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2009年5月 1日 (金)

「体罰」に該当しないとした最高裁判決

 これも先日マスコミで大きく取り上げられた最高裁判決。前回記事の除斥期間についての判決と同じ日の同じ第3小法廷による判決です。

 新聞記事などでは、「胸ぐらをつかむ」指導行為が体罰かどうか、というような表現をしていて、ネット上などでも同様の視点からの意見が多いようです。ただ、以下の判決文を見てもらえばわかるように、最高裁も単純に「胸ぐらをつかむ」指導は体罰ではなく許されるとしているわけではありません。あくまでも本件のケースにおいて本件の態様での当該行為に違法性がない、と判断したわけで、具体的な事情によっては、「胸ぐらをつかむ」指導行為であっても、行き過ぎた体罰だと判断される可能性は否定できません。本件に関しては、最高裁判決は妥当なものではないか、と思います。

 平成21年4月28日 最高裁第3小法廷判決(破棄自判)

 事案は、当時、市立小学校2年生男子の原告(被上告人)が、小学校の教員Aから体罰を受けたと主張して、市(上告人)に対して、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた裁判です。原審福岡高裁は、この男子生徒の請求について、慰謝料10万円など合計21万4145円と遅延損害金の支払を命ずる限度で認容していました。

 最高裁判決に掲げられた、原審判決の認定事実の概要は、

  1.  被上告人は,平成14年11月当時,本件小学校の2年生の男子であり,身長は約130㎝であった。Aは,その当時,本件小学校の教員として3年3組の担任を務めており,身長は約167㎝であった。Aは,被上告人とは面識がなかった。
  2.  Aは,同月26日の1時限目終了後の休み時間に,本件小学校の校舎1階の廊下で,コンピューターをしたいとだだをこねる3年生の男子をしゃがんでなだめていた。
  3.  同所を通り掛かった被上告人は,Aの背中に覆いかぶさるようにして肩をもんだ。Aが離れるように言っても,被上告人は肩をもむのをやめなかったので,Aは,上半身をひねり,右手で被上告人を振りほどいた。
  4.  そこに6年生の女子数人が通り掛かったところ,被上告人は,同級生の男子1名と共に,じゃれつくように同人らを蹴り始めた。Aは,これを制止し,このようなことをしてはいけないと注意した。
  5.  その後,Aが職員室へ向かおうとしたところ,被上告人は,後ろからAのでん部付近を2回蹴って逃げ出した。
  6.  Aは,これに立腹して被上告人を追い掛けて捕まえ,被上告人の胸元の洋服を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ。」と叱った。
  7.  被上告人は,同日午後10時ころ,自宅で大声で泣き始め,母親に対し,「眼鏡の先生から暴力をされた。」と訴えた。
  8.  その後,被上告人には,夜中に泣き叫び,食欲が低下するなどの症状が現れ,通学にも支障を生ずるようになり,病院に通院して治療を受けるなどしたが,これらの症状はその後徐々に回復し,被上告人は,元気に学校生活を送り,家でも問題なく過ごすようになった。
  9.  その間,被上告人の母親は,長期にわたって,本件小学校の関係者等に対し,Aの本件行為について極めて激しい抗議行動を続けた。

 そして、原審福岡高裁は、次の通り判断して、損害賠償請求を一部認容しました。

  1.  胸元をつかむという行為は,けんか闘争の際にしばしば見られる不穏当な行為であり,被上告人を捕まえるためであれば,手をつかむなど,より穏当な方法によることも可能であったはずであること,
  2.  被上告人の年齢,被上告人とAの身長差及び両名にそれまで面識がなかったことなどに照らし,被上告人の被った恐怖心は相当なものであったと推認されること等を総合すれば,本件行為は,社会通念に照らし教育的指導の範囲を逸脱するものであり,学校教育法11条ただし書により全面的に禁止されている体罰に該当し,違法である。

これに対して、今回の最高裁判決は原審の判断は是認できないとして、原審の一部認容判決を取り消して、請求棄却の自判をしました。最高裁の判断は以下の通り。

 前記事実関係によれば,被上告人は,休み時間に,だだをこねる他の児童をなだめていたAの背中に覆いかぶさるようにしてその肩をもむなどしていたが,通り掛かった女子数人を他の男子と共に蹴るという悪ふざけをした上,これを注意して職員室に向かおうとしたAのでん部付近を2回にわたって蹴って逃げ出した。そこで,Aは,被上告人を追い掛けて捕まえ,その胸元を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ。」と叱ったというのである。そうすると,Aの本件行為は,児童の身体に対する有形力の行使ではあるが,他人を蹴るという被上告人の一連の悪ふざけについて,これからはそのような悪ふざけをしないように被上告人を指導するために行われたものであり,悪ふざけの罰として被上告人に肉体的苦痛を与えるために行われたものではないことが明らかである。Aは,自分自身も被上告人による悪ふざけの対象となったことに立腹して本件行為を行っており,本件行為にやや穏当を欠くところがなかったとはいえないとしても,本件行為は,その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく,学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当するものではないというべきである。したがって,Aのした本件行為に違法性は認められない。

 この判決には、補足意見、反対意見等は付されていません。

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