされたものです。

 なお、第1事件での、父親Y2の責任については、「本件契約等の締結時及び本件交際当時において、Y1は15歳の未成年であったところ、Y1は、X1との間で本件契約等を締結して本件グループでアイドルとして活動していたのであるから、通常の同年齢の者が有する事理弁識能力を有していたことは明らかである。」として、Y2は、民法714条1項の監督義務者等にはあたらないから、本件において責任を負うことはない、と判断しています。

 次に第2事件の判決(全部請求棄却)の判断です。

 判決は、まず、Y1の行為は、少なくとも形式的には本件契約の上記各条に違反するように思われる、としましたが、本件契約は雇用類似の契約であり、「本件契約の規定にかかわらず、民法628条に基づき、「やむを得ない事由」があるときは、直ちに本件契約を解除することができる」とし、本件では、この「やむを得ない事由」があったとして、内容証明郵便が到達した平成26年7月27日に契約解除の効力が発生した、としました。この「やむを得ない事由」に関して、判決は、「本件契約は、「アーティスト」の「マネージメント」という体裁をとりながら、その内実はY1に一方的に不利なものであり、Y1は、生活するのに十分な報酬も得られないまま、原告の指示に従ってアイドル(芸能タレント)活動を続けることを強いられ、従わなければ損害賠償の制裁を受けるものとなっているといえる。ゆえに、本人がそれでもアイドル(芸能タレント)という他では得難い特殊な地位に魅力を感じて続けるというのであればともかくとして、それを望まない者にとっては、本件契約による拘束を受忍することを強いるべきものではないと評価される。このような本件契約の性質を考慮すれば、Y1には、本件契約を直ちに解除すべき「やむを得ない事由」があったと評価することができる。」という注目すべき判断を行っています。
 そして、この事由は、Y1の過失によって生じたものではないから、解除による損害賠償義務(民法628条後段)をY1が負うことはない、としたのです。ここのところで、判決は、恋愛禁止条項違反の場合の損害賠償義務について、興味深い判断をしていますが、これは最後に書きます。

 したがって、Y1が平成26年7月20日のライブに出演しなかった行為と解除の効力発生前の7月26日までの7日間に本件グループの活動に従事しなかった行為は、Xに対する債務不履行に該当するけれども、解除の効力発生後の活動停止については、債務不履行に該当しない、とし、業務妨害ないし債権侵害の不法行為のXの主張についても、本件契約はY1にとって一方的に不利な面が強く、やむを得ない事由があるとしてこれを解除することはY1の正当な権利行使と認められるから、そのような不法行為に該当するとは認められない、としました。

 しかし、7日間については、Y1の債務不履行があったという判断にはなるのですが、判決は、この期間において、Xの主張するグッズの在庫、逸失利益、信用毀損などの損害が生じたとは認められない、として、結局、損害賠償請求を認めなかったものです。

 Y2、Y3(両親)の監督義務責任については、「そもそも一般的に成年に達した者が、マネージメント契約に基づきアイドル(芸能タレント)活動を行うのに際して、その者の父母が契約の相手方に対して何らかの責任を負う根拠はないと考えられる。」としたうえで、本件契約締結時Y1は既にその時点で19歳9か月であり、アイドル(芸能タレント)としての活動拠点もY2夫妻が暮らすH市から遠く離れた東京都内であった上、Y1がY4と交際を開始したと認められる平成25年12月には既に成年に達していた。」とし、「Y2夫妻は、Y1の生活及び活動状況について、原告の主張するような管理監督義務を原告に対して負うとは認められない。」としました。

 Y4(交際相手のファン)については、Y1の責任が認められない以上、当然責任を負わないことにはなるのですが、判決はこれに付言して、「異性に恋愛感情を抱くことは人としての本質の一つであり、その具体的現れとして当該異性と交際すること、さらに当該異性と合意の上で性的な関係を持つことは、人の幸福追求権の一場面といえる。まして、Y4は、一ファンに過ぎず、被告Y1と異なり、アイドルではなく、原告との関係で何らかの契約関係の拘束を負うものでもない。それゆえ、Y4においては、原告との関係で、契約上はもちろん一般的にも、Y1と交際し、さらにY1と合意の上で性的な関係を持つことを禁じられるような義務を負うものではないから、Y1と交際し、性的な関係を持った事実をもって、原告に対する違法な権利侵害と評価することはできないというほかない。」と言っています。

 この恋愛禁止条項違反行為については、判決は、Y1の責任判断の際、Y1の契約解除の効力発生時についての判断のところで、以下のように述べています。

確かに、タレントと呼ばれる職業は、同人に対するイメージがそのまま同人の(タレントとしての)価値に結びつく面があるといえる。その中でも殊にアイドルと呼ばれるタレントにおいては、それを支えるファンの側に当該アイドルに対する清廉さを求める傾向が強く、アイドルが異性と性的な関係を持ったことが発覚した場合に、アイドルには異性と性的な関係を持ってほしくないと考えるファンが離れ得ることは、世上知られていることである。それゆえ、アイドルをマネージメントする側が、その価値を維持するために、当該アイドルと異性との性的な関係ないしその事実の発覚を避けたいと考えるのは当然といえる。そのため、マネージメント契約等において異性との性的な関係を持つことを制限する規定を設けることも、マネージメントする側の立場に立てば、一定の合理性があるものと理解できないわけではない。    
 しかしながら、他人に対する感情は人としての本質の一つであり、恋愛感情もその重要な一つであるから、かかる感情の具体的現れとしての異性との交際、さらには当該異性と性的な関係を持つことは、自分の人生を自分らしくより豊かに生きるために大切な自己決定権そのものであるといえ、異性との合意に基づく交際(性的な関係を持つことも含む。)を妨げられることのない自由は、幸福を追求する自由の一内容をなすものと解される。とすると、少なくとも、損害賠償という制裁をもってこれを禁ずるというのは、いかにアイドルという職業上の特性を考慮したとしても、いささか行き過ぎな感は否めず、芸能プロダクションが、契約に基づき、所属アイドルが異性と性的な関係を持ったことを理由に、所属アイドルに対して損害賠償を請求することは、上記自由を著しく制約するものといえる。また、異性と性的な関係を持ったか否かは、通常他人に知られることを欲しない私生活上の秘密にあたる。そのため、原告が、Y1に対し、Y1が異性と性的な関係を持ったことを理由に損害賠償を請求できるのは、Y1が原告に積極的に損害を生じさせようとの意図を持って殊更これを公にしたなど、原告に対する害意が認められる場合等に限定して解釈すべきものと考える

 それぞれの立場からむずかしい微妙な問題ではあるのですが、なかなか含蓄のある判断ではないか、と思います。

続きを読む "アイドルの恋愛禁止条項の効力についての判決(その2)" »