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2017年9月19日 (火)

SNSアカウントなりすまし行為に対する損害賠償訴訟判決(大阪地裁)

 裁判所webサイトの裁判例情報に出ていた判決に「インターネット上の掲示板において,他人の顔写真やアカウント名を利用して他人になりすまし,第三者に対する中傷等を行ったことについて,名誉権及び肖像権の侵害が認められた事例」(平成29年8月30日判決 大阪地裁平成29年(ワ)第1649号 損害賠償請求事件)というのがありました。

 → 裁判所webサイトの判決本文(PDF)はこちらから

 事案を簡単に紹介しますと、あるSNSサービスにおいて、被告が、原告と同じアカウント名を設定したうえ、プロフィール画像に原告の顔写真を使用して、なりすまし行為を行ったうえで、他者に対する誹謗中傷、差別表現の投稿を多数行ったというもので、これに対して、原告が、名誉権,プライバシー権,肖像権及びアイデンティティ権を侵害されたとして,被告に対し,不法行為に基づき,慰謝料,発信者情報開示費用及び弁護士費用の合計である損害賠償金723万6000円及び遅延損害金の請求を行った、という訴訟です。請求金額の内訳は、慰謝料600万円、発信者情報開示費用(開示手続の弁護士費用)58万6千円、本件訴訟弁護士費用65万円となっています。

 結論から言うと、大阪地裁は、被告に対して、損害賠償として130万6千円(慰謝料60万円、発信者情報開示費用58万6千円、弁護士費用12万円)と遅延損害金の支払を命じています。

 裁判所の判断の詳細は、上記リンク先から判決本文を見ていただきたいのですが、原告が本件の請求の根拠としている名誉権、プライバシー権、肖像権、アイデンティティ権についての判断を見ますと、まず、「第三者に対し、原告が他者を根拠なく侮辱や罵倒して本件掲示板の場を乱す人間であるかのような誤解を与えるものであるといえる」として、名誉権の侵害は肯定されています。

 次にプライバシー権ですが、原告の主張はプロフィール画像を原告の顔写真にして公開したことがプライバシー権侵害であるというものであるところ、この顔写真は原告によって自らのプロフィール画像として公開されていたものであるから、「原告の顔写真は、原告によって第三者がアクセス可能な公的領域に置かれていたと認めるのが相当であり、他人に知られたくない私生活上の事実や情報に該当するということはできない。」として、プライバシー権によって保護するものではない、と否定されました。

 肖像権については、最高裁判例を引用して、「他人の肖像の使用が違法となるかどうかは、使用の目的、被侵害利益の程度や侵害行為の態様等を総合考慮して、その侵害が社会生活上受忍の限度を超えるかどうかを判断して決すべきである」としたうえで、「被告は、原告の顔写真を本件アカウントのプロフィール画像として使用し、原告の社会的評価を低下させるような投稿を行ったことが認められ、被告による原告の肖像の使用について、その目的に正当性を認めることはできない」「(投稿内容は)原告を侮辱し,原告の肖像権に結びつけられた利益のうち名誉感情に関する利益を侵害したと認めるのが相当である。」として、権利侵害を認めています。

 最後にアイデンティティ権ですが、原告の主張は、憲法13条後段の幸福追求権又は人格権から、他者との関係において人格的同一性を保持する利益であるアイデンティティ権が存在するとして、本件のなりすまし投稿行為は原告のアイデンティティ権を侵害したというものです。   
 今回の大阪地裁判決では、「個人が,自己同一性を保持することは人格的生存の前提となる行為であり,社会生活の中で自己実現を図ることも人格的生存の重要な要素であるから,他者との関係における人格的同一性を保持することも,人格的生存に不可欠というべきである。したがって,他者から見た人格の同一性に関する利益も不法行為法上保護される人格的な利益になり得ると解される。」として、人格の同一性に関する利益も考えられるとしたうえで、   
「他者から見た人格の同一性に関する利益の内容、外縁は必ずしも明確ではなく、氏名や肖像を冒用されない権利・利益とは異なり、その性質上不法行為法上の利益として十分に強固なものとはいえないから、他者から見た人格の同一性が偽られたからといって直ちに不法行為が成立すると解すべきではなく、なりすましの意図・動機、なりすましの方法・態様、なりすまされた者がなりすましによって受ける不利益の有無・程度等を総合考慮して、その人格の同一性に関する利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものかどうかを判断して、当該行為が違法性を有するか否かを決すべきである。」としました。   
 そして、本件では、なりすましが正当な意図,動機によるものとは認められないけれども、「なりすましの方法,態様についてみると、本件サイトの利用者は、アカウント名・プロフィール画像を自由に変更することができることからすると、社会一般に通用し、通常は身分変動のない限り変更されることなく生涯個人を特定・識別し、個人の人格を象徴する氏名の場合とは異なり、利用者とアカウント名・プロフィール画像との結び付きないしアカウント名・プロフィール画像が具体的な利用者を象徴する度合いは、必ずしも強いとはいえない」、「原告が被告によるなりすましによって受けた不利益についても、「原告の名誉権及び肖像権の侵害による不利益については別に不法行為上の保護を受ける」し、その余の不利益についても、なりすましは本件サイト内の投稿にとどまること、投稿の直後から他の本件サイト利用者により、投稿が原告本人以外の者によるものである可能性が指摘されていたことが認められること、なりすましは短期間(約1か月余り)であったこと、などの事実を総合考慮すれば、被告のなりすまし行為(名誉権侵害行為,肖像権侵害行為は除く)による原告の人格的な利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものとまでは認められない、として、本件のなりすまし自体は違法とまではいえないという判断をしました。

 つまり、名誉権肖像権の侵害は認め、プライバシー権アイデンティティ権の侵害は認めなかったということになります。ただ、後者の2権利についても、なりすましの行為態様によっては、侵害が認められる場合もあることを示しているので、参考になろうかと思います。

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