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2018年8月 4日 (土)

「ダークツーリズム」(井出明著)を読んで

 知人の井出明金沢大准教授が、このほど、 「ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅」(幻冬舎新書)を出版されたので、読みました。

 井出先生は、観光学者ですが、法学修士、情報学博士でもあります。

 ダークツーリズムという言葉はまだ日本では耳なじみがありません。私も、井出先生の研究をうかがって初めて知った次第です。

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 ダークツーリズムとは? という点は、第一章を見ていただくとして、本書では、井出先生が実際に各地(小樽、オホーツク(北海道)、西表島、熊本、長野、栃木・群馬、そしてインドネシア、韓国・ベトナム)を巡ったダークツーリズムの実践がまとまめられ、最後にダークツーリズムのこれから、が語られています。

 新書ですので、本文にして200頁ちょっとですが、中身は大変濃厚だな、と感じさせるものです。また、私自身が子どもだった頃のいろいろな事件、災害などとも結び付くものも多く、考えさせられるものでした。

 本書には、網走刑務所の話も出てきますが、この話は、つい最近閉鎖された奈良少年刑務所の今後とも直接的に繋がる話だな、と思って読んでました。
 そういえば、奈良少年刑務所が閉鎖後に一般公開された時に井出先生も見学に行かれていて、その後で一緒に天満で飲んだことを思い出しました。なお、新書の帯にある写真は、博物館網走監獄での囚人コスプレで、一番左の人が井出先生御自身とのことです。

 また、南樺太の真岡の話は、昨年でしたか、NHKスベシャルでドキュメンタリーになっていたのを偶々見ていて、それまで知らなかった歴史でしたし、番組を見て涙したことを思い出しました。

 その他、順不同に書けば、東日本大震災と足尾銅山、ナショナルトラスト、炭鉱、労働組合、公害病、ハンセン病、朝鮮人強制連行、慰安婦、女工哀史、観光ガイド、風評被害、インド洋津波というような話が次々と展開されていて、具体的にダークツーリズムというものを学べる内容となっています。

 若い人には、多くは過去の歴史的な話かもしれませんが、かなりの問題は私が子どもだったころにも残っていた同時代的なものであり、それらは、たかだか半世紀くらい前のことになります。

 もっとも、本書は、必ずしも、深くて重いテーマの本として読む必要はないのかもしれません。   
 各章の最後には、「旅のテクニック」として交通宿泊などについてのアドバイスも書かれていて、普通の観光コースの旅行には飽きてしまったような旅行のマニア、リピーターの人には興味深い紀行エッセイとしても十分に楽しめるものとなっていると思います。

 なお、井出先生は、本書と同時に、「ダークツーリズム拡張 ─近代の再構築」(美術出版社) も出されていますので、ご紹介しておきます。

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2018年6月 5日 (火)

「八ツ橋」老舗の創業年表示についての訴訟(不正競争防止法)

 昨日、京都銘菓「八つ橋」の老舗である井筒八ッ橋本舗が、別の老舗聖護院八ッ橋総本店の「創業元禄二年」との表示が虚偽であるとして、不正競争防止法に基づき記載の差し止めと600万円の損害賠償を求める訴訟を京都地裁に起こした、と報じられています。

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 報道によれば、井筒八ッ橋本舗は文化2年(1805年)に創業しているが、聖護院八ッ橋総本店の元禄2年(1689年)創業には根拠がないと主張されているようです。

 不正競争防止法という法律は、各種の不正競争行為を禁止する規定がおかれていて、コピー商品であるとか、営業秘密不正取得であるとか、営業誹謗行為であるとか、いろんな行為を禁止しているのですが、今回は、同法2条1項14号の誤認表示行為が問題となるものと思われます。

【不正競争防止法2条1項14号】       
 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為

 こういった行為につき、競争事業者は、当該行為の中止を求めたり(差止)、損害賠償の請求ができます。また、不正の目的で行った場合には、罰則が科されることもあります。

 なお、今回同様、和菓子の製造販売事業者の間で、この不正競争行為が問題となった事例(大阪高裁平成19年10月25日判決・判例タイムズ1259号311頁)があります。これは、「元祖」表示についてです。もう10年以上前ですが、当ブログにも書いていましたので、ご紹介しておきます。さて、本件と比べていかがでしょうか。
(※ この記事中の条文番号等は当時のもので、旧13号→現14号、旧14号→現15号となっていますので、お読み替えください。)

 → 「「元祖」表示が品質表示か?の判決(不正競争)」 (2007/10/30)

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 もっとも、私の子供の頃の八ツ橋は、昔からの焼き八ツ橋だったのですが、今の人は八ツ橋といえば、生八ツ橋のことを考える人が多くなったのではないでしょうか。生八ツ橋を大々的に売り出して、今のようにメジャーにしたのは「おたべ」(株式会社美十)ですね。

2018年3月 3日 (土)

徳島市が徳島市観光協会の破産手続開始を申し立てる

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 昨日(3/2)、徳島市が、阿波おどりを主催する徳島市観光協会の累積赤字が膨らんだことを理由として、同協会の破産手続の開始を徳島地裁に申し立てたことが報道されています。徳島市観光協会は、地元の徳島新聞社と共に阿波おどりを主催する公益社団法人です。

 観光協会破産手続の開始を申し立てるというのは異常な事態だと思いますけれども、阿波おどりの運営をめぐる、徳島市徳島市観光協会徳島新聞社の3者間での問題は以前から時々マスコミなどでも取り上げられています。

 たとえば、   

  •  「阿波おどりの運営を巡るトラブルで辞職を迫られたとして、徳島市観光協会の近藤宏章会長が16日、公務員職権乱用の疑いで、同市の遠藤彰良市長に対する告発状を徳島地検に提出した。予備的に強要容疑の告訴内容も含めている。」(2017/3/16産経)      
  •    
  •  「この夏、「阿波おどり」に中止の危機 徳島の地元財界は大騒ぎ!」(2017/6/3現代ビジネス〔週刊現代サイト〕)    
  •    
  •  「徳島市の阿波踊り(8月12~15日)で演舞場の設営工事や入場券販売に関する事務が実行委の定める要領に従わずに行われているとして、徳島市の岡孝治市議が事務処理の停止を求めていた仮処分命令の申し立てについて、徳島地裁が25日までに「(停止する)理由がない」と却下する決定を出したことがわかった。徳島地裁はこの日までに、阿波踊りを主催する市観光協会徳島新聞社などの関係者に決定を送達した。」(2017/7/26毎日)      
  •    
  •  「徳島市の阿波踊りで長年続いている累積赤字解消に向け、市は21日、主催者の市観光協会へ地方自治法に基づく調査に入った。市職員や弁護士、公認会計士らが22日まで、徳島市の阿波おどり会館内にある協会事務局から資料の提供を受け、収支の疑問点がないか調べる。」(2017/11/22毎日)      
  •    
  •  「公益社団法人徳島市観光協会(近藤宏章会長)は1日、現在協会が担っている阿波おどり会館(徳島市)などを運営する次期指定管理候補者に、徳島新聞社などが選定されたことが協会に損害を与えるとして、同社社長ら2人を特別背任の疑いで徳島地検に告訴した。」(2017/12/2毎日)      
  •    
  •  「市から委託を受け、協会の累積赤字について調べていた調査団は5日に市に提出した報告書で、協会内部で赤字解消策が議論された形跡がほとんどないことなどを指摘。協会が阿波踊り事業を続けることが「極めて困難」などとした。」(2018/2/8徳島新聞)    
  •    
  •  「徳島市の阿波踊りに多額の累積赤字が発生している問題で、市は9日、主催者の一つの市観光協会に対し、清算手続きに入るよう求める通知を出した。市は本年度、協会が金融機関から借り入れた4億3600万円の損失補償をしており、年度内に協会が返済できなくなれば市が負担しなければならない恐れがある。このため、保有する財産が減る前にできる限り返済に充ててもらうとしている。」(2018/2/9徳島新聞)

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 こう見てくると、何がどうなっているのか、外部からはさっぱりわかりません。上にもあるように、徳島市は外部の弁護士、公認会計士、学者4名による「阿波おどり事業特別会計の累積赤字の解消策等に関する調査団」に調査をさせており、その調査報告書が今年2月5日付けで出されています。簡単に言うと、徳島市観光協会が多額の累積赤字を解消しつつ、阿波おどり事業を継続していくことは困難であることを指摘していますね。

 → 「阿波おどり事業特別会計の累積赤字の解消策等に関する調査報告書について」 (徳島市サイト)

2018年2月20日 (火)

芸能界の契約実態についてのヒアリング・アンケート結果(公取委)

 前回取り上げました「「人材と競争政策に関する検討会」(公取委)報告書の公表」ですが、この検討会の基礎資料とするために公正取引委員会事務局が、フリーランス、スポーツ、芸能といった各業界の事業者団体、事業者、個人、有識者など幅広くヒアリングを行い(合計91者)、また、フリーランス、スポーツ選手、芸能人などを対象に、webサイト上でアンケートを実施し、549件の回答を得ています。

 この結果については、「人材獲得競争に係る実態ヒアリング及びフリーランス等に関するウェブアンケートの結果」としてまとめられており、公正取引委員会競争政策研究センター(CPRC)の検討会ページに公表されています(「人材と競争政策に関する検討会」の「報告書」欄の「・別紙3(事務局ヒアリング及びアンケート結果)」からPDFファイルがリンクされています。

 今回は、この調査結果の中から、芸能人に関するところを抜粋してご紹介したいと思います。スポーツ選手関係は、またまとめたいと思います。

 なお、これらの事項は、公正取引委員会が違法とか違法のおそれを認定したということではありません。ただ、調査結果のとりまとめで、これらの事項を掲げているということは、少なくとも違法のおそれがあるかもしれない、ということで抽出されていることは推測できると思います。
 そして、この調査結果などを踏まえて、前回ご紹介の報告書ができていますので、公正取引委員会が今後どういう形で、関与していくか、について期待したいところです。

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 すぐにどうこうはないかもしれませんが、公正取引委員会から事情聴取もされた音楽芸能プロダクションの事業者団体である日本音楽事業者協会(音事協)が、芸能プロダクションと芸能人との契約のひな型の変更を行うとの報道もなされています。

 ヒアリングやwebアンケートで寄せられた芸能関係の意見は以下のとおり。

  •  多額の報酬を示唆することに基づく芸能人の引き抜きは行わない旨の共通認識があり、実際、芸能事務所間の芸能人の引き抜きは盛んではない。

  •  業界団体において、製作者が、出演交渉の相手方を固定化して、製作者が交渉相手を頻繁に変えなくてはならない事態にならないようにするため、芸能事務所が他の芸能事務所に対して引き抜きを行わないよう指導している(ただし、芸能人が自らの意思で移籍をすることは禁止していない。)。

  •  契約満了時に芸能人が契約更新を拒否する場合でも、芸能事務所のみの判断により、契約を一度更新できることが契約上規定されており、また、芸能事務所の判断で当該規定が実施される場合がある。

  •  楽器や移動車等の多くの経費が必要な芸能人や、アイドルのようにスカウト~育成~宣伝費等,発掘から売れるようになるまで経費が莫大にかかる芸能人については、多大なコストがかかることから、芸能事務所は、その投資回収が済むまでの間、所属芸能人の移籍を認めないことがある。また、デビュー前の所属芸能人との間で、退所から一定期間は他の芸能事務所に所属できない旨を盛り込んだ契約を締結することがある。

  •  ある芸能事務所は、契約を更新しない意思表示をした芸能人に対し、これを翻意させるため、契約期間中であるにもかかわらず、報酬の支払を遅延したり、当該芸能人の業務を受託しない場合がある。

  •  ある芸能事務所は、契約期間満了に伴い芸能事務所を移籍しようとした芸能人が移籍できないようにするため、当該芸能人が移籍しようとした芸能事務所に対し圧力をかける、芸名を使用させない、芸能人としてのブランドイメージを損なわせる虚偽情報を流布する等により移籍を妨害している。

  •  ある芸能事務所は、所属芸能人に対する移籍への萎縮効果を目的として、業務委託契約に伴い離籍した芸能人に関する悪評を流布し、当該芸能人と製作者等との間の契約成立を妨害した。

  •  ある芸能事務所は、契約期間中にある芸能人と契約期間延長交渉時に、実績を踏まえ報酬額アップを交渉されても、育成投資コストの回収が終わっていないことを理由に協議に充分応じなかった。

  •  芸能人は、通常、芸能活動を行うに当たり、芸能事務所との間で「芸能人は専属芸術家業務を行うこと」及び「芸能事務所はプロダクション業務を行うこと」を内容とする契約を締結している。芸能事務所の事業者団体は、契約書の雛形を作成し、加盟する芸能事務所に対して、当該契約書の使用を推奨している。契約書の雛型には、契約満了時に芸能人が契約更新を拒否する場合でも、芸能事務所のみの判断により、契約を一度更新できることが規定されている。

  •  芸能事務所の提示する条件に応じず移籍を求めた場合には、芸能事務所とトラブルを生じたといったネガティブな印象が業界に広がり(場合によっては、芸能事務所がそのような情報を流布し)、テレビ局などが仕事を発注しなくなり、芸能活動が困難となるため、提示された条件で契約せざるを得ない。

  •  日本では、素人の新人を芸能人として育成するために、人材育成投資費用(レッスン代、オーディション代、衣食住等に係る費用)を芸能事務所が負担していることがあり、また、投資・育成期間は長期間になることがある。かかる費用の回収を図るために、芸能事務所が芸能人の移籍や独立を容易には認めない場合がある。

  •  芸能事務所の中には、芸能人の育成投資費用について、芸能人個々人ではなく、所属芸能人全体で計算していることがあり、いわゆる「売れっ子」の芸能人の売上げを、まだ育成期間中にある他の所属芸能人の費用や、売れていない・売れなかった所属芸能人に対する投資の回収に充てている。

  •  (取引条件等についてやむを得ず同意したのは)伝統的な慣習が大半のため。

  •  キャンセルになった仕事の分を自分で新しく探さねばならず、ひと月強ほど、収入が減少した。

  •  言われたことに納得がいかず、反発したり断ったりすると「仕事なくなるよ」等の脅迫的言辞を幾度となく言われたことがある。実際そうなると思ったし、業界丸ごとそうなっているのは事実であるから仕方なく従わざるを得ない。

  •  契約書などの書面を作成すると言っておきながら、それを数ヶ月にわたって放置される。また、書面が存在しないため、実質の責任が相手に発生しない。

  •  芸能人は、通常、芸能活動を行うに当たり、芸能事務所との間で「芸能人は専属芸術家業務を行うこと」及び「芸能事務所はプロダクション業務を行うこと」を内容とする契約を締結している。芸能事務所の事業者団体は、契約書の雛形を作成し、加盟する芸能事務所に対して、当該契約書の使用を推奨している。契約書の雛型には、契約満了時に芸能人が契約更新を拒否する場合でも、芸能事務所のみの判断により、契約を一度更新できることが規定されている。

  •  芸能事務所の提示する条件に応じず移籍を求めた場合には、芸能事務所とトラブルを生じたといったネガティブな印象が業界に広がり(場合によっては、芸能事務所がそのような情報を流布し)、テレビ局などが仕事を発注しなくなり、芸能活動が困難となるため、提示された条件で契約せざるを得ない。

  •  日本では、素人の新人を芸能人として育成するために、人材育成投資費用(レッスン代,オーディション代、衣食住等に係る費用)を芸能事務所が負担していることがあり、また、投資・育成期間は長期間になることがある。かかる費用の回収を図るために、芸能事務所が芸能人の移籍や独立を容易には認めない場合がある。

  •  芸能事務所の中には、芸能人の育成投資費用について、芸能人個々人ではなく、所属芸能人全体で計算していることがあり、いわゆる「売れっ子」の芸能人の売上げを、まだ育成期間中にある他の所属芸能人の費用や、売れていない・売れなかった所属芸能人に対する投資の回収に充てている。

  •  (取引条件等についてやむを得ず同意したのは)伝統的な慣習が大半のため。

  •  キャンセルになった仕事の分を自分で新しく探さねばならず、ひと月強ほど、収入が減少した。

  •  言われたことに納得がいかず、反発したり断ったりすると「仕事なくなるよ」等の脅迫的言辞を幾度となく言われたことがある。実際そうなると思ったし、業界丸ごとそうなっているのは事実であるから仕方なく従わざるを得ない。

2018年2月15日 (木)

「人材と競争政策に関する検討会」(公取委)報告書の公表

 注目されていた公正取引委員会「人材と競争政策に関する検討会」の報告書が本日公表されました。

 → 「人材と競争政策に関する検討会」報告書について (公正取引委員会サイト)

 報告書は本文が47頁となっており、上のリンク先からPDFファイルにリンクしています。   

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           (「報告書概要」 公取委サイトより)

 まだ、公表されたばかりで、読み込めてませんが、ひとまず一部を抜粋しておきます。

 まず、労働法と独占禁止法との関係については、

「・・・・1947年の独占禁止法立法時には,「人が自分の勤労を提供することは,事業ではない」として,労働者の労働は独占禁止法2条1項の「事業」に含まれないとの解釈がなされ,公正取引委員会は,これらを踏まえて独占禁止法を運用してきた。
 しかし,前記第1の1〔1~5頁〕のとおり,就労形態が多様化する中で,独占禁止法上も労働法上も解決すべき法的問題が生じてきている。さらに,近年,労働契約以外の契約形態によって役務提供を行っている者であっても,労働組合法上の「労働者」に当たると判断される事例も生じている。このように労働契約を結んでいなくとも「労働者」と判断される者が,独占禁止法上の事業者にも当たることも考えられる。
 以上のことを踏まえると,労働者は当然に独占禁止法上の事業者には当たらないと考えることは適切ではなく,今後は,問題となる行為が同法上の事業者により行われたものであるのかどうかを個々に検討する必要がある。同様に,独占禁止法上の「取引」についても,その該当の有無を,取引の類型ごとに一律に整理するのではなく,独占禁止法上禁止されている行為(後記第5〔15~22頁〕又は第6〔22~44頁〕の行為)に該当する行為が行われていると認められる場合に,その行為のなされている取引が独占禁止法上の「取引」に該当するかどうかを個々に検討することが適切である。そして,労働法と独占禁止法の双方の適用が考えられる場合,それらの適用関係について検討する必要がある。
 そもそも独占禁止法立法時に前記のとおり労働者の労働は「事業」に含まれないとの解釈が採られたのは,使用者に対して弱い立場にある労働者保護のため,憲法の規定に基づき労働組合法,労働基準法を始めとする各種の労働法制が制定されたことを踏まえたものであった。この意義自体は現在も変わらないことからすれば,独占禁止法立法時に「労働者」として主に想定されていたと考えられる伝統的な労働者,典型的には「労働基準法上の労働者」は,独占禁止法上の事業者には当たらず,そのような労働者による行為は現在においても独占禁止法の問題とはならないと考えられる。加えて,労働法制により規律されている分野については,行為主体が使用者であるか労働者・労働者団体であるかにかかわらず,原則として,独占禁止法上の問題とはならないと解することが適当と考えられる。例えば,労働組合と使用者の間の集団的労働関係における労働組合法に基づく労働組合の行為がこのような場合に当たる。使用者の行為についても同様であり,労働組合法に基づく労働組合の行為に対する同法に基づく集団的労働関係法上の使用者の行為も,原則として独占禁止法上の問題とはならないと解される。また,労働基準法,労働契約法等により規律される労働者と使用者の間の個別的労働関係における労働者(下記囲み部分参照)に対する使用者の行為(就業規則の作成を含む。)も同様である。ただし,これらの制度の趣旨を逸脱する場合等の例外的な場合には,独占禁止法の適用が考えられる。」

 そして、スポーツ選手や芸能人の契約に関する独占禁止法の適用に関しては、以下のような記載がありました。                              

「例えば,スポーツ分野においては,複数のクラブチームが共同することで初めてプロリーグという一つの事業が成立する場合があるが,そのとき,複数のクラブチームが共同して選手の移籍を制限する行為はプロリーグの魅力を高めることを通じて消費者に対して提供するサービスの水準を維持・向上させる目的から行われているとの主張がある。
 これは,人材獲得市場における競争は阻害されるものの商品・サービス市場における競争は促進され,またこれを通じて人材獲得市場における競争も促進されるという主張と考えられる。そのような移籍制限行為が当該目的の実現に不可欠であるのか,商品・サービス市場での競争促進効果(消費者利益の向上等)の程度や,それが人材獲得市場での競争阻害効果を上回るものであるか,といった点も含めて総合的に考慮した上で判断されることになる。また,目的に比べてその手段が相当か,同様の目的を達成する手段としてより競争制限的でない他の手段は存在しないのかといった内容,手段の相当性の有無も考慮の上で判断される。」          

「例えば,芸能事務所やクラブチームが特定の者と一定期間の専属契約を締結し,その者の市場における価値の創造・拡大に資する(例えば,新人芸能人や新人選手の育成)とともに,その芸能人や選手の肖像等を芸能事務所等や本人以外の第三者が利用する取引の円滑化を図る場合があるが(後記脚注86参照),そのような事情の有無も含めて考慮した上で判断される。育成費用の回収を目的とする場合の具体的な考え方は,前記第5の3〔17~20頁〕の育成費用を回収する目的である場合と同じである。
 一方,契約期間が終了しても,既存の提供先である発注者の一方的な判断により専属義務を含む役務提供に係る契約を再度締結して役務提供を継続させる行為が,芸能事務所と芸能人の間の契約において行われる場合がある。芸能事務所と芸能人の間の契約が一度終了した後も,芸能事務所と第三者の間の当該芸能人についての契約が継続していることを理由に行われる場合,その必要性の有無も含めて考慮した上で判断される。」

「役務提供者が今後事実上移籍・転職ができなくなるほどの程度である場合,その不利益の程度は相当大きい。
 また,契約期間終了後は再契約をしないとの意向を示した役務提供者に対して,それを翻意させるために,発注者が役務提供者に対して,報酬の支払遅延や業務量の抑制などの不利益な取扱いをしたり,悪評の流布等により取引先変更を妨害し再度契約を締結させたりするといった行為についても,不利益の程度がより大きくなる場合がある。」

2017年7月13日 (木)

芸能プロ契約問題と「人材と競争政策に関する検討会」(公取委)

 先日、NHKの報道に関して、 「芸能プロダクションと芸能人との契約について公取委が調査との報道」 (2017/7/ 8)を書きましたが、今日は朝日新聞が関連記事を報じています。

 これは、芸能タレントやスポーツ選手、コンピュータープログラマーなど、特殊な技能を持つ人と企業などとの契約について、公正取引委員会が有識者会議を来月から開催し、早ければ今年度中に報告書を公表する、としているものです。

 おそらく、公正取引委員会競争政策研究センター(CPRC)が昨日(7/12)公表した 「「人材と競争政策に関する検討会」の開催について」「人材と競争政策に関する検討会」のことかと思われます。

 公表内容では、特に、芸能、スポーツなどに絞ってはいませんが、アメリカや欧州でのスポーツ選手の移籍問題や、昭和38年の我が国の映画会社の事案などに触れており、オブザーバーにスポーツ庁も入っていますので、芸能、スポーツ関係も視野に入れていることは間違いないようです。

 検討会のメンバーは以下の通りです。

   荒木 尚志 東京大学大学院法学政治学研究科教授
   大橋 弘
    東京大学大学院経済学研究科教授
              (
競争政策研究センター主任研究官)
   風神 佐知子
 中京大学経済学部准教授
   川井 圭司
 同志社大学政策学部教授
   神林 龍
   一橋大学経済研究所教授
座長 泉水 文雄
 神戸大学大学院法学研究科教授
   高橋 俊介
 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授
   多田 敏明
 日比谷総合法律事務所 弁護士
   土田 和博
 早稲田大学法学学術院教授
   中窪 裕也
 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
   中村 天江
      リクルートワークス研究所労働政策センター長
   和久井 理子
 大阪市立大学大学院法学研究科特任教授
              (
競争政策研究センター主任研究官)

(オブザーバー)
文部科学省(スポーツ庁) 厚生労働省 経済産業省
             [五十音順,敬称略,役職は平成29年7月12日現在]

 いつもいろいろとお世話になってます神戸大学の泉水文雄教授が座長となっておられますね。今後の検討状況を注目したいです。

【追記】(7/18)

 「人材と競争政策に関する検討会」について、公取委事務総長定例会見でも触れられていたようですので、追記しておきます。
 → 事務総長会見記録(平成29年7月12日) 

続きを読む "芸能プロ契約問題と「人材と競争政策に関する検討会」(公取委)" »

2017年1月26日 (木)

ひとまず、「PPAP」商標登録出願騒動について

 ベストライセンス社、上田育弘氏は、商標権まわりの仕事に関係している人には、以前から大変な有名どころであったわけですが、突然、ピコ太郎の「PPAP」関連で、新聞やテレビが取り上げはじめ、大騒ぎになっていてビックリしています。
 今、人気の「PPAP」だから、というのも当然あるのでしょうが、やはり、ネット炎上の拡大の速さに今さらながら感じ入るしかないというところです。

 この件について、詳しく解説する時間はとてもありませんが、テレビなどでの報道、それを見ての一般の方々のTwitterなどでの投稿を見ていると、誤解されている部分がいくつか見られますので、そこだけ簡単に指摘して、今回の記事とさせていただきます。

  1.  上田氏は、元「弁理士」で、元弁護士でも元税理士でもありません。
     「弁理士」は特許など知的財産権の登録の出願、管理などを仕事とするための国家資格を持っている人です。
  2.    
  3.  今回の「PPAP」については、ベストライセンス社が「商標登録をした」、「商標権をとった」ということではなく、商標権の登録のための「出願」をしただけで、特許庁が登録を認めたわけではありません。登録を願い出た段階にすぎません。
  4.  これまでの同様の出願からみて、おそらく出願料は特許庁に支払われていないと思います。これを支払わないと、そもそも特許庁は登録の可否についての審査を始めません。      
  5.    
  6.  今回の出願で、出願料を払っても、特許庁は登録を認めない可能性がかなり高いと言えます。      
  7.    
  8.  仮に、認められて、ベストライセンス社が商標権を得たとしても、ピコ太郎が「PPAP」を歌えなくなる(こういう見出しの記事をいくつか見ましたが)、ということはありません。

                  以上です。

【追記】(1/27)
 弁理士さんの詳しい解説記事がありましたので、ご紹介します。上の記事だけでは、根拠がわからない、という方はお読みください。かなり長いです。私が「詳しく解説する時間はとてもありませんが」と冒頭にかいたのがお分かりいただけるかと (笑)

  → 「PPAPの商標が他人に商標登録出願された問題の解説」

               (ファーイースト国際特許事務所サイト)

【追記】(1/27)

 待望してました栗原潔先生の解説が出ました。
 ぜひご覧ください。

 → 「PPAP等の大量勝手商標出願問題について整理してみる」

2016年3月 8日 (火)

TPP関連法案の国会提出と著作権侵害罪の非親告罪化の対象

 本日、「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案」いわゆるTPP関連法案が閣議決定され、国会に提出されました。これには、農林水産品の輸入に関する法律や独占禁止法、特許法、著作権法などの改正が含まれています。

 この法律案や概要等の資料については、内閣官房のサイトに公表されています。

  → 内閣官房サイト第190回国会提出法案

 この内、著作権法に関しては、保護期間の延長などが内容となっているのですが、著作権法違反罪について、従前は親告罪(被害者=著作権者の告訴がないと起訴できない。)となっていたのを非親告罪化する改正も含まれています。ただし、漫画同人誌などでの二次創作、パロディまでが、告訴なしに捜査当局に立件されることに対しては強い反対があったため、非親告罪化する行為の対象を限定しています。

 なお、この非親告罪化問題については、当ブログでも過去に書いています。

 → TPPによる著作権非親告罪化と二次創作(2015/11/5)

親告罪規定である著作権法第123条についての今回の改正法案を見ると、従前の第1項(親告罪規定)の後に、第2項、第3項を加えて(現在の第2項は新第4項に移る。)、新第2項の一号、二号に記載された有償著作物等(新第3項に定義)に関する行為に限り、親告罪規定(第123条1項)を適用しない(非親告罪化)とする形になっています。新第2項、新第3項については、後に貼り付けておきます。

 内閣官房サイトの概要の図表は次のようになっています。

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 つまり、非親告罪となるのは、「有償著作物等」が対象とされ、それは有償で著作権法上適法に公衆に提供されたり提示されたりしているものです(新第3項)。

 そして、当該行為が「対価として利益を受ける目的」又は「著作権者等の利益を害する目的」で行われる場合で、しかも、「有償著作物等」を原作のまま複製された複製物を公衆に譲渡したりや原作のままネット送信したりする行為(新第2項第2号)と、そのために複製する行為(新第2項第3号)のみが対象で、かつ、諸般の事情に照らして著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限定されています。

 したがって、コミケなどで売られているパロディや二次創作、個人的な少部数の販売などは原則として除かれることとなります。したがって、非親告罪の対象となる行為は、海賊版の販売で利益を得る場合などが典型的なものになります。

 ただし、もちろん、親告罪のままでも、従前通り、著作権法上、違法な行為であることには間違いなく、権利者らから告訴されたり、民事上の損害賠償等の請求がなされるリスクはありますので、その点はご注意ください。


(改正法案における著作権法第123条・・・第1項、第4項は略)

2 前項の規定は、次に掲げる行為の対価として次の各号のいずれかに掲げる行為を行うことにより犯した第119条第1項の罪については、適用しない。

一 有償著作物等について、原作のまま複製された複製物を公衆に譲渡し、又は原作のまま公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。次号において同じ。)を行うこと(当該有償著作物等の種類及び用途、当該譲渡の部数、当該譲渡又は公衆送信の態様その他の事情に照らして、当該有償著作物等の提供又は提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限る。)。

二 有償著作物等について、原作のまま複製された複製物を公衆に譲渡し、又は原作のまま公衆送信を行うために、当該有償著作物等を複製すること(当該有償著作物等の種類及び用途、当該複製の部数及び態様その他の事情に照らして、当該有償著作物等の提供又は提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限る。)。

3 前項に規定する有償著作物等とは、著作物又は実演等(著作権、出版権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権、出版権又は著作隣接権を侵害するもの(国外で行われた提供又は提示にあつては、国内で行われたとしたならばこれらの権利の侵害となるべきもの)を除く。)をいう。

2016年2月15日 (月)

「エロスと『わいせつ』のあいだ 表現と規制の戦後攻防史」(園田寿・臺宏士 著・朝日新書)

甲南大法科大学院の園田寿教授とフリージャーナリストの臺宏士さんの共著による新書が出ましたので早速買ってきて読みました。 

    エロスと「わいせつ」のあいだ 表現と規制の戦後攻防史 (朝日新書) 

  Amazonサイト〔タイトルの関係上、本屋で買うのが恥ずかしい人用です(笑)〕

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  写真の本の帯を見ていただいたら、本の内容はおわかりいただけるかと思いますが、古くて新しい問題の「わいせつ」について、ジャーナリストと刑法学者の目から見た最新の議論が詰まっています。 

 最近の「春画展」(今ちょうど京都・細見美術館で開催されていますね。)の問題および東京地裁の一審判決待ちのろくでなしこさんの女性器作品刑事裁判の問題など、最近の「わいせつ」問題を詳しく紹介するとともに、私が学生時代に勉強していたようなチャタレイ裁判悪徳の栄え裁判四畳半襖の下張裁判といった過去の代表的な「わいせつ」の議論を踏まえて、新しい時代の「わいせつ」を児童ポルノサイバーポルノなどを題材にして展望しています。

  内容的には大変真面目な本ですので、男女問わず、法律を勉強している人から一般の方まで広く読んでいただきたい本ですね。「わいせつ」というのは法律上どのように考えられているのか、ということに興味ある方は是非。 

 今年5月9日に予定されている東京地裁での、ろくでなし子さんの判決が待たれます。

【追記】(2/28)

 毎日新聞の書評にもとりあげられましたね。

2015年11月 5日 (木)

TPPによる著作権非親告罪化と二次創作

 昨日、ITmediaニュースが次のような記事を掲載しています。 

2次創作は非親告罪化の対象外に 文化審議会の小委員会、方向性まとまる 

 現在の日本の著作権法では、著作権侵害の刑事罰のほとんどは親告罪、つまり、著作権侵害行為があっても、著作権者が告訴を行わなければ、公訴を提起することができず、刑事責任を問うことはできません(著作権法123条参照)。 
 二次創作(二次的著作物)の場合も、同一性保持権、翻案権、複製権の侵害として刑罰の対象になる可能性がありますが、いずれも親告罪です。

 これについて、アメリカが海賊版(違法コピー)の規制強化のため、告訴を不要とする「非親告罪」化をTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)において要求していたとされています。 

 この非親告罪化ということになると、これまでいわゆるコミケなどで販売される同人誌等で漫画などを二次創作していた作者たちが、著作権者の告訴がなくても捜査の対象になるのではないかとの危惧があり、それでは、日本の漫画文化を支えてきた活動が萎縮するのではないか、という懸念が出されていました。 

 今回合意されたTPPの協定内容のうち、著作権関連は下に貼り付けておきました(政府資料より[PDF])。   
 このうち、非親告罪化については、故意による商業的規模の著作物の違法な複製等を非親告罪とする。ただし、市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合はこの限りではない。」とされており、全ての著作物について非親告罪化を求めるものではないことになっています。   
 そして、上記の記事では、今後の著作権法改正作業では、二次創作については、非親告罪化から外す方向で議論されることとなったようです。   
 今後は具体的にどういったものを非親告罪化から外すように規定するのかが議論になろうかと思います。 

 一般的に多くの刑罰は非親告罪ですが、実際問題、非親告罪であっても、殺人罪であるとかよほど社会的に許容できないような悪質性の高いものは除いて個人法益に対する犯罪の場合は、被害者が刑事処罰を望まない限り、捜査機関が捜査を開始することはあまりないと思います。   
 ただ、著作権者自身が黙認しているような場合でも、捜査されるかもしれないという危惧は二次創作者に対しての萎縮効果としては大きいかもしれませんね。

  [TPP概要(抜粋)]

〇著作権 

著作権に関しては次のルール等が規定されている。 

・著作物(映画を含む)、実演又はレコードの保護期間を以下の通りとする。 

①自然人の生存期間に基づき計算される場合には、著作者の生存期間及び著作者の死から少なくとも70年 

②自然人の生存期間に基づき計算されない場合には、次のいずれかの期間 

(i)当該著作物、実演又はレコードの権利者の許諾を得た最初の公表の年の終わりから少なくとも70年 

(ii)当該著作物、実演又はレコードの創作から一定期間内に権利者の許諾を得た公表が行われない場合には、当該著作物、実演又はレコードの創作の年の終わりから少なくとも70年 

・故意による商業的規模の著作物の違法な複製等を非親告罪とする。ただし、市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合はこの限りではない。 

・著作権等の侵害について、法定損害賠償制度又は追加的損害賠償制度を設ける。

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