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2019年10月 9日 (水)

限定承認の場合の相続財産管理人の当事者適格

 本日、消費者庁が、整体サロン「カラダファクトリー」を展開する「ファクトリージャパングループ」(東京都千代田区)の整体サービスの割引に関する宣伝が景品表示法違反の不当表示(有利誤認)に当たるとして、同社に措置命令を出しました。初回利用者などに対する割引につき「期間限定」をうたっていたが、期間が過ぎた後も値引きを続けた、というものです。

消費者庁公表資料


 さて、先日受けた相談なのですが、

 相談者には、とある貸付金債権があったが、その債務者が死亡した。債務者にはあまり資産がないためか、法定相続人全員が「限定承認」の手続を家庭裁判所にした。そのため、法定相続人の1人が相続財産管理人に就任した。その債権の回収はなかなか進まないのだが、時効消滅になりそうなので、時効の中断のために、貸金請求訴訟を行いたい。ついては、被告は、法定相続人全員なのか、あるいは、相続財産管理人1人を被告にすればいいのか、という内容でした。

 → 「相続の限定承認」(裁判所サイト)

「限定承認」というのは、それほど多く利用されているわけではなく、民法上も手続が整備されているとはいえないため、実際にはなかなか解釈が難しいことがありますね。

 上の相談に対しては、私の直感的には、相続人全員を被告にする(なお、金銭債権の相続なので、分割債権になります。)ことになると思うけれども、限定承認ではなく相続人不存在の場合であれば、相続財産管理人が被告となるのだから、同様、という考え方もあり得ると思うので、調べますね、ということで、調べました。

 そうすると、今回の相談とは反対の事案、つまり、貸付金の債権者が死亡して、相続人が限定承認をして、債務者に請求訴訟を提起した、という場合の最高裁判決が見つかりました。

 最高裁昭和47年11月9日第一小法廷判決(判タ286-219)ですが、この訴訟は、相続財産管理人が原告本人となって、債務者を被告として訴訟を提起しています。

 原審の仙台高裁秋田支部は、このような場合でも、相続財産に関する権利義務の主体となるのは、共同相続人全員であって、相続財産管理人は一種の法定代理人としての地位に立つ、したがって、共同相続人全員が原告となり、相続財産管理人がその法定代理人として訴訟追行にあたるべきであったが、この訴訟は、相続財産管理人自身が原告となって提起したのだから、当事者適格を欠き不適法であるとして一審の請求認容判決をくつがえして、訴えを却下しました。なお、当事者適格訴訟要件のひとつですが、訴訟要件を欠く場合には、請求の棄却ではなく、訴えの却下、となります。

 そして、この判決に対する上告審である最高裁も原審判決を支持し、相続財産管理人は相続人全員の法定代理人の地位を有するに過ぎず、当事者適格は有しない、として、相続財産管理人(原告、上告人)の上告を棄却しました。

 そうしますと、最初の相談の事案は、当事者が反対とはいえ、理屈は同じことになりますので、債権者は、相続人全員を被告として請求訴訟を提起することになりますが、相続財産管理人がいますので、相続財産管理人を相続人全員の法定代理人として訴訟を提起することになります。なので、訴状の送達など、訴訟の手続自体は相続財産管理人だけを相手にすればよいことになります。

 ということで、私としては、無事に相談に回答できたわけですが、この最高裁判決の事案はおそらく弁護士であれば、違和感があると思います。「なんで、こんなことになったの?」という感じです。相続財産管理人には弁護士が代理人としてついていたようです。

 調べてみると、この一審の地裁では、被告(債務者)は期日に出頭せず答弁書等も提出しなかったため、いわゆる欠席判決として、原告の請求が全て認められる判決が出ているのです。おそらく、被告はそういうことを知らずに放置していたのかもしれません。敗訴判決が送られてきて、びっくりして、今度は弁護士に依頼して、控訴をしたものと想像します。しかし、高裁判決を見る限り、被告の訴訟代理人は、原判決を取り消して請求の棄却の判決を求め、債務について、弁済、代物弁済、免除などがあり、既に債務はなくなっている、という主張をしているようで、当事者適格を欠くので却下、という訴訟要件についての主張はしなかったように読めます。

 民事訴訟では、当事者主義の一場面として、当事者が主張しなかった請求原因を裁判所が勝手に採用して判断することはできません。しかし、訴訟要件に関しては、職権調査事項とされ、当事者の主張がなくても、裁判所が調査し判断することとなっているのです。なので、高裁は、自身で、当事者適格を判断したということになります。

 ただ、理屈はそうなんですが、実際の裁判手続を考えると、おそらく、高裁はどこかの時点で、相続財産管理人当事者適格について気づいて、原告、被告双方にその点の問題を伝えていると思います。そして、双方が当事者適格の有無について、主張を追加して、という流れだと思います。当然ながら、その時点では、この最高裁判決は出ていないのですから、両方の考え方があり得ることになります。いずれにしろ、債権者の代理人弁護士は、一審で簡単に勝っていただけに、この流れは大変だったろうな、と同業者として思います。この事案では実際どうだったのかは、わかりませんが、私の相談のように、時効中断も目的とする訴訟であれば、この訴訟が訴えの却下で終われば、時効が中断しなかったことになり、もし時効期間が経過してしまっていれば、債権は時効消滅してしまったことになるので大変です。かといって、当事者適格の有無についての判断がまだ明確ではない時点で、債権者の代理人としては、どうすれば良かったのか、ということを考えると、結構難しいですね。法律家であれば、「主観的予備的併合」という言葉が浮かびそうです。もっとも、現在では「同時審判申出」制度ができましたので、これを使うことになるのでしょうね(問題点に気づいていれば、の話ですが)。

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