独占禁止法の裁判管轄の拡大を求める大阪弁護士会会長声明
恥ずかしいことに、自分の所属会でありながら、さっきまで知らなかったんですが(苦笑)、「独占禁止法の裁判管轄の拡大を求める会長声明」が大阪弁護士会から公表されています(4月30日)。
→ 会長声明(PDF)
現在国会審議中の独占禁止法改正案では、これまでの公正取引委員会による審判制度を廃止して、排除措置命令などの不服審査を裁判所の訴訟手続で行うこととなる予定です(まだ、国会審議は実際に始まっていないようですが)。また、従前は東京高裁の専属管轄であった独占禁止法25条の損害賠償請求訴訟手続の管轄を東京地裁の専属へと変更することになっています。
そして、今回の大弁会長声明は、この不服申立の訴訟手続や独占禁止法25条の損害賠償請求訴訟手続についての管轄が東京地裁の専属とされた点に対して、反対する内容となっています。私もこの意見に賛成します。
改正案が、訴訟管轄を、東京地裁に限定した理由は、独占禁止法違反事件が専門性の高い事件であり、判断の合一性を確保するとともに、専門的知見の蓄積を図ることが挙げられているようです。
大企業であれば、そのほとんど全ては東京に本店あるいは主要な拠点を有しており、東京地裁に限定されても問題はほとんどないでしょう。しかし、独占禁止法違反事件で公正取引委員会の命令の対象となるのは、必ずしも大企業だけではありません。地方の公共工事談合事件をはじめとして、各地方の中小企業も排除措置命令や課徴金納付命令の対象となることは決して少なくありません。昨年の改正で一部の「不公正な取引方法」についても課徴金の対象となったこともあり、今後も地方企業に対する適用事案が増えていくものと思われます。
これまでも、独占禁止法25条訴訟が東京高裁専属である点は批判されてきました。独占禁止法違反行為で被害を被るのは、中小零細企業や一般消費者です。それが東京でしか裁判が行えないとすれば、地方の企業、消費者が闘うには経済的、時間的コストの負担が馬鹿になりません。したがって、この訴訟管轄を、せめて高等裁判所所在地の8地裁か、そうでなくても東京、大阪の2地裁に管轄を認めるべきだという意見も強くありました。しかし、今回は、25条訴訟の管轄を東京1ヶ所のままとしたうえ、排除措置命令などに対する不服申立の訴訟管轄も東京地裁のみとされようとしているのです。
改正案が、管轄権を東京地裁に限る理由である高度の専門性についてですが、今回の大弁会長声明でも述べられているように、行政事件、労働事件、知的財産事件などなどの事件は、それぞれに高度な専門性が必要なものです。しかし、これらについても東京だけの専属管轄ということはありません。
まとめの代わりに、大弁会長声明の最後の部分を引用しておきます。
「また、今回の改正法案は、審判制度を廃止し、公正取引委員会の行った処分の適法性の審査を裁判所に委ねるものであるから、被処分者が処分の取り消しを求めたり、被害者が法第25条の無過失損害賠償請求権を行使する裁判所を、東京地裁に限定するのは、行政訴訟改革の一環として、国に対して不服を申し立てるにあたっては、申し立てる者の住所または居所をもとに定まる管轄地方裁判所にも提訴できる道が開かれたこと(行政事件訴訟法第12条第4項)とも矛盾し、東京圏以外の地方に在住する市民や事業者の権利救済の道を狭めるものであり、司法の行政に対するチェック機能の強化や市民が利用しやすい司法制度を実現することを目指す司法制度改革の理念に逆行するものである。
本会は、地方在住の事業者や市民の権利擁護の立場から、不服申立て等の提訴先を東京地裁に限定することなく、高等裁判所所在地を管轄する地方裁判所に認めること、もし、それがかなわないとすれば、少なくとも西日本の事業者や市民の権利擁護のために大阪地裁にも裁判管轄を認めるように、今国会に提出された独占禁止法改正法案の修正を強く求めるものである。」
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