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2017年1月 7日 (土)

アイドルの恋愛禁止条項の効力についての判決(その2)

少し遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。

    本年もよろしくお願い申し上げます。

 昨年の判例時報の目次に目を通していたら、ファンと交際するなどした女性アイドルが芸能プロダクションから損害賠償を求めて訴えられていた裁判の判決で責任が肯定された、というのを見かけました。こういう判決について、ブログを書いたよなぁ、と思って探したら、ありました。1年前の記事でした。

「アイドルの恋愛禁止条項の効力についての判決」 (2016/1/18)

 これは、昨年(平成28年)の1月18日の東京地裁判決(下記第2事件)の報道に関するものでしたが、その際、上の判例時報の判決(平成27年9月18日東京地裁・下記第1事件)にも触れていましたね。ただ、この昨年1月の時点では、両判決とも判決文自体は読めていませんので、報道記事の内容と私の推測を交えた感想文になっていましたが、今回、両方の判決文を読むことができましたので、改めて記事にしておこうということで、今年最初の記事です。少し長くなりますが、タレントの契約における恋愛禁止条項の解釈について、特に第2事件については、なかなか面白い判決となっています。


【平成27年9月18日東京地裁判決(第1事件)の事案】

 被告Y1(女性アイドルタレント・15歳)が、原告X1(芸能プロダクション)との間で、芸能活動に係る専属契約を締結し、アイドルグループのメンバーとして芸能活動を行っていた。原告X2は、このアイドルグループについてX1との間でタレント共同運営契約を締結していた会社。被告Y2はY1の親権者(父親)。なお、ややこしいので、X1とX2を併せてXら、、Y1とY2を併せてYらと表記します。   
 そして、Y1が、男性ファンとラブホテルに入るなど専属契約に違反する行為をし、これにより、グループを解散せざるを得なくなり損害を被ったとして、Xらが、Y1に対しては債務不履行又は不法行為に基づき、親権者Y2に対しては民法714条1項(責任無能力者の監督義務者の責任)に基づき、合計約500万円の損害賠償金等の連帯支払を求めたという事案です。

 なお、専属契約には、Y1について「ファンとの親密な交流・交際等が発覚した場合」などの事項が発覚した場合、契約を解除して、X1はY1に損害の賠償を請求することができるものとされていました。   
 また、Y1は、専属契約締結の際、X1から「アーティスト規約事項」を受領していますが、この規約には、「私生活において、男友達と二人きりで遊ぶこと、写真を撮ること(プリクラ)を一切禁止致します。発覚した場合は即刻、芸能活動の中止及び解雇とします。 CDリリースをしている場合、残っている商品を買い取って頂きます。 異性の交際は禁止致します。ファンやマスコミなどに交際が発覚してからでは取り返しのつかないことになります。(事務所、ユニットのメンバーなどに迷惑をかけてしまいます)」という定めがありました。

 結論からいうと、判決(児島章朋裁判官)は、Y1にXらへの合計約65万円の損害賠償金の支払を認め、Y2への請求は全部棄却しています。

【平成28年1月18日東京地裁判決(第2事件)の事案】

 こちらは、原告X(芸能プロダクション)が、Xとの間で専属マネージメント契約を締結した被告Y1(女性アイドルタレント・契約当時は未成年)、被告Y2,Y3(親権者・両親)、被告Y4(Y1と交際したファン)に対して、Y1とY4が交際を開始し関係を持ち(当時は両者とも成年)、共謀してイベント等への出演を一方的に放棄するなどしたとして、Y1(債務不履行又は不法行為)とY4(共同不法行為)に対しては約880万円の連帯支払、Y2とY3に対してはY1の行為について管理監督を行うべき信義則上の義務に違反したとして110万円の連帯支払を求めたという事案です。

 こちらの契約では、「XがY1の出演業務に関して第三者との間で契約を締結した場合には、Y1はXの指示に従って誠実に当該出演業務を遂行しなければならない。」、「(損害賠償請求ができる事由として)〈1〉 いかなる理由があろうと仕事や打ち合わせに遅刻、欠席、キャンセルし、原告に損害が出た場合 〈3〉 電話もしくはメールで連絡が付かず損害が出た場合 〈8〉 ファンと性的な関係をもった場合 またそれにより原告が損害を受けた場合 〈11〉 あらゆる状況下においても原告の指示に従わず進行上影響を出した場合 〈13〉 その他、原告がふさわしくないと判断した場合」という定めがありました。なお、この契約にはY2も親権者として署名押印しています。

 なお、本件契約については、Y1は、メール(平成26年7月11日)および内容証明郵便(同月26日付)で、Xに対して、グループを脱退し、契約を解除する旨の意思表示を行っています。

 こちらの判決(原克也、中野達也、藤田直規裁判官)は、全ての請求が棄却となっています。


 まず、第1事件で、裁判所が女性アイドルの責任を認めた構成ですが、Y1はグループで活動するにあたり、交際禁止条項について説明を受け、その内容を認識していた事実が優に認定できる、とし、専属契約においては、交際等がX1に発覚した場合について規定しており、規約においては、ファンへの交際発覚を含む旨を明確に記載しているから、本件の交際がファンやXらに発覚したことが交際禁止条項の違反にあたることは明らかである、としました。そして、不法行為責任についても、「異性とホテルに行った行為自体が直ちに違法な行為とはならないことは、Yらが指摘するとおりである。しかし、Y1は当時本件契約等を締結してアイドルとして活動しており、本件交際が発覚するなどすれば本件グループの活動に影響が生じ、Xらに損害が生じうることは容易に認識可能であったと認めるのが相当である。そうすると、Y1が本件交際に及んだ行為が、Xらに対する不法行為を構成することは明らかである。」とし、債務不履行および不法行為を負う、としました。

 第1事件での損害賠償額ですが、Xらそれぞれへの信用毀損(各200万円の請求)は、その事実は認められないとされ、Tシャツの作成費、レコーディング費用、レッスン費用などの費用のみが損害とされたうえで、過失割合について、「Xらが芸能プロダクションとして職業的にアイドルユニットを指導育成すべき立場にあることや、Y1が当時未だ年若く多感な少女であったことなどを踏まえると、本件交際における過失割合は、Xらが40、Y1が60とするのが相当である。」として、上記費用の6割が損害賠償額とされたものです。

 なお、第1事件での、父親Y2の責任については、「本件契約等の締結時及び本件交際当時において、Y1は15歳の未成年であったところ、Y1は、X1との間で本件契約等を締結して本件グループでアイドルとして活動していたのであるから、通常の同年齢の者が有する事理弁識能力を有していたことは明らかである。」として、Y2は、民法714条1項の監督義務者等にはあたらないから、本件において責任を負うことはない、と判断しています。

 次に第2事件の判決(全部請求棄却)の判断です。

 判決は、まず、Y1の行為は、少なくとも形式的には本件契約の上記各条に違反するように思われる、としましたが、本件契約は雇用類似の契約であり、「本件契約の規定にかかわらず、民法628条に基づき、「やむを得ない事由」があるときは、直ちに本件契約を解除することができる」とし、本件では、この「やむを得ない事由」があったとして、内容証明郵便が到達した平成26年7月27日に契約解除の効力が発生した、としました。この「やむを得ない事由」に関して、判決は、「本件契約は、「アーティスト」の「マネージメント」という体裁をとりながら、その内実はY1に一方的に不利なものであり、Y1は、生活するのに十分な報酬も得られないまま、原告の指示に従ってアイドル(芸能タレント)活動を続けることを強いられ、従わなければ損害賠償の制裁を受けるものとなっているといえる。ゆえに、本人がそれでもアイドル(芸能タレント)という他では得難い特殊な地位に魅力を感じて続けるというのであればともかくとして、それを望まない者にとっては、本件契約による拘束を受忍することを強いるべきものではないと評価される。このような本件契約の性質を考慮すれば、Y1には、本件契約を直ちに解除すべき「やむを得ない事由」があったと評価することができる。」という注目すべき判断を行っています。
 そして、この事由は、Y1の過失によって生じたものではないから、解除による損害賠償義務(民法628条後段)をY1が負うことはない、としたのです。ここのところで、判決は、恋愛禁止条項違反の場合の損害賠償義務について、興味深い判断をしていますが、これは最後に書きます。

 したがって、Y1が平成26年7月20日のライブに出演しなかった行為と解除の効力発生前の7月26日までの7日間に本件グループの活動に従事しなかった行為は、Xに対する債務不履行に該当するけれども、解除の効力発生後の活動停止については、債務不履行に該当しない、とし、業務妨害ないし債権侵害の不法行為のXの主張についても、本件契約はY1にとって一方的に不利な面が強く、やむを得ない事由があるとしてこれを解除することはY1の正当な権利行使と認められるから、そのような不法行為に該当するとは認められない、としました。

 しかし、7日間については、Y1の債務不履行があったという判断にはなるのですが、判決は、この期間において、Xの主張するグッズの在庫、逸失利益、信用毀損などの損害が生じたとは認められない、として、結局、損害賠償請求を認めなかったものです。

 Y2、Y3(両親)の監督義務責任については、「そもそも一般的に成年に達した者が、マネージメント契約に基づきアイドル(芸能タレント)活動を行うのに際して、その者の父母が契約の相手方に対して何らかの責任を負う根拠はないと考えられる。」としたうえで、本件契約締結時Y1は既にその時点で19歳9か月であり、アイドル(芸能タレント)としての活動拠点もY2夫妻が暮らすH市から遠く離れた東京都内であった上、Y1がY4と交際を開始したと認められる平成25年12月には既に成年に達していた。」とし、「Y2夫妻は、Y1の生活及び活動状況について、原告の主張するような管理監督義務を原告に対して負うとは認められない。」としました。

 Y4(交際相手のファン)については、Y1の責任が認められない以上、当然責任を負わないことにはなるのですが、判決はこれに付言して、「異性に恋愛感情を抱くことは人としての本質の一つであり、その具体的現れとして当該異性と交際すること、さらに当該異性と合意の上で性的な関係を持つことは、人の幸福追求権の一場面といえる。まして、Y4は、一ファンに過ぎず、被告Y1と異なり、アイドルではなく、原告との関係で何らかの契約関係の拘束を負うものでもない。それゆえ、Y4においては、原告との関係で、契約上はもちろん一般的にも、Y1と交際し、さらにY1と合意の上で性的な関係を持つことを禁じられるような義務を負うものではないから、Y1と交際し、性的な関係を持った事実をもって、原告に対する違法な権利侵害と評価することはできないというほかない。」と言っています。

 この恋愛禁止条項違反行為については、判決は、Y1の責任判断の際、Y1の契約解除の効力発生時についての判断のところで、以下のように述べています。

確かに、タレントと呼ばれる職業は、同人に対するイメージがそのまま同人の(タレントとしての)価値に結びつく面があるといえる。その中でも殊にアイドルと呼ばれるタレントにおいては、それを支えるファンの側に当該アイドルに対する清廉さを求める傾向が強く、アイドルが異性と性的な関係を持ったことが発覚した場合に、アイドルには異性と性的な関係を持ってほしくないと考えるファンが離れ得ることは、世上知られていることである。それゆえ、アイドルをマネージメントする側が、その価値を維持するために、当該アイドルと異性との性的な関係ないしその事実の発覚を避けたいと考えるのは当然といえる。そのため、マネージメント契約等において異性との性的な関係を持つことを制限する規定を設けることも、マネージメントする側の立場に立てば、一定の合理性があるものと理解できないわけではない。    
 しかしながら、他人に対する感情は人としての本質の一つであり、恋愛感情もその重要な一つであるから、かかる感情の具体的現れとしての異性との交際、さらには当該異性と性的な関係を持つことは、自分の人生を自分らしくより豊かに生きるために大切な自己決定権そのものであるといえ、異性との合意に基づく交際(性的な関係を持つことも含む。)を妨げられることのない自由は、幸福を追求する自由の一内容をなすものと解される。とすると、少なくとも、損害賠償という制裁をもってこれを禁ずるというのは、いかにアイドルという職業上の特性を考慮したとしても、いささか行き過ぎな感は否めず、芸能プロダクションが、契約に基づき、所属アイドルが異性と性的な関係を持ったことを理由に、所属アイドルに対して損害賠償を請求することは、上記自由を著しく制約するものといえる。また、異性と性的な関係を持ったか否かは、通常他人に知られることを欲しない私生活上の秘密にあたる。そのため、原告が、Y1に対し、Y1が異性と性的な関係を持ったことを理由に損害賠償を請求できるのは、Y1が原告に積極的に損害を生じさせようとの意図を持って殊更これを公にしたなど、原告に対する害意が認められる場合等に限定して解釈すべきものと考える

 それぞれの立場からむずかしい微妙な問題ではあるのですが、なかなか含蓄のある判断ではないか、と思います。

【追記】(7/9)
 NHKで、公正取引委員会が、芸能プロダクションと芸能人の契約について、独占禁止法上の問題に関して調査に乗り出したとの報道がありましたので、別記事を書きました。

 優越的地位の濫用などに関しては、上の恋愛禁止条項も無関係ではありません。

 ご興味のある方はご覧下さい。

→ 「芸能プロダクションと芸能人との契約について公取委が調査との報道」(2017/7/8)

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