2つの公取委審決取消訴訟判決(景表法・東京高裁)
今日は、また東京で夕方まで某社での会議に参加して帰ってきました。
帰宅してブログを見てみると、前の衣料品原産地不当表示についての記事に関してコメントをいただいていましたので、御指摘の「ベイクルーズ事件」と「ビームス事件」の審決取消訴訟判決について、ちょっと紹介をしておきたいと思います。もっとも、私に難しいことを書く能力はなく、いつもの通りの「覚え書き」です(と、逃げておこう)。。。
この両事件は輸入ズボンに関する同じ一連の事件です。
両事件の原告は小売業者ですが、それぞれ、外国会社から八木通商が輸入した「イタリア製」などと表示されたズボンを一般消費者向けに販売していました。ところが、このズボンの原産国はルーマニアだった、とされ、この原産地の不当表示に関して、2社と同様に販売していた他の業者を含めた小売業者5社及び輸入業者である八木通商の計6社に対して、公正取引委員会は、排除命令を出しました。
→ 公取委サイト報道発表資料(平成16年11月24日)
この排除命令対象事業者のうち、八木通商を除く5社はこれを争って、審判手続となりましたが、審決では、5社とも主張は認められませんでした。
→ 公取委サイト報道発表資料
・ユナイテッドアローズの審判審決(平成18年5月15日)
・ビームスとベイクルーズの審判審決(平成19年1月30日)
・トゥモローランドとワールドの審判審決(平成19年12月14日)
で、ビームスとベイクルーズが、それぞれ、この審決を不服として、東京高裁に取消訴訟を提起した事件についての判決が両事件判決です。公取委サイトの審決等データベースにリンクしておきます。
ビームス事件 平成19年10月12日東京高裁判決
ベイクルーズ事件 平成20年5月23日東京高裁判決
判決で争点とされているのは、
ビームス事件では、
(1)衣料品の原産国について
(2)本件商品がルーマニア製であるか否かについて
(3)個別具体的な公正競争阻害性の必要性について
(4)表示の主体について
(5)不当表示の無過失について
(6)本件審決の命じる排除措置の必要性について
(7)罪刑法定主義違反について
ベイクルーズ事件では、
(ア)原告が景品表示法4条1項3号に該当する不当な表示を行った
事業者(不当表示を行った者)に当たるか否か
(イ)本件品質表示タッグ及び本件下げ札に表示された本件原産国表
示は景品表示法4条1項3号の「表示」に該当するか
(ウ)本件原産国表示がなされたことについて原告に過失があること
が必要か
(エ)本件審決が命じる排除措置はその必要性があるか
(オ)原告に本件排除措置をとるよう命じることは平等原則に違反す
るか
(カ)原告に本件排除措置をとるよう命じることは裁量権の濫用か
となっています。(4)と(ア)、(5)と(ウ)は、同じ争点ですね。
この(4)と(ア)、すなわち、外国のメーカーが下げ札などの表示を付けた商品を輸入業者を通じて仕入れ、そのまま消費者に販売している小売業者が、表示の主体に当たるか否かという争点について、両判決の判断の一般論部分のを並べておきます。コメントをいただいたように、ベイクルーズ事件判決の理由のほうが、公取委の審判審決の理由をそのまま採用したものです。一方のビームス事件判決が、審判審決の解釈を変えた(ように読める)点につき、何らかの積極的な理由があるのかどうか、判決文からは見えにくいように思います。
〈ビームス事件判決〉
このような不当景品表示法の立法趣旨並びに条文の内容及び趣旨からすると,不当表示をした事業者とは,公正な競争を確保し,一般消費者の利益を保護する観点から,メーカー,卸売業者,小売事業者等いかなる生産・流通段階にある事業者かを問わず,一般消費者に伝達された表示内容を主体的に決定した事業者はもとより,当該表示内容を認識・認容し,自己の表示として使用することによって利益を得る事業者も,表示内容を間接的に決定した者として,これに含まれると解するのが相当である。
〈ベイクルーズ事件判決〉
商品を購入しようとする一般消費者にとっては、通常は、商品に付された表示という外形のみを信頼して情報を入手するしか方法はないのであるから、そうとすれば、そのような一般消費者の信頼を保護するためには、「表示内容の決定に関与した事業者」が法4条1項の「事業者」(不当表示を行った者)に当たるものと解すべきであり、そして、「表示内容の決定に関与した事業者」とは、「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」のみならず、「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」や「他の事業者にその決定を委ねた事業者」も含まれるものと解するのが相当である。そして、上記の「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」とは、他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した事業者をいい、また、上記の「他の事業者にその決定を委ねた事業者」とは、自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者をいうものと解せられる。
« 衣料品原産地不当表示の報道(「英国製」がマダガスカル製) | トップページ | 下請法に関する3題(中小企業庁・公取委) »
「法律」カテゴリの記事
- 不倫の相手方の損害賠償責任に関する最高裁判決(2019.02.19)
- 新聞購読勧誘の不当景品に関する立入検査報道(2019.02.14)
- 酵素健康食品のダイエット効果の不当表示(消費者庁)(2019.01.18)
- 民法(相続法)の改正(遺言の方式緩和)の施行(2019.01.09)
- ZOZO社長のお年玉宣言と独禁法・景表法(2019.01.07)
「裁判」カテゴリの記事
- 不倫の相手方の損害賠償責任に関する最高裁判決(2019.02.19)
- ベネッセ個人情報流出事件の判決(東京地裁)(2018.12.29)
- 「不貞慰謝料の算定事例集ー判例分析に基づく客観的な相場観ー」(新日本法規出版)(2018.11.04)
- 「星ドラ」ガチャの表示に関する判決(2018.09.21)
- 法律と「消費者」(2018.06.30)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/183277/43237282
この記事へのトラックバック一覧です: 2つの公取委審決取消訴訟判決(景表法・東京高裁):
« 衣料品原産地不当表示の報道(「英国製」がマダガスカル製) | トップページ | 下請法に関する3題(中小企業庁・公取委) »
コメント