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2008年6月26日 (木)

正当防衛に関する最高裁決定をもう一つ

 別に私は刑事事件の正当防衛に特に関心を持つわけではないのですが、このブログで正当防衛に関する裁判例を2件ばかり紹介してきました。
 → 直近記事は「『自招危難』に正当防衛を認めなかった最高裁決定」(5/27)
 で、正当防衛に関する最高裁の昨日の決定が最高裁サイトで公表されてましたので、成り行き上(?)ご紹介しておきます。「正当防衛」と「過剰防衛」については、条文だけ挙げておきますね。
 今回の事案は、暴行が2段階に分かれていて、結果的に死亡に至ったのは最初の暴行であった、というのと、最初の暴行と2番目の暴行との間の性質が異なる、という点がポイントです。

刑法36条
1項(※正当防衛※)
 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2項(※過剰防衛※)
 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

  平成20年6月25日最高裁第一小法廷決定
               傷害被告事件(上告棄却)

【事案】
 以前にも被告人に対して因縁を付けて暴行を加えたことがあった甲(被害者)が、被告人に対し「ちょっと待て。話がある。」と呼び掛けた。少し移動した所で、被告人は、甲からいきなり殴り掛かられ、これをかわしたものの、腰付近を持たれて付近のフェンスまで押し込まれた。甲は更に被告人をフェンスに押し付けて、ひざや足で数回けったため、被告人も甲の足を絡めたり、けり返したりした。
 その現場に甲の知人2名が近付いてきたため、被告人は、甲の知人らに対し「おれはやくざだ。」と威嚇し、甲の顔面を1回殴打した。
 次に、甲は、アルミ製灰皿(高さ60㎝)を被告人に投げつけた。被告人は、灰皿を避けて、反動で体勢を崩していた甲の顔面を殴打したため、甲は頭部から転倒して、後頭部をタイルの敷き詰められた地面に打ち付け、動かなくなった。(ここまでの被告人の暴行を「第1暴行」という)

 被告人は憤激の余り、動かなくなった甲に対し、「おれを甘く見ているな。おれに勝てるつもりでいるのか。」などと言い、その腹部等を足げにしたり、足で踏み付けたりし、さらに、腹部にひざをぶつけるなどの暴行を加えた。(この暴行を「第2暴行」という)

 甲は、第2暴行により、肋骨骨折、脾臓挫滅、腸間膜挫滅等の傷害を負った。救急車で搬送され、数時間後に頭部打撲による頭蓋骨骨折に伴うクモ膜下出血で死亡したが、この傷害は第1暴行によって生じたものであった。

【1審判決】
 過剰防衛による傷害致死罪が成立するとして、懲役3年6月の刑。

【原判決(東京高裁)】
 被告人の第1暴行については正当防衛が成立するが(つまり第1暴行による傷害致死は無罪)、第2暴行については,甲の侵害は明らかに終了している上、防衛の意思も認められず、正当防衛ないし過剰防衛が成立する余地はないから、被告人は第2暴行によって生じた傷害の限度で責任を負うべきであるとして、被告人の正当防衛行為により転倒して動かなくなった甲に対し、その腹部等を足げにしたりなどし、さらに腹部にひざをぶつけるなどの暴行を加えて、肋骨骨折等の傷害を負わせたもので、傷害罪が成立するとして、懲役2年6月の刑。
 死亡の結果と第2暴行は関係ないので傷害致死罪ではなく、結果的に1審より軽い刑となった。

【最高裁決定】
 弁護側は、第1暴行と第2暴行は分断せず一体のものとして評価すべきであって、前者について正当防衛が成立する以上、全体につき正当防衛を認めて無罪とすべきであるなどと主張したのに対して、
 第1暴行で転倒した甲が更なる侵害行為に出る可能性はないことを認識した上で、被告人は専ら攻撃の意思に基づいて第2暴行に及んでいるのであるから、第2暴行が正当防衛の要件を満たさないことは明らか、とし、両暴行は、甲による侵害の継続性及び被告人の防衛の意思の有無という点で、明らかに性質を異にし,被告人が前記発言をした上で抵抗不能の状態の甲に対して相当に激しい態様の第2暴行に及んでいて、その間には断絶があるというべきである。両暴行を全体的に考察して、1個の過剰防衛の成立を認めるのは相当でなく、正当防衛に当たる第1暴行については、罪に問うことはできないが、第2暴行については、正当防衛はもとより過剰防衛を論ずる余地もないのであって、これにより甲に負わせた傷害につき、被告人は傷害罪の責任を負うというべき、として、原審判決の判断を維持した。

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コメント

素人の感情論ですが・・・
被告人の暴行を惹起させたのは、そもそも甲ですよね。
また、死亡が第一の暴行でそれは正当防衛とされると
死亡はしてないが、それに近いのに・・つまり死体に
対しての暴行って成立するのでしょうか。

また、普通、殴られて抵抗したときは、「カット」
なっていて相手の状況をみて暴行をとめられるもので
しょうか。
被告の弁護をするわけじゃないですけど、最初に手を
出したのは甲なので、なんとなく被告に同情みたいな
感情を持ちましたので。以上

 コメントありがとうございました。
 最高裁決定中に書かれている事情だけでは、よくわからない部分もあります。決定にはありましたが、ブログではカットした事情として、被告人が64歳、被害者の甲が76歳の男性(たぶん)というのがあります。
 この事実を付加するだけでも、想像した事件の絵柄が微妙に変わってくるかもしれませんね。さらに、双方の生い立ち、職業、人間関係、近くにいた2名の甲の知人、などの状況の情報の有無によっても、おそらく印象は随分違うのでしょうね。
 単純そうに見える事件でも(刑事でも民事でも)、事件は1つ1つ個性があります。裁判員制度になると、このあたりの個々人の受け止め方の違いも出てくるかと思います。

 なお、死体に対する暴行はないですが(死体損壊罪はあります)、死にそうな人に対する暴行(傷害)はもちろん成立します。もうすぐ死にそうな人に対して殴ることが許されるとは、一般的に考えてもとてもいえないですから。

 それと、感情論として、相手方の暴力への抵抗から暴行した被告人が気の毒、という点は、正当防衛や過剰防衛が成立しなくても、量刑において、情状面が考慮されることが普通です。

川村先生
回答ありがとうございました。
そうですか、64歳と76歳ですか・・・・・

最近、老人だからといって一家を惨殺したり等々の事件がありますが、なかなか「己の欲するところに従いて・・・」とはならないようですね。

それこそ、末法の世になっているのでしょうか。小職も、もう還暦に近いのですが、時々電車などで、キレそうになることもあります。

裁判員制度も、市民感情を入れることも大事でしょうが、素人が判断に加わることの危うさもなんとなく感じております。
今後も、ご迷惑でなければ先生のブログに書き込みをさせていただきたいと存じます。
以上

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