「忘れられる権利」を明記した仮処分認可決定(さいたま地裁平成27年12月22日)
最近では、「忘れられる権利」という言葉は、情報法関係者以外の一般の場でも用いられるようになってきました。ただし、「忘れられる権利」といっても、必ずしも定義が一定しているわけではありません。EUでの議論ではかなり広範な権利として検討されているようですが、日本では、一般的には、まだ議論が始まったばかりというところかと思います。
しかし、最近は、こういった過去の事柄に関する事項の削除を求める裁判所への申立(訴訟や仮処分)は日本でもいくつか出てきています。この場合、インターネット上の過去の犯罪歴などの情報元の記事等自体の削除を求める場合、GoogleやYahoo!などの検索サイトにおいて検索結果に出ないよう削除を求める場合、同じく検索サイトの検索サジェストの候補に出てこないように求める、など事案に応じて請求の内容、相手方は違っています。
そして、こういった事案の裁判では、既に、削除の申立が認められている例もあるのですが、これまで裁判所が「忘れられる権利」という言葉で権利を認めたものはなかったようです。
ところが、昨年(平成27年)12月22日のさいたま地裁での仮処分事件に関する決定で、「忘れられる権利」があるとの判断が示されたことが、本日報道されています。
この決定は、神田知宏弁護士公式サイト(後掲)によれば、平成27年6月25日のさいたま地裁決定に対する保全異議事件の認可決定とのことです。つまり、最初の仮処分決定で、申立人の削除請求が認められたのに対して、Google側が不服を申し立てた裁判で、さいたま地裁が再び申立人の請求内容を認めた、という形になります(認可決定)。なお、この事案は、Googleの検索結果から、自身の逮捕に関する記事の削除を求めた、というものですね。
この認可決定の中で裁判所は、「一度は逮捕歴を報道され社会に知られてしまった犯罪者といえども,人格権として私生活を尊重されるべき権利を有し,更生を妨げられない利益を有するのであるから,犯罪の性質にもよるが,ある程度の期間が経過した後は過去の犯罪を社会から「忘れられる権利」を有するというべきである。」としてたようです(神田弁護士公式サイトによる)。
なお、神田弁護士は既にTwitterで昨年12月24日にこの決定を報告され、今年1月2日の公式サイト記事で本決定について解説をされています。なので、マスコミ報道が今頃になってなされているのはなぜかな、とは思いますが。
→ 神田知宏公式サイト 「地裁決定が「忘れられる権利」に言及した理由の考察」
【追記】(2/29)
報道によれば、上記認可決定に対して、Google側は不服を申し立て(保全抗告でしょうね。)、現在、東京高裁で審理中とのことです。高裁がどういう判断を示すか注目ですね。
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